98 怖くないか?
「怖くないか?」
すでに日は西に傾いている。
道はいったん谷へ降りていき、沢に達すると流れに沿って、ゆっくり登っていくことになる。
「先生が怖いって、思ったことないです」
「あ、そうじゃなく」
……夕方になって山に行くことが……。
ランの足取りに全く不安はない。
このフィールドワーク授業は楽しい一方で気を遣う。
歩きやすい服装と靴で、とどれだけ念を押しておいても、毎年、フリフリのスカート姿で、しかもパンプスで参加してくる学生がいる。
デートでもあるのだろう。
あくまで自己責任だぞ、とはいっても気が気ではない。
「空模様が怪しい。急ぐぞ。しんどくなったら言ってくれ」
「大丈夫ですって!」
ランは心底楽しんでいるのか、声まで生き生きとして、瞳はますます輝きだす。
もちろんほくろは特大に。
アケビ探しは後回しにして、まずは目標地点の滝まで。
事前踏破が優先だ。
「山道、慣れてるね」
それほど、ランの足取りは軽い。
若いから、というだけではない。
身のこなしが普通の女性とは、いや、若い男性であってもかなわないのでは、と思うほどに軽々と障害物を超えていく。
倒木が道をふさいでいたり、道にガレた区間があったり、山肌から染み出た水が径を横断していたり。
夏に背丈を超えて育った草が倒れ、踏み越えていかねばならない場所があったり。
通れないことはないが、来週の授業では難渋する学生が多発するかもしれない。




