99 もうそのどなたかは、ここにはおわしますまい
「無理かもな」
「授業?」
「ああ。君だけなら何ともないけど……」
「そうですねえ。リエちゃんとか」
と、学友の名を出した。
とは言いつつも、とりあえずは滝のある所までは行ってみよう。
今、時間にして二十分。
いつも通りだ。下見としては。
「来週の授業、ヤメだな」
「いやよ!」
ランが言った。笑いながら。
しかし、唐突にも思えるきっぱりした調子で。
「だって、これ、楽しみにしてるんですよ! 私」
先に立ったり、追い越されたりしながら、細い、消えていきそうな山道を登っていった。
滝は思っていたより増水していた。
ただ、さほど降ってはいないので、濁ってはいない。
木々に夕陽を遮られて薄暗い中、青みががかった色を見せながら広い範囲に飛沫を上げている。
軽く落胆した。
学生たちはこの滝を見て、だれもが感嘆の声を上げるのが常だ。
学校の裏にこんなところがあったなんて、素敵! というわけだ。
はしゃいだ子の中には、素足になって滝つぼに踏み入り、落ちる水に手を差し出したりする子もいる。
勢いあまって、靴のまま流れに入っていこうとする子もいる。
でも、ランは滝を見ても何も言わなかった。
見慣れたもののように、チラと目を向けただけ。
むしろ、祠にははっきりと嫌な顔をしてみせた。
山道は滝つぼで行き止まりになり、その少し手前、径に沿って小さな祠が祀られている。
自然石を積み上げた台座の上に平たく切った板石を組んである。
六十センチほどの立方体。
正面には格子状の鉄の扉が設えられてあるが、むろん錆びついて、いつ崩れ落ちてもいい状態だ。
上部にも平らな石が被せられ、これには分厚く土が積もり、苔とともに雑草が何本も生えている。
誰が祭られているのかわからないが、もうそのどなたかは、ここにはおわしますまい。
ただの石の箱。
「戻るか」
下りはランが先に立ち、飛ぶように駆け下りていく。
「走るな! 危ないぞ」
「平気です!」
もう、声が遠い。
「おい! 待たんかい!」




