96 木通とも書いてある
守衛のライトウェイ、初老の男性。
立派な体躯を持ち、いかにも門番という風貌。
少々、腹は出かかっているが、それも貫禄というもの。
正門前で起きる様々ないざこざに対応してきた。
学内に入ろうとする警察を追い返し、マスコミにも門前払いを食らわせ、日々訪れる営業マンをその訪問理由も聞かずに追い払う。
彼女ハントの、あるいは彼女を待つ若者たちの車を整列させ、学生たちにできるだけ声をかけて挨拶を促す。
時には宿直もこなすし、植栽の手入れもこの男の手による。
守衛は数人いるが、特にこのライトウェイと親しかった。
この男は植物好き。キャンバスの木々の様子やメンテナンスのことなど、挨拶代わりの話題にする仲だ。
今日も、裏山で撮影した写真を見せてくれるという。
珍しいものがあれば聞いておいて損はない。今から見に行くのも一興。
「先生、ほら、これ」
守衛が立ち上げたPCに、たわわに実ったアケビが映し出された。
「ほう」
「珍しいものじゃないが。とはいえ、こんなもの、今の子たちは知らないでしょう」
守衛は俺がこの時期、裏山に学生たちを連れて行くのを知っている。
「どこら辺に?」
こう問うのも予測していたのだろう。
壁に張り出された大学敷地全体図の上の端の方に、すでに赤い印が打たれてあった。木通とも書いてある。
「なるほど。そこまでは足を延ばさないなあ」
印は小滝のさらに上部にある。
残念ながら、学生たちにアケビの白いどろりとした果肉を見せたり、舐めさせてみたりするアトラクションは難しい。時間的にも行程的にも。
「そうですか。じゃ、ここは?」
守衛の太い指が地図を這った。
「確かこの辺にも」
あるという。




