80 学生食堂の隅の、あえて人目につくテーブル
「先生にご指導をお願いしたいんです」
俺は、あの日、ほとんど発言しなかった。
発言すればおのずとリーダーシップをとることになり、この繊細な課題に、自分の思いで学生たちを動かすことになりかねない。
あくまで学生たちの自主性のみで取り組んでほしい、と思っていた。
フウカにそう言った。
「はい。それはよくわかっています」
「君はリーダーだ。サークルもこの会議も」
「ええ。でも」
「応援するよ」
「はい……」
助け舟は出すつもりでいた。
例えば、進め方についてなど。
「殺人事件、という線で進めるというのはいい発想だったね」
殺人だと決めつけているわけでは毛頭ない。
ただ、そうしておけば、あらゆる可能性を否定せずに最大の活動を余儀なくされる。
しかも本気度が試されることにも繋がる。抜けたい人が抜けやすいということにもなる。
「今日は何を話し合うつもり?」
部活。
と言うのもおこがましいが、何しろ競馬を楽しむサークル。世間の視線は必ずしも芳しくない。
ギャンブル部と揶揄されることもしばしば。
純粋に予想を楽しみ、競馬場の雰囲気を楽しみ、競馬の物語を研究することによって、学生の人としての成長の一助と成すのだと説明しても、その経験のない人には通じない。
ましてや血統が、馬場コンディションが、ジョッキーとの相性が、生産牧場が、などと言おうものなら、競馬に嵌ったやつ、と白い目で見られるのがオチ。
木曜日の昼休みに部室に集合し、週末の予定を確認しあい、部長フウカから注意事項などが話される。
部室といっても、学生食堂の隅の、あえて人目につくテーブル。
学生課に申請すれば、各サークル専用の部屋が用意されるが、競馬サークルR&Hは申請していない。
できるだけオープンに見せておくこと。
これがサークル存続のために大切なこと、と考えているからである。
そして、掛け金のことをはじめ、普段の行いにまで、部員たちに規律ある行動を求めていた。




