63 当て字だらけの捻った名前
人の呼び名。
十数年ほど前から、ほとんどの場面で通称で通る。
よほどの重要な公的書類でない限り、実名を明かすことはない。
大学でも学生の実名を教師が知ることはないし、その逆もない。
たとえばフウカ。
実際はフウウカと読むらしいが、漢書きすれば「風雨香」。本名ではない。
他の学生にしてもそう。
神、猫・蘭、陽仁菜、瑠璃衣亜、愛穂梨、愛依愛依となる。
通称登録枠はひとり三つまで。
あまりに一般的、すなわち同名の通称が多数ある場合は、拒否される。
結果的に、当て字の多い少し手の込んだ、というか捻った名が多くなる。
それぞれに思いがあって、いろいろな名を自分に付ける。
場面、つまり交流のグループごとに使い分けている者さえいる。学校での通称とアルバイト先での通称は違うかもしれない、というわけだ。
mm差という当て字も、競馬サークルR&Hの顧問になることを機に改めて付け直した名。
クビサ、ハナサ、センチサ、というのも候補だったが、声にした時の滑らかさで決めただけのこと。
「もう少し、休んでいただいても大丈夫ですよ。しばらくここ、開けておきますから」
看護師は言ってくれるが、もうその必要はない。体や意識にどんな異常もない。
「お世話になりました」
と、辞そうとしたが、なおも声をかけてきた。
「ご職業、伺ってもいいでしょうか」
え?




