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62/559

62 mm差

 看護師の顔が視界に覗き込んできた。


「原因はここではわかりませんので、病院で検査していただかないといけませんが」

 できることはもうないことを、すまながってくれる。



「これまでも、こういうことがあったとか、心当たり、ありませんか?」


 心当たりはない。急に意識を失うなど……。


「身体、動かせますか?」

「大丈夫みたいだ」


 恐る恐る腕や足を上げ下げし、首を回し、体を捩じってみたが、痛いところはないし、どんな違和感もない。


「怪我はないようだ」

「ええ。呼吸や脈拍も安定していますし、心電図も血中酸素濃度も正常です」



 ゆっくり大きく息を吸い、吐き出した。

 急速に意識がしっかりしてくる。


「念のため、救急車を呼びましょう」

「いえ、それには及びません」


 体を起こし、体に異常がないことを確かめ、ベッドから降りようとした。


「大丈夫です」



 医務室のドアが開いた。


「先生!」

「遅いよ、ハルニナ先輩!」


 フウカの叱責を無視し、ハグでもしそうな至近距離に立ったハルニナ。

「もういいんですか?」

「ああ、大丈夫」



 先ほど見たあの記憶の断片。

 実際あったことだろうか。

 ハルニナのエメラルドのような透き通る瞳。

 記憶とは違い、心配そうだ。

 やはり、幻影だったのか……。



 看護師が点滴の針を抜き、書類を突き付けてきた。


 後ろでジンがフウカに言っている。

 先輩って言ったでしょ。

 そりゃ、こういうときだし。



「ここにご署名を」

 彼女の働きを証明するために。


 できるだけ丁寧な文字で「mm差」と記入した。


 普通、そう書くと、面白いですね、などと、なにがしかの反応があるものだが、看護師は名の意味を問うこともなく、腕時計をみて時刻を書き込んだ。


 つられて時計を見た。

 十六時四十分。

 第十二レースが終わって、さほど時間は経っていない。


 あ。

 そういや、ユーペリオンはどうなった?

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