25 妙にここだけ掃かれたように
おっ。
おおっ!
径から少し上ったことで、遠く木々越しにまた街の灯がちらちら見えた。
よし。
いいぞ。
もうすぐ朝が来る。
空はそんな様子。
そうすれば、歩きやすくなるだろうし、あの化け物石も夜明けとともにおとなしくなるかもしれない。
雨よ、やめ!
陽よ、差してくれ!
あの蛇も、もう来やしないだろう。
が、その場に蹲った。
呼吸を整えねば。
もう、まともに動けない。
「おのおのがた……」
もう冗談も言えないほど息が上がっている。
祠の石は回っているばかりで、襲ってはこない。
今のところは。
しかし実際は、足だけでなく、頭も働いていなかった。
ただ呆然と、街の灯と祠を見比べていた。
一息。
まずはここで一息。
なんだ、クソ!
ふう!
ふう!
ゼエ、ゼエ。
ゼヒッ、フハッ。
ゼヒュ、ゼヒァ。
スーーッ、ハッ。
スーーッ、ハッ。
スーーッ、ハッ。
ハ、ヒューーー!
ハ、ヒューーー!
視線を足元に落とした。
妙にここだけ掃かれたように、落ち葉は積もっていない。
何気なく、白いものを拾い上げた。
獣の骨、か?
急に気持ちが悪くなって周りを見た。
鹿であろうと猪であろうと、死体の上に座り込むのは気持ちのいいものではない。
くそったれ!
ゆるゆると立ち上がった。
何の骨か知らないが、散らばっている。
狐や狸の骨ではない。
そんな量ではない。
えっ。
これは!
猿か!
ええええっ!
頭蓋骨?
人!
人骨!
わ、わ、わわっ!
白い衣服の名残。
赤い靴。
もう後も見ずに、走り出した。
走って走って、道に飛び降りては転び、木の根に躓いては転び、それでも全速力で山を駆け下った。
建物が見えてきた。
フェンスが行く手を阻んでいる。
小さなドア。
鍵のかかった扉。
その前にへたり込んだ。
そうだ!
電話!
しかし、それら文明の利器は放電してしまっていた。
スマホだけではない。すべての電子機器は使えなくなっていた。
雨に濡れたからではない。
なぜか、わからない。
くそ!
役立たずめ!
待つしかないのか、誰かが来るのを。
待つしかないのか……。
まだ、夜明け前。
濡れた衣服が体温を奪ってゆく。
額から手から、血が流れている。
ズボンは破れ、脛のあたりは傷だらけ。
だが、ただ蹲って、待つのみ……。
人骨をつかんだ指の感触を拭いもできずに。




