嘆願
「そうか…」
手渡されたヴァルディアの外交文書を前に、アレクサンドルはそれだけを呟く。
「陛下、いかがされますか?!」
宰相アルバーニの言葉にパタンと外交文書を閉じると、しばし熟考する。
「…ヴァルディアとは先々代から何十年もかけて友好関係を深めてきた。
それを『アクシデント』でふいにすることは出来ない。
諦めと覚悟を交えた表情。
「では、この要求に同意を?」
「そなたたちには、苦労を掛ける」
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夜。
エヴァルカ陸軍駐屯地。
「中隊長、少しいいでしょうか?」
空き地に建てられたテントの中。
コーヒーを飲んでいたシュヴァルツの下に、部下のハーツ伍長がやってくる。
「どうした?」
「は、王都の商人を名乗る一団が、我々に取引をしたいと申してきております」
「王都の商人?」
脈絡のない話に困惑するシュヴァルツ。
「いかがされますか?」
「リーダーだけ通せ、ただし身体検査を徹底しろ」
「承知いたしました」
ハーツが去って少しした後、二人の兵士に挟まれて商人がやってくる。
「…商人じゃないな」
商人の足取りやガタイの良さにそう直感するシュヴァルツ。
テントの入り口で足を止めさせ、商人の素性を尋ねる。
「…ガンダル王国軍南方面軍司令副官ギザミです」
「どのようなご用件で?」
まさかに肩書に驚くも、警戒しつつ目的を尋ねる。
「カレッサ様をお助け願いたい」
片膝をつき、シュヴァルツにそう嘆願する。
「詳細を聞かせて貰おうか?」
「はい」
距離を置きながら、ギザミは仔細を話し始める。
「話は分かりました。
ひとまずは、あなた方を占領地であるワグスに護送いたします。
カレッサ将軍の救出に関しては、翌日以降に取り掛かれるかと」
「ありがとうございます、将軍をよろしくお願いいたします」
退室するギザミ。
翌日の夜明け、ギザミたちを乗せた兵員輸送車両がワグスに向かって出発する。
「……」
ギザミたちの目に映る、変わり果てたワグスの港。
王国の旗は鯨を象った外国の旗になっており、海にはヴァルディアのような鋼鉄の軍艦が堂々と浮かんでいる。




