新たな取引
「こ、これは…」
夕刻、壊滅したワグス湾を見て絶句するゴルドバーグ。
王城で開かれた祝賀パーティに出席している商会長に代わって、届いた急報の真偽を確かめに飛空艇で飛んで来た彼だが、商船はもちろん、莫大な資金を投入して設置したヴァルディア製の巨大クレーンがすべて倒壊し、海に沈んでしまっている現状に茫然自失している。
港湾には空母イスカを中心とした軍艦が停泊し、総督府にはランデル国の国旗が掲揚されている。
戦勝気分に浸っていた人々は急転直下の事態に理解が追い付かず、大部分が家にこもり、メインストリートには酒瓶や食べかけの食事、倒れたイスや投げ出された荷物など、当時の混乱がそのまま残されている。
「わりぃな、副商会長」
ゴルドバーグの後ろから声をかけるベルガー。
その隣には目付としてガロンが立っている。
「べ、ベルガーこれはいったい!?」
「それに関しては隣の狼に聞いてくれ」
ガロンに話を振るベルガー。
「私はランデル国海軍中将のガロン・エルカウラ。
この度、わがランデル国はレイリア王国救援を目的に、ガンダル王国を攻撃目標に軍事介入を行いました」
「なっ…!」
ガンダル王国が攻撃目標と聞いて、動揺するゴルドバーグ。
「ご心配なく、我々の攻撃対象は軍事関係及び兵站拠点です。
あなた方民間人および一般の都市は攻撃対象ではありません」
「そ、それはどうも」
攻撃対象ではないと聞いて少し安堵するゴルドバーグ。
「ところで、あなたは商人の様ですが、セントリオ商会をご存じですか?」
「ガロン中将、こいつがそのセントリオ商会の副会長だ」
ゴルドバーグを見てそう答えるベルガー。
「そうでしたか、では取引しましょうか」
「取引!?何をお求めですか?」
いきなり取引を持ち掛けられたことに驚くゴルドバーグに、彼はとある名簿を手渡す。
「こ、これは…!」
名簿を開き、驚愕するゴルドバーグ。
そこには失踪したと思っていたサクルティスを始めとする、交易船のクルー全員の名前が記されている。
「サクルティス達をお返しする代わりに、我々に御協力願いたい。
具体的には、これから到来する陸軍十万人分の兵站の確保を手伝っていただきたい」
「な…ま、待ってください。
さすがにこれは、私の独断で決めることは…」
「いいでしょう」
唐突に聞こえた声に、振り向く全員。
そこにはブラウを連れたオルランの姿。
「いやはや、一日もしないうちにこれほどの戦果を挙げるとは、お見事でございます」
あからさまなおべっかでガロンにおもねるオルラン。
「商会長、いらしていたとは…」
「貴方がパーティ会場から慌てて退室したのを見て嫌な予感がしましてね、急行したのですが、まさかこうなっているとは…」
「わりぃな、商会長。
いきなりのことで手も足も出せなかった。
せっかくのクレーンも、この通りだ」
「相手が一枚上手だっただけのことです。
それに、この損失も、彼さえいれば十分に取り戻せます」
「…では、取引成立ということでよろしいですね?」
オルランの発言をそう解釈するガロン。
正式な契約がエル・ゼナ立会いの下で総督府で交わされ、一週間後にサクルティスを始めとするメンバー全員がセントリオ商会に送還された。




