転変の時
早朝、城の鐘が荘厳に鳴り響く。
ベッドから起き上がると、顔を洗い鏡を見て容姿を整える。
窓から見れば風が音を立てて強く吹き、海は荒れている。
隣に置かれた新品のマント付きの鎧。
せめて騎士として死ねるようにとの、カレッサからの気遣いである。
部屋の鍵を開ける音がガチャンと鳴る。
「出ろ」
看守長の短い指示。
看守兵に前後を挟まれながら、レイグスコ城の中央尖塔の一室に向かう。
扉が開くと、そこには教会のようなデザインの部屋。
レイリアの宗教に合わせて改修されており、エルフの司祭が立っている。
「...セストリア様」
見知った顔の司祭。
王都にある聖堂を取り仕切っていた大司教。
「構うな」
「はっ...」
ゴホンと咳払いして経典を開き、祈りを捧げるごと三十分。
城外の時計塔にある大時計の針は既に七時五十分を差している。
「時間だ、行くぞ」
兵士に連れられ、教会堂を後にするセストリアに、大司教は静かに頭を下げて祈る。
中央尖塔の長い螺旋階段を一段一段ゆっくりと上る。
ようやく最上階にたどり着くと、そこにいたのは剣を持ったアルスの姿。
王国一の剣士として名高く、王女であるセストリアの処刑人として抜擢された。
「……」
セストリアに対して片膝をつき、敬礼。
対するセストリアも、アルスに対して同様に片膝をついて敬意を示すと、そのままひざまづき目を閉じる。
「…一思いに頼む」
「はい」
剣を抜き、構えるアルス。
精神統一として三回呼吸をしたとき、西方の湾口から大きな爆発音が轟く。
「なんだ!?」
空襲警報の鐘が湾中で打ち鳴らされるなか、とっさに窓を開けて外を確認するアルス。
すると、そこに異形の物体が飛竜よりもはるかに速い速度で飛行する。
「なんだあれは!?」
アルスがあっけにとられる間にも、飛翔体は停泊している軍船や砲台、挙句にはヴァルディアの魔導戦艦にも容赦なく攻撃を加えていく。
「アルス様!」
血相を変えてやってくる部下のピンネース。
「今すぐ退避してください!
ここも、もう持ち―――」
ピンネースが言い終わる直前、鐘楼の真横で投下された大型爆弾が炸裂。
鐘楼が倒壊し、ピンネースは上官のアルスを庇ってがれきの下敷きになる。
大鐘が落下し、ゴーンという悲壮な音色を立てて沈黙する。
「……」
周囲が阿鼻叫喚に陥る中、セストリアはおもむろに立ち上がる。
暗澹たる心に降り注ぐ、燦燦と降り注ぐ夏の太陽。
一陣の風が、彼女の目を覚ますように強く吹き付ける。
「一体…どこの勢力が…」
セストリアに目の前に、一機の鋼龍が迫る。




