ヴァルディア帝国海軍
十二月二十七日早朝 ヴァルディア帝国領 テーエウ港。
魔導技術の詰め込まれた軍港。
海に浮かぶ軍艦は最低でも百メートルは超え、魔鉱石を動力源にクレーンを始めとする港湾設備が大きな音を立てて稼働する。
「さて、そろそろ向かうといますか」
魔力を宿した剣を佩き、仮面をつけた男ザラード。
皇族であり、陸軍北部方面軍司令官を務める。
目の前には二百メートルの新型魔導戦艦アリゾナ。
初代皇帝と肩を並べて戦ったとされる英雄アリゾナの名を冠し、先月に就役が始まったばかりである。
長方形の城塞をそのまま海に浮かべたデザインであり、前方に八十センチの超大口径魔導砲、両舷にはニ十センチの副砲が並べられている。
さらに砲塔が付けられており、従来の魔導戦艦と違って艦体自体を回頭せずに広範囲の敵を攻撃することが可能となっている。
タラップを登り、乗艦。
提督のゲーベンと艦長のジードが右手を上げる形の敬礼で出迎える。
「将軍、ようこそアリゾナへ」
「うむ。よろしく頼む」
堂々とした態度で挨拶すると、専用の部屋に入室。
皇族にふさわしい豪華絢爛な装い。
彼の好きな銘柄の茶葉と茶菓子も十二分に備えられている。
従者に茶を淹れさせ、出港までのひと時を楽しむ。
三十分ほどで出港を告げる鐘が打ち鳴らされ、魔導エンジンが巡航出力で稼働。
手を振る老若男女、大勢の見物人に見送られながら、アリゾナを先頭に第一魔導艦隊とそれを護衛する第四十五魔導巡洋艦隊は帝国の誇りを抱いて出港する。
「思ったよりも静かですね」
帯剣しながら、甲板を歩く。
新型のエンジンとあって稼働音は従来の物と比べて小さく、アリゾナはまるで豪華客船のように優雅に航行する。
朝の太陽が帝国の輝かしい未来を表すように燦燦と輝き、艦橋に掲げられた軍艦旗と国旗は風に沿って誇らしく靡く。
天高く飛び立つペガサスを象った国旗とリヴァイアサンモチーフの軍艦旗。
それに、一点の汚れもない。
十二月二十八日。
両国の共同統治するリュムナ諸島。
大陸間の貿易の中継地となっているだけあって、小さな島ながら発展しており、ガンダル、ヴァルディアの商人たちも多数滞在してるそこに、アリゾナは一旦停泊する。
目的は示威。
最新鋭の戦艦を交易商達に見せつけ、自国がいかに魔法技術に優れているかを知らしめる。
「少し、降りてもよろしいですかな?」
ゲーベンに許可をもらい、下船。
交易の要衝となるリュムナ諸島のアマンダ港に皇族警備隊の護衛を付けて降り立つ。




