闇商人 ギオ・ナーランレス
十二月二十五日。
ランデル国南東、ロレスカトラ地区。
雨降る移民街。
焼け跡の残る屋敷跡に一台の車が止まる。
「やってくれたな」
黒い車から降りる、黒ずくめの男。
ギオ・ナーランレスと呼ばれる闇商人。
目の前には取引のパートナーの屋敷が焼き討ちされ、崩壊している。
「なるほど、どうやら本腰で解放戦線に対処する必要がありそうだな」
煙草をくわえ、オイルライターで火をつける。
「北の港へ向かえ、そろそろ取引の時間だ」
後部座席に乗ると、車は荒れたアスファルトの上を走る。
ギオ・ナーランレス用の特別仕様車。
武装集団からの襲撃や荒れた土地でも平然と走行できる軍用車並みの性能を持ち、かつ内装は一流ホテルのスイートルーム並に快適な空間となっている。
「ここ一カ月で随分と荒れたな」
窓を見て呟く。
窓のないビルやうなだれるホームレス。
挙句、路上に転がる身元不明の死体。
荒廃した都市を力強いエンジン音を轟かせて進む。
四十キロメートルの法定速度を示す錆びた標識。
それをはるかに上回る、百キロメートルの猛スピードで走る。
「つけられています。数は二台」
ミラー越しに追跡者の存在を察知する運転手。
「そのまま速度を維持しろ」
隣の椅子を開くと、仕舞ってあった大口径の狙撃銃が現れる。
二十ミリ対竜狙撃銃。
対モンスター用に陸軍で開発された狙撃銃であり、大型でも急所に当てれば即死させることも不可能ではない。
「・・・・・」
帽子を追跡者へのダミーに使い、後部座席の下からトランクルームに潜り込んで弾丸を装填する。
戦闘機の機銃にも使用される銃弾。
当たれば人体が木っ端微塵になる。
耳栓をし、トランク部分に仕込まれた銃眼を開いて追跡者の車を狙い射撃。
フロントエンジンを撃ち抜き、制御を失った追跡車両が横転し、もう一台の車が衝突する。
「これでよし」
コッキングレバーを引いて排夾。
さらなる追跡者の出現に備えて、そのままの姿勢を維持する。
三十分後、何事もなく北の港に到着する。
ギオ・ナーレンスの率いるマフィア『ラグーン』の支配する、さびれた港町。
倉庫には相手に渡す物資が詰め込まれており、反対の駐車場には表向きの商売用に見せかけた大型トラックが停められてある。
「さて、そろそろか」
腕時計を確認するギオ。
少しして、海面が盛り上がったと思えば、そこからセイレーンが現れる。




