深海の激戦
十二月十八日。
セイバスト海、ヴァルディア帝国領海。
深度三百メートル。
「だあああぁぁぁあ!またかよ!」
艦長室にラミアの絶叫が響き渡る。
目の前にはチェックメイト状態のチェス盤があり、対局相手のカンナが椅子に座っている。
「あの、そろそろ止めませんか?」
あまりの取り乱しように、カンナが休息を提案するも、ラミアはそれを一蹴する。
「ハッ、勝ち逃げしようってそうはいかねぇ。
もう一回だ!」
そう啖呵を切ると、今度はひとつの鍵を机から取り出してカンナの目の前に勢いよく置く。
「これは提督室の部屋の鍵だ。
アンタが勝ったらくれてやるよ。
だからもう一局、勝負だ!」
「ハァ...」
ラミアに押され、渋々コマを並べ直す。
「今度はブリッツで行くからな。
汚ねぇ手を考えてる暇はねぇぞ!」
わずかな持ち時間で指す超速ルールのブリッツ。
ラミアが先手を指してから二十分足らずでカンナの勝利となった。
「・・・・・・」
見下していた相手にぼろ負けしたショックで机に突っ伏すラミア。
置かれたカギを手にするとカンナは艦長室を出て、手にした提督室の扉を開ける。
元来は司令官のみが使うことの許される特別な部屋。
それが今は彼女だけの部屋となった。
捕虜用の簡素な収監室から豪華な提督私室に住居が変わったカンナ。
狭い潜水艦内、ベッドや机に本棚、クローゼットが小さくまとめられており、さらに希少な生物を入れたアクアリウムまである。
クローゼットを開ければハンガーに掛けられている海軍提督の軍服。
興味本位で服を脱ぎ、軍服に着替える。
サイズが少し合わないが、鏡に映るその姿は華麗である。
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「艦長、ヴァルディア大陸の測量完了いたしました」
十二月十九日。
測量士のクロードからラミアに報告が入る。
艦長の机には、セイバスト海の西方に位置するヴァルディア大陸沿岸の測量データ。
地形や気候、海上戦力の有無など、上陸するにあたって最適な箇所を探す。
「ところで艦長、そろそろ取引の日ですが、あの女は…」
「リストから除外する」
椅子に座りながら、そう返す。
「あいつ、打ち手もそうだが集中力もかなり高い。
教育すればかなりの戦力になるかもしれねぇ」
先日のチェスの件を思い返しながら、カンナを一人前の海軍士官にしようと考えるラミア。
「よし、決めた。
アイツをジャックに教育させる。
クロードは上陸地点を探せ。
ヴァルディア大陸だけでなく、フォセストリア大陸もだ」
「承知しました」
クロードが退室すると、ラミアはジャック・ジョンソンのいる副艦長室へと向かう。




