壊滅
「総員、戦闘配置につけ!」
サスが鉄槌に倒れてからすぐの十二月十六日の深夜、レジスタンスはミノタウロスを迎え撃つべく臨戦態勢を取る。
装備自体な乏しく、大砲を始めとする兵器はない。
さらに最悪なことに、王国軍の追撃を避けるためにガナダー河にかかる橋を破壊してしまった為に退路もない。
「戦うしかないのか!」
正規兵千人に匹敵する力を持つミノタウロス。
「弓兵、撃て!」
樹上から放たれる矢。
しかしその全てがミノタウロスの鋼鉄のような筋肉に弾かれる。
ブンと振られる鉄槌。
弓兵の登っている木がひと薙ぎでへし折られ、真っ逆さまに弓兵が落下する。
ドチャドチャと音を立てて墜落するエルフたち。
もう命はない。
「くっ、セストリア様、ご撤退を!」
「だが!」
「セストリア様が生きてさえいれば、王国は必ず復興できます!
どうかお逃げを!」
「すまない、フォリエ」
主君であるセストリアが森の奥に走っていくのを確認すると、フォリエ達レジスタンスは武器を持ってミノタウロスに向き直る。
数トンはあるハンマーを両手に、全力疾走で近づいてくるミノタウロス。
その様は巨大な壁が迫るよう。
「包囲しろ、少しでもセストリア様のために時間を稼げ!」
素早く動き、包囲を始めるエルフたち。
しかし方位が完了するよりも早く、そのハンマーは振るわれる。
目にも止まらぬ速さで空へ飛ばされるイリアム。
断末魔すらない。
「クソ、こいつ」
勝てないとわかっていながらも、フォリエたちは武器を、勇気を振るう。
しかしそれを嘲笑うようにミノタウロスはハンマーを振るい、害獣を処理するようにエルフたちを駆逐してゆく。
「やめろ、クソ、こいつ、こいつ...
やめてくれ...」
哀願も虚しく、一人、また一人と消えてゆく。
とうとう残りはフォリエ一人のみになる。
「ここまで、か。
セストリア様、どうかご無事で...」
剣を手放して両膝を着き、胸に手を当てて主君の無事を祈る。
ダナガーの濁流が響く中、ひとつの命が消える音がした。
―――ハァハァハァ
森の獣道をセストリアが息を切らして走る。
王家の紋章の刻まれた重い防具と剣は既に手放し、軽装。
王家の誇りも戦士としての名誉も全て捨てて、どこへ繋がるかも分からない悪道を、涙を流しながらひたすらに走る。
(すまない皆、すまない、フォリエ)
現地に残された仲間達が今頃どうなっているかは考えない。
考えたくもない。
ただただ、今は生き残ることだけを考える。
「ブモォオオオオオオオオ!!!!」
そんな彼女を嘲笑うように、悪夢がやってくる。
血肉の着いたハンマーを両手に、血まみれのミノタウロスが木や岩などの障害物を粉砕しながらドスン ドスンと大きな足音を轟かせて走ってくる。
一人も生かすつもりがないのだろう。
直後、セストリアが石につまづき転倒。
軽装なのも相まって、足を大きく怪我してしまう。
「ここまでなのか、ちくしょう、ちくしょう!」
うつ伏せのまま、拳で地面を殴りながら運命に慟哭するセストリア。
そんな彼女を処理しようと、ミノタウロスが大きな足音を鳴らしながら、ゆっくりと近づき、ハンマーを振りかぶる。
「ブモ!?」
しかしそのハンマーは振り下ろされず、ミノタウロスは空を向く。
そこには小さな騎士リューを乗せた魔龍チィ。
口を開くと、紫色の火炎をミノタウロスに向けて放つ。
触れた途端、灰と化すミノタウロスの身体。
セストリア達が立ち向かって敵わなかったミノタウロスは、風と共に跡形もなく消え去った。
バサバサと翼をはためかせて魔龍が降り立ち、小さな騎士が降り立つ。
「大丈夫?」
リューの優しい声。
「....」
放心するセストリア。
しかし、リューの鎧に刻まれたガンダル王国軍の紋章に気がつく。
「...」
ずっと立ち上がり、膝を付いて両手をあげる。
「投降する」
「え?」
困惑する声がリューの口から漏れる。




