オルランの疑念
十二月十三日。
モリアス港にあるセントリオ商会本部。
「これはおかしいですね」
世界中から集めた財宝に囲まれた商会長の執務室。
商会長オルランは帳簿を確認しながら、今の状況を部下に問いただす。
「レイリアの王族をヴァルディア大陸に輸出して既に二十五日目。
サクルティスからの取引の報告どころか、定期の連絡すら無いとはどういうことですか?」
交易部門最高責任者であるサクルティス。
彼が交易船ごとランデル国に拿捕されたことすら知らないオルランは、地上に残ったサクルティスの部下を詰問する。
「も、申し訳ございません。
魔道通信を始め、あらゆる方法で連絡を試みているのですが、一切応答がなく...」
「仕方ありませんね、こうなれば両国の海軍に要請して捜索をお願いするとしましょう。
しかし、一体何が起きたというのでしょうか?
密輸用の特別なルートとはいえ、事前の調査では海賊は愚か、船舶を沈めるほどのモンスターすら確認されなかったはずですが...」
何かがおかしいことに気が付き始めるオルラン。
サクルティスの部下を退出させた後、手元にあった純金のベルを持って左右に振り鳴らす。
「お呼びでしょうか?」
扉の奥から現れたドワーフの男。
ゴルドバーグと呼ばれる彼は宝石に目がなく、オルランの右腕の他、専任の鑑定士も務める。
「この手紙をヴァルディア帝国海軍に届けなさい。
それと『手土産』もお忘れなく」
「承知いたしました」
了承し、手紙を受け取って退室するゴルドバーグ。
残った仕事を片付けると、オルランはゆっくりと席を立つ。
「さて、そろそろ時間ですね」
王国から買ったダークエルフの秘書兼第三夫人を連れ、商会の紋章の着いた飛空艇に乗り込み、パーラ湾にあるアルト王国海軍の基地へと向かう。
王国軍の主力が集まるとあってその数は壮観であり、上空からでもその威容ははっきりと伝わる。
中にはヴァルディア帝国より購入した魔道戦艦が数隻停泊しており、その姿はまさに海に浮かぶ城砦そのものである。
さすがに商船が軍港に着陸することは許されず、ダーバスの港に降り立つ。
絵画のモデルにもなった美しい街並みをダークエルフのブラウを連れて歩く。
かつてレイリア王国に仕えていた従者長。
奴隷に落ちて買われた身とて、街を歩くその姿は気品に溢れている。
途中で馬車に乗り込み、走ること二十分。
アルト軍港に到着する。
「セントリオ商会のオルランです。
キャンサー提督にお目通しをお願いいたします」
提督公室に案内されるオルラン。
扉を開ければ、そこには大きな帽子を被った隻腕の男。
鼻は大きく、髭は左右に長く伸びている。
左手は無く、代わりにフックが取り付けられている。
まるで戯曲に登場する悪者のような風貌である。
「何用だ?商会長」
「実は交易船が消息を断ちまして、探していただきたいのです」
手土産の宝石を添えて置かれる捜索依頼書。
「いいだろう」
ずっと立ち上がり、部下を呼びつけるキャンサー。
「商会長直々のご依頼だ、なんとしてでも交易船を見つけ出せ!」
「承知いたしました!」
提督の命令を承諾する部下。
その後、オルランは再び飛空艇に乗り込み、今度はワグス港へと向かう。




