パーラ湾
十二月十一日、パーラ湾。
海が陸地に大きく入りこんだガンダル王国東部の水域。
建国以来、王国の経済を支えてきたこの湾には複数の港があり、海軍の主力戦力やセントリオ商会を始めとする複数の交易商会の船が毎日往来している。
中央の島に建てられた要塞には無数の魔導砲が配備され、湾口からやってくる侵入者を迎撃すべくその砲口を向けている。
西側には王国竜騎兵用の飛行場が整備されており、最近はセントリオ商会の主導で飛空艇の導入が進んでいる。
「第三飛竜隊、離陸せよ!」
訓練所、ワイバーン型の飛竜を駆る教官の指示に、五騎一組の竜騎兵が空を飛ぶ。
乱れのある新兵の編隊。
「そこ、ちゃんと飛べ!編隊を乱すな!」
「は、はい!」
教官に叱責される新人竜騎兵のリュ―。
ドラゴンの翼を模した羽飾りのついたピカピカの黒いフルフェイスアーマーを纏い、チィと名付けた相棒の黒い魔龍、四足二翼のドラゴンに乗ってパーラ湾の空を同期の仲間たちと飛ぶ。
教官に従ってパーラ湾の外周を駆ける。
飛行場から右回りに湾口の左右に立つ大灯台、中央の要塞、アルト軍港、ダーバス商業港、停泊している無数の船舶…
パーラ湾の主要施設の上空を教官に何度も叱責されながらも、夕方までひたすら飛ぶ。
「今日はここまでだ。各自、体を休めるように」
「はい!」
解散して飛竜を厩舎に戻すと、竜騎兵たちも宿舎に戻る。
「ふう」
アーマーを脱ぎ、私服に着替えるリュ―。
銀髪の十二歳の少女の姿がそこにあった。
「お疲れ、リュ―」
「あ、はい。お疲れ様ですエス先輩」
自身よりも体格の大きい年上の先輩に挨拶を返すリュ―。
食事を終えると、みんなが寝静まった頃にこっそり宿舎を抜け出して近くの高台に上る。
自分の生まれ育った街、ダーバス。
魔法灯により青くライトアップされ、その景色は幻想的である。
「私たちが、この街を守るんだ…」
強大な力を持つモンスターに乗り、大空を大地を大海を駆けて脅威から国民たちを守る竜騎兵。
モンスターと心を通わせることのできるエリートしかなれない兵科で、王国軍の中でも花形とされる。
その誇りを胸に抱きながら、リューは護国の意思を固める。




