農奴
十二月十日。
旧レイリア王国の中央穀倉地帯に位置する、とある農村。
早朝を告げる鶏の鳴き声が村中に響き渡る。
直後、村人たちは起床し、今日の農作業の支度を始める。
眼前に広がるは、収穫時期を迎えた農作物たち。
村の周囲には作業を監視するガンダル王国の下級兵士。
農奴としたエルフたちが逃げ出したり反抗を企てないかをしっかり見張っている。
とはいえ、別に鞭で痛めつけたり見せしめに処刑したりはしない。
農作物の収穫量に応じてペレカという農奴専用の通貨が支給され、割高ではあるがパンなどのちゃんとした食事や酒などの贅沢品、果てはガンダル王国の民として何不自由なく生きることのできる国民権を買うことができる。
いわゆる、経済による奴隷支配。
王国の経済大臣が考案した支配術であり、奴隷を傷つけず、かつわずかでも希望を与えることで反抗の意思を減らせるということで、王国全土でこの制度が施行されている。
「ふむ、まあ悪くはないな」
農村に建てられた王国の管理施設。
その最上階で恰幅の良い農場長のジャイモは部下であるブドーから渡された先月の収穫量のリストを眺める。
収穫された作物の大部分は大陸北方から南のセイバスト海へと流れるガナダー河を使って王国へ送られ、国民たちに配られる。
とはいえ、十二月からは源流域である大陸北端が雨季になってガナダー河が増水氾濫するため運河には使えず、王都まで陸路で運ぶしかなかった。
「ところで、飛空艇の配備はどうなっている?」
「は、三十日にはこちらに配備されるかと」
セントリオ商会の保有する飛空艇。
フォセストリア大陸の西方に位置するヴァルディア大陸を支配するヴァルディア帝国から購入したものであり、新たな交易ルートの開拓が期待されているほか、王国軍ではモンスターを使役する竜騎兵に並ぶ新しい航空戦力として期待されている。
「それにしても、素晴らしい土地だ。
どんな作物も植えてから七日以内に実を結ぶ」
黄金色に輝く小麦畑を始めとする農作物の数々に、うっとりする。
「よし、わしも収穫を手伝ってやるか!」
農家出身のジャイモ。
目の前に並ぶ作物に、血がうずきだす。
「ジャイモ様!…はあ…」
支配者であるはずの農場長が農奴であるエルフたちに混じって、着替えた作業着を汚しながら鎌片手に小麦の収穫作業に勤しむ姿に、部下のブドーはため息をつく。




