出撃
十二月三十日早朝。
盛夏に移りつつあるウルスラ海を二つの艦隊が航行する。
タモン司令長官の座乗する空母ヒリュウを旗艦とした第二機動艦隊。
空母イスカを旗艦としたエルの指揮する第一機動艦隊がそれに続く。
数少ない燃料の消費を抑えるため、戦艦は編成から外し、空母一隻につき巡洋艦と駆逐艦を数隻ずつ随伴。
ニャルマー大将が選抜した二百名の陸軍特殊作戦部隊も、揚陸艦ではなく空母イスカから艦載艇を用いて上陸させる。
「・・・・・」
イスカの艦橋、提督の椅子に座るエル。
窓を覗けば、三基あるエレベーターから爆弾を積んだ攻撃機が甲板に次々とあげられていく。
銀色の機体に星のマークの描かれた翼。
整備士たちが、期待に不備がないかをリスト片手にチェックする。
ウルスラ海の荒波によって、船がすこしだけ揺れる。
一か月前、ここで起きた海賊による商船襲撃から始まった本事案。
異世界から転移してきた大陸と、魔法を始めとする未知の数々。
そしてついに始まる軍事介入。
八十年前の大陸戦争以来の国家を相手にした大規模な軍事作戦。
未経験の事案に、エルたちの緊張が高まる。
眼前にはタモン長官の座乗する空母ヒリュウと、タケオ・カイヅカ中将の指揮する空母ズイカク。
十二月三十一日の早朝の攻撃に向け、クルー達は最終準備に取り掛かっている。
「…今頃、国民たちは年越しの準備に取り掛かっている頃だろうな」
艦橋に置かれた卓上カレンダーを見て、エルがポツリとつぶやく。
「さすがに、新年を祝える空気ではありませんね…」
しょんぼりするガロン。
いつもならば、軍服を脱いで子供たちと遊園地に行ったり、旅行したりで家族サービスに勤しむのだが、開戦が目前に迫っている今はそれどころではない。
「一応、主計科に言って兵たちに酒やタバコなどの贅沢品を奇襲作戦終了後に無償で配給するように命じてある。
少しは気も楽になるだろう」
「お心遣い、感謝します」




