会議
国防総省一階の大会議室。
二人がチェス盤の片づけを行う傍ら、到着した各部門の代表の高官らがそれぞれの席に座る。
書類を整える海軍大臣ルクセン、シルクハットを被った紳士の外務大臣クラウス、バラの胸飾りの目立つナルシストの内務大臣ミズウリ、偉そうに胸を張る、眼帯を付けた背の小さな猫人の陸軍大将ニャルマー、そしてペルーダ国家安全保障問題担当大統領補佐官…
とにかく個性的な面々が格式高い議場に集まる。
「これより、大陸転移問題及び、レイリア王国救援の会議を行う」
過去に幾度も軍事的に重要な決定がされてきた、格式高い会議場に国防長官チャーリーの声が響き渡る。
有名美術大学上がりの男。
最近、オークションで彼の描いた絵にびっくりするくらいの高値がついた。
「まずは、本件における報告をルクセン大臣より願う」
「ハッ」
ゴホンッと咳払いし、チャーリーに顔を向けながら発言する。
「本件は今より一週間前、十一月二十三日のウルスラ海で発生いたしました。
フォセストリア大陸ガンダル王国籍、セントリオ商会所属と称する不審船を拿捕。
海警局と協力の元、拉致されたと思しき民間人を保護いたしました」
「ふむ、この件には当事者であるエル提督から詳細を聞かせてもらおう」
「は、承知いたしました」
資料を片手に起立するエル。
全員の注目が集まる中、事の仔細を淀みなく説明する。
キッド海賊団の残党による商船の襲撃から始まり、救援活動、そして海警局への通報…
ウルスラ海での一部始終を全員に伝える。
「そうか、ご苦労」
説明を終えてエルが着席すると、今度はチャーリーの顔がクラウスに向かう。
本件に関しての外務省の意見をお聞きしたい。
「はい」
穏やかな口調で返事すると、クラウスは杖を片手にゆっくりと立つ。
「外務省としましては、本件を通してかの大陸との外交ルートを築きあげるべきと考えております。
理由としましては、魔法という未知の技術を保有しており、それを取り入れることができれば我が国の発展に大いに寄与できると考えております。また、弱者救済の事実が伝われば、ランデル国へのイメージアップにもつながることでしょう」」
「よろしい、ミズウリ…
まずは鏡を置け」
「ん?ああ、これは失礼」
自分の顔を鏡で映していたミズウリを叱責するチャーリー。
対する彼は口だけの反省をして鏡を置く。
「場の空気としては、軍事介入に前向きな様だね。
内務省としては、介入するのなら軍の兵站を整えるまでに最低一ヶ月、上陸した本隊の支援には三ヶ月は欲しいところだ。
もし海軍省のリクエストにお応えして連合艦隊クラスの戦力を投入するのなら…そうだね、一年は欲しいね」
「なんだと!?」
ミズウリの発言に、思わず立ち上がり口を開くルクセン。
「座れルクセン、勝手な発言は認めない」
「…失礼しました」
不満そうな表情で着席するルクセンをよそに、今度はエルに意見を求める。
「保護した民間人の証言を鑑みるに、レイリア王国民に残された時間は極めて少ない。
首都は陥落し、正規軍は壊滅状態。
しかし、一ヶ月の準備期間ではまともな戦力を送ることはできない。
最小限の戦力で、本隊の準備が完了するまでの時間をどうにかして稼ぐことはできるか?」
「…可能です」
エルの発言に、周囲がわずかに驚く。
「こちらが向こうを知らないのであれば、相手もこちらを知りません。
空母から艦載機を出撃させてガンダル王国軍を急襲すれば、相手は未知の敵が現れたと思って対策を迫られるでしょう。
補給拠点などの兵站を破壊できれば、時間は十分に稼げます。
もっとも、その兵站の位置をどうやって特定するかですが…」
「奇襲は相手の情報があって初めて可能となる。
今のままでは机上の空論だ」
「ヘルブレード、発言の許可を出した覚えはないが?」
「…失礼した」
長官に叱責されるヘルブレード。
結局、この日は有効な戦略案が出ないまま会議はお開きとなった。




