対局
大統領令発動から三日後。
バレンバド城とも呼ばれる国防総省に何台もの車両が入場する。
「閣下」
ガロンが後部座席の扉を開け、エル・ゼナが降り立つ。
規定により軍刀はなく、丸腰。
警備による身体検査を終え、会議場へと向かう。
「待っていたぞ、エル」
入場するや、そこにいたのはエレナ中将を連れたヘルブレード大将。
二本の角が生えた男で、その出で立ちから魔王提督と呼ばれている。
「妾が言うのもなんだが、ずいぶんと早い到着だな」
召集された軍人や政治家等の要人のほとんどがまだ到着していない中、エルはカバンの中からチェス盤と駒を取り出す。
「会議があるまで時間がある。
少し付き合え」
コマを並べ、チェスにヘルブレードを誘うエル。
「いいだろう」
椅子を動かして、対面に座るとヘルブレードは対局を始める。
「ガロン、席をはずせ。気が散る」
「は!」
エルの指示に従い退場するガロン。
エレナも上官に気を使い、一礼して退場する。
「ヘルブレード、この件をどう考える?」
「あくまでも吾輩の仮説にすぎないが、国家総力を挙げて取り組むことになるだろう」
「同意見だ。
ルクセン大臣は軽く考えているようだが、な」
コッンと音を立ててエルがコマを置く。
「海軍省は「連合艦隊を投入すれば決着がつく」とおもっている。
短絡的な考えだ」
「奴は縁故で今の地位に就いた。
現場をよく知らない」
そういうと、ヘルブレードはエルの駒を取り陣地奥にナイトを置く。
「それだけではない。
セイレーンの問題も片付いていない」
「・・・・・」
ビショップを動かし、エルはヘルブレードの次の手を潰す。
「あれの対処は国家の最重要課題だ。
セイレーンが稼働し続ける限り、交易路をはじめ、国家のあらゆる利益が脅かされることになる」
「半永久動力。
フォルネウスの心臓」
静かな議場に、ヘルブレードのコマを打つ音が響く。
フォルネウスの心臓。
異界より現れたとされるモンスターから剥ぎ取られた素材。
死してなおも拍動を続けており、とある技術者の手によって半永久に稼働し続ける動力源として再利用され、セイレーンに搭載された。
本来は国家の切り札になるはずが、ラミア率いる懲罰部隊に強奪され、現在に至る。
「キッドの孫だったか?まったく、とんでもないことをしてくれたものだ。
…ここまでだな」
ぞろぞろと議場に人が入り始めた様子に、対局を中止する。
「棋譜を記しておく、続きは終わってからだ」
記録を取ってコマを片付けると、二人は姿勢を正して議長席に向き直る。




