ペルーダ国家安全保障問題担当大統領補佐官
ベルファスク大統領府。
宮殿のような巨大な建物に、三台の車両が入る。
前後の二台からサングラスをかけた黒服のボディガードが降り、中心の車両を取り囲むように配置につく。
「到着しました」
ボディガードが扉を開けると、そこから現れたのは四本角の白い竜人の女性。
白ネクタイのスーツ姿であり、尻尾からは絹糸のような純白の体毛が生えている。
「ペルーダ補佐官、こちらです」
大統領府職員に先導されながら、施設の奥へと進む。
「失礼します」
大統領専属の護衛によるボディチェックを受ける。
国家安全保障問題担当大統領補佐官として、大統領の直近に位置する彼女。
大統領からの信任を得て今の立場に就いているとはいえ、大統領府の規則に例外は無い。
触診による検査。
足から胸、尻尾の根元から先まで触られる。
大統領の命を預かる立場に就く彼らに、女性に対する配慮は無い。
「どうぞ」
検査をパスし、先へ進むペルーダ。
大統領執務室にあるインターホンを押す。
「ペルーダです。
大統領に緊急の報告に参りました」
返答はない。
代わりにドアロックの開く音が鳴る。
扉の奥に現れるのはスーツ姿の大統領護衛官。
その証である金バッチが誇らしくきらめく。
「どうぞ」
護衛官が道を開け、ようやく大統領の姿が見える。
書類の積まれた机を通して、若い大統領がペルーダを見据える。
「緊急の報告とは、なんだね?」
「詳しくはこちらに」
論より証拠と、エル・ゼナの記した報告書と海警局の調書、そしてサクルティスや商船を始めとする証拠写真を手渡す。
「・・・・・」
書類を隅々まで読む大統領。
たちまちのうちに困惑の表情になる。
「これは…なんのおとぎ話だ?」
つまらないジョークを聞いたように、両手の平を力なく上げて「HAHAHA」と苦笑いをする大統領。
「失礼ながら、現実です」
あくまでも凛然と、はっきりと返すペルーダ。
「…分かっている。それで、この海図を見るに二つの大陸と島々がウルスラ海に現れたようだが…」
「間違いなく、国家安全保障上の問題になります。
国家の保有するあらゆる手段を行使して対応するべきかと」
国家安全保障担当大統領補佐官として、結論を述べるペルーダ。
「…らしくないな」
両手指を組み、前かがみになる大統領。
「前政権の主導した砲艦外交。
それを止めるように選挙で私に進言した君が軍事力の行使を提案するとは…」
「…あくまでも国家の安全保障のためです。
それに、弱者を見捨てるのは国家の信頼にも関わります」
「そうか」
保護した奴隷たちの写真を一瞥しながら、大統領は頷く。
「大統領令で軍を動かそう」
「承知いたしました」
大統領が本案件に対する大統領令発動の書類を記す中、大統領府を出たペルーダは要人専用の護送車に乗り込む。
「……」
首都の街並みが高速で過ぎゆく中、新たに編集された海図を眺めながら車内で思案する。
(おそらくは、異世界転移…)
竜人としての悠久ともいえる生涯の中で幾度も目にした現象。
原因は不明。
しかし、異世界人の来訪や異世界からのモンスター襲来が度々報告されており、直近の前例では戦闘機を乗せた異界の空母がランデル国の領海で拿捕されるという事件もあった。
(だが、大陸規模は初めてだな…)
いったいこの世界で何が起ころうとしているのか…
拭いきれぬ不安を抱えながら、ペルーダを乗せた車は次の仕事先である国防総省へと向かう。




