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【D】を選んだ方はこちらです。

◆◆このルートはこれで完結です。

  その結末は……?◆◆


#二股


「もう〜しつこいなぁ……」

 うんざりした私はボタンを長押ししてケータイの電源を切った。これでもう鳴らないっと。

「はあ……」

 どっと疲れを感じて肩を落とすと同時に盛大な溜め息を吐き出した。携帯を手から枕元に落としてベッドに倒れ込む。瞼を閉じ――おやすみなさい。本日の勤務は全て終了いたしました。もう誰にも邪魔されまいとして私は寝に入る。

 この日を期に私は雅樹くんとの関係を断ち切った。それから以前のような生活が戻ってきた。そうなってようやく本当の幸せが何なのかに気付いた。いままで私、何やってたんだろう。聡志さんという、結婚を約束した人がありながら……聡志さん、ごめんなさい。もう私、目が覚めましたから。こんな乃々を許してください。今後、絶対絶対絶対にっ、浮気なんてしませんから! そう心に強く誓った。





 ある日の週末。初めて聡志さんの自宅に招かれた。どんな家に住んでるんだろう。マンションかな? 二世帯住宅とかだったりしないよね? 気難しいおばあさんとかいたらやだよ〜。彼の運転する車の助手席に座りながら、あれこれ勝手に想像していると

「着いたよ」

 車が停まった。

「車庫に入れるから、降りて待ってて」そう言われ、「はい」と私は車から降りる。そこはごく普通の二階建ての一軒家の前だった。周囲にも似たような造りの民家が並んでいる。それらを眺めているうちに、聡志さんはバックで車を家の脇の車庫スペースに駐車した。エンジン音が切れるとすぐに、ドアを開けて出てきた。


「どうぞ」

 フェンスのドアを開けて、促す彼の後に続く。玄関脇にサドルの高さが異なる自転車が、二台停まっていた。二台? 私の頭上に疑問符が浮かんだ。しかもサドルがかなり高いし、誰の?

 聡志さんに促され、私は玄関に入った。あ。そこにサイズが大きなスニーカーがあった。聡志さんの? にしてはでかい。

「ちょっと待ってて」

 聡志さんはそう言って奥に消えた。ドアが閉まる音がする。私は、彼が用意してくれたスリッパを履いて上り框に上がった。

「おじゃましま〜す」

 こんな一軒家に一人で住んでるのかな? 腑に落ちない顔で、私は玄関にあるスニーカーに目をやった。う〜ん……。すると奥で話し声がした。誰かいるのかな? 不思議そうにその方向を見ているとドアが開く音がして、聡志さんが戻ってきた。

「ごめんね、待たせて」

「いえ」

 フローリングの廊下を通って案内されたのはリビングだった。

「そこに座ってて」と言われ、ソファに座っておとなしく待機していると、コンコンと合図のようにノックの音がして私は顔を上げた。聡志さん? 少し戸惑いながら「はい」と返すとドアが開いた。どっくん! 心臓と固唾を飲む喉が同時に鳴った。

「?」

 開いたドアから現れたのは聡志さんと――誰? すらりとして背の高い男の子だった。整った顔立ちをしているけど、なんか恐い。私、睨まれてる? 少年の冷徹な眼差しが、私を凍てつかせた。聡志さんはその子の背中に手を当てて招き寄せると、ドアを閉めた。

「紹介する。この子は息子の(あおい)だ」

「え」

 ええーーーーッッッッ!? 私は心の中で絶叫した。パニックに陥る。え、え、ちょっと待って。ちょっと待って!? 息子って、“息子ッ!?”。 頭が混乱して瞬きが止まらない私に、聡志さんは言葉を続けた。

「話すのが遅れてごめんね。この子は死んだ妻との子なんだ」

「そう、なんですか……」

 やっぱり聡志さん結婚してて、子供もいたんだ。でも、そっか、奥さんは亡くなっちゃったんだ……。不倫してたらどうしようと思いながら聡志さんとお付き合いをしていた私は、そうではなかったことがわかって少しほっとしたが、素直には喜べない複雑な気持ちになった。



 この後三人で座ってお茶を飲んだ。蒼くんは16歳で、高校二年生だということがわかった。日曜は朝から夜遅くまで飲食店でバイトしているらしい。それ以外はシフトによって。私の話もした。恥ずかしかったけど、歳はいくつで仕事は何をしてるかとか。そんな話をして二時間ほど。テレビを付けていたので音はしていたけど、愉しい団欒とはいかず(そりゃそうだ)、それは重くて、苦しい時間だった。







 それから聡志さんと会う日の週末は、息子さんの蒼くんと三人で外食することが多くなった。


「こうやって少しでも親しくなってからのほうが、結婚して同じ家に住むようになってから、君も居心地が悪くないと思うんだ」

 その理由を聡志さんはそう言っていた。そりゃそうだ。結婚したら一緒に暮らすんだもんね。結婚ってそういうことなんだなと痛感した。相手の家族のことも考えなくちゃいけないし、恋人のときみたいに二人だけの関係じゃなくなるんだもんね。







 ある日の週末。その日は聡志さんの家に集まった。前日ケータイに電話が掛かってきて、聡志さんから提案があったのだ。


《たまには家で食べないかい?》

「家、ですか?」

《料理のことは心配しないで。ピザを注文しておいたから》

「そうなんですか? ありがとうございます〜」

《じゃあ、OKってことでいいかな?》

「はい、OKです!」

 私は快諾した。何回か三人で一緒に食事して、蒼くんと一緒にいるのもちょっと慣れてきたし。





 いつものように聡志さんに車で駅まで迎えに来てもらい、彼のお宅に向かった。何度も通っているので、道順も覚えて風景も見慣れてしまった。聡志さんのお嫁さんになったら、この道が私の帰り道になるんだなぁ。想像して笑みが零れる。やがて彼の家の前で停止した車から降り、聡志さんと一緒に家に上がった。

 リビングには蒼くんがいて、ソファで寛ぎながら漫画雑誌(ジャソプ)を読んでいた。なんだかんだいって、彼もふつうの高校生なんだな、と微笑ましくなる。

「こんにちは」

 私から挨拶すると彼は、雑誌を下ろして

「こんにちは」と軽く会釈した。笑顔はないけど、出会って間もない頃のようなギスギスした感じはない。私もソファに腰を下ろした。

「じゃあ僕はピザを取りに行ってくる」

 聡志さんはそう言って、一人で出かけてしまった。部屋には私と蒼くんだけになった。

「……」

 急に緊張感が押し寄せてきた。ただ座っていることに耐えられなくなってくる。目だけを動かして横を見ると、蒼くんは静かに漫画を読んでいる。う〜ん、落ち着かないな……あ、そうだ。テーブルの上にリモコンがあった。

「テレビ付けてもいい?」

「どうぞ」

 蒼くんは持っていた雑誌から、少しだけ顔を覗かせて言った。私はリモコンを手に取り、テレビを付けた。沈黙解消〜。

 そうこうしていると玄関のドアが開く音がして、聡志さんが帰ってきた。荷物をカサカサ言わせながらリビングにやって来る。

「ただいま」

「おかえりなさい〜」

 私は安堵して、ぱっと表情を輝かせた。

「いい匂いですね」

「出来立てだからね」

 聡志さんは荷物をテーブルの上に置き、その中の紙箱の蓋を開けた。

「うわぁ〜、おいしそう〜!?」

 サラミ、玉葱、チーズ、あと何だろう?

「さあ、熱いうちに食べよう」

 聡志さんが促し、みんなで「いただきま〜す」

 三人揃って、熱々のピザを頬張る。幸せ〜。おいしいものを食べて、心も体もほっこり温かくなった。

「生地もおいしい〜。これ、どこで買ってきたんですか?」

「駅の傍にある手作りピザの店だよ」

「へ〜え」

 咀嚼しながら頷く私。

「人気があってなかなか買えないから、予約しておいたんだ」

「て、今日のために? うれしー、ありがとうございます〜!」

「どういたしまして」

 聡志さんてこんなサプライズしてくれる人だったんだ? 私は感動してしまった。やっぱり、聡志さんてすてきっ! ついでに惚れ直していると、ふと珍しく蒼くんが尋ねてきた。

「二人って、いつから付き合ってるんですか?」

「去年の冬ぐらい、ですかね?」

「うん、それぐらいかな」

 顔を見合わせる私と聡志さん。

「付き合ってください」とか、とくに告白されたわけではないので、曖昧にしか答えられなかった。

「去年……」

 蒼くんは首を傾げ、腑に落ちない表情でそう呟いた。

「なんで?」

 そんな顔するの――と胸の内で続ける。蒼くんは「別に」と言って首を横に振った。苦笑して。







 9月のまだ暑い日のことだった。その頃も交流は続いていて、聡志さんは信頼してくれたのだろう。私は思いもよらないことを頼まれてしまった。

「ええっ、て、て、転、勤っ〜〜!?」

「そうなんだ。それで君に頼みたいことがある」

「頼みたいことって?……」

「僕がいない間、うちに来て留守番をお願いしたいんだけど、いいかな?」

「う〜ん……」と唸り、悩む私。蒼くんと二人で生活するってことでしょ? 一緒に食事するだけとは全然違うよね。だって寝食、あ、寝るのは別々だけど、一つ屋根の下で暮らすとなると……う〜ん、いろいろ不安だ。

 でも……断ったりしたら、気まずいし、どうしよう〜!


「やっぱり、蒼と二人じゃ不安かな?」

「いえ、そんなことはないんですけど!」

 ないんですけど不安です。はあ、どうしよう〜

「やっぱり無理だよね、そんなこと。わかった」

「いや、あの!」 そして私は言ってしまったのだ。勢い(?)で


「私、留守番やります」と。



 蒼くんは来月から中間テストらしく、家事もできる範囲でいいからとお願いされてしまった。信頼を失いたくなかった私は、ついついつい――


「任せてください」と言ってしまった。私のバ〜カ。





 ――そしてその日はやって来てしまった。

 バイトが終わると私は一旦家に帰り、荷物を取りに行ってから聡志さんの家へと向かった。なんか変な感じ。何故だろう。彼の車であの家に向かっている時は、あんなに心が弾んだのに。気のせいか足取りが重い。ずしんずしんずしん。最寄のバス停からの道を歩くこと数分。彼の家が見えてきた。着いた〜っ。

 敷地一帯を囲むフェンスの向こうに玄関が見える。その横の一角に停まっている自転車は、一台しかなかった。蒼くんまだ帰ってきてないのかな。ガクッとした。一応インターホンを鳴らしてみると、ピンポーンピンポーンピンポーンと三回連続の呼び出し音が鳴った。その後沈黙が続く。つまり“帰ってきてない”で正解ね。ははは。てかどうすんだ、私。いつ帰ってくるかわかんないし、蒼くんのケータイの番号知らないから連絡取れないし。あ、聡志さんにメールで聞いてみよっかな。そう思い、肩に掛けていたバッグの中からケータイを取り出してメールを打とうとすると

「リリン」とベルの音がした。その方向に顔を向けると

「蒼くん?」がいた。高校の制服姿で、自転車に乗っている。足長っ。


「待ちました?」

「んー、ちょっと……」と私は苦笑いした。蒼くんは自転車で傍まで来ると、降りてフェンスのドアを開けた。

「どうぞ」と私を促す。私は中へ入り、玄関の前で立ち止まる。蒼くんは自転車に乗って敷地の中に入ると、聡志さんの自転車の隣に停めた。彼は玄関のほうに歩いて来ると、しょっていたリュックの中から鍵を取り出した。うわ、やっぱ並ぶとおっきいな、蒼くん。聡志さんよりも頭の位置が上に来る。


「どうぞ」

 開いたドアを手で押さえながら彼は言った。ペコッと頭を下げて、私は中に入った。彼がスリッパを出してくれたので、「ありがとう」と言って、私はそれに履き変えた。

「じゃあ、空いてる部屋を案内しますね」

 案内された部屋は「ここの和室と」

 それから二階に上がって

「この部屋なんですけど」

 その部屋はベッドが置かれていた。もしかして……

「死んだ母が使ってた部屋なんですけど」

 やっぱり。じゃあ、あのベッドも……?

「好きなほうを選んで使ってください」と言われたけど。私は下の和室を借りることにした。だって二階は、蒼くんの部屋もあるし。だからって私なんて年上すぎて意識されるわけないってわかってるし、そこまで自惚れるほどお馬鹿じゃないけど。でも一階ならお互い気を使わなくて済むしね。そう思って下の部屋にした。





 その日の夜は初日ということもあって、残っていたパスタとマーガリンとベーコンと卵を使ってカルボナーラを作った。あとはツナ缶とこちらも卵を使って、オムレツ。明日は食材を買って帰ろう。そうすることにした。






 翌朝、早く起きたつもりで着替えてキッチンに入ると、すでに制服姿の蒼くんが食卓に着いて食事を取っていた。


「ごめんね、先に起きて用意してあげられなくて」

 そう言うと「朝は忙しいってわかってるので、大丈夫です」と言われた。ははは、“大丈夫”なんだ。そう言われてくじけそうになるが、よーし、夜ごはんはがんばるぞ! と気合いを入れ直し、バイトが終わるとスーパーに寄って、食材を買って帰ることにした。


 そんな生活が何日も続き、いつものように食材を詰め込んだスーパーのレジ袋をぶら下げ、肩にはショルダーバッグを掛けて帰路に着いた日のこと。玄関の傍らに蒼くんの自転車が停めてあるのを見て、彼の所在を確認してから家に入った。玄関を開けて「ただいま〜」と言うと、彼が出迎えて手伝いに来てくれる。ほんといい子だな、蒼くん。ついついそれに甘えてしまう自分だった。そしてその日も彼は手伝いに来てくれて、どっさり食材の入った重たいレジ袋をキッチンまで運んでくれた。それを見て私は、なんかいいなぁ、こういうのって。と幸せを感じていた。冷蔵庫やその他専用の収納場所に食材を仕舞い終えると、私はバッグの中からケータイを取り出した。それを食卓に置いてトイレに向かう。落として大変なことになった嫌な思い出があるので、私はトイレには持ち歩かないようにしていた。

 そして戻って来ると「ケータイ鳴ってましたよ」と蒼くんが教えてくれた。着歴を見て、私の体温は下降した。


 “雅樹”――その名前を見て。


「乃々さん」

 名前を言われて振り向くと、冷ややかな視線が私に向けられていた。蒼くん?……

「前に親父といつから付き合ってるんですかって聞いたら、去年の冬ぐらいって言ってましたよね?」

「言ったけど、なんで?……」

「6月の終わり頃見たんですよ。あなたが夜、男と手繋いで歩いてるとこ」

「6月の終わり頃?」

……!?

 思い当たることがあった。雅樹くんとだった。でも私と知り合う前だったのになんで通行人の顔なんか。しかも夜だったし……

「見間違いじゃないの?」と言ってみるが

「あなたと一緒にいた人、知り合いなんですよ」と言われた。

「知り合いって、歳が全然違うのにどこで知り合ったの?」

「あの人、バイト先の先輩だったんです。でもいつも朝方に来ていたキャバ嬢のお客さんをナンパして、それを知った彼氏ともめごと起こして辞めさせられたんです」

「でも、なんで……暗がりで見間違えたんじゃ……」

 蒼くんは私の目を射るように見据えた。

「電話掛かけてきた人、“雅樹”っていうんですよね? 知り合いも同じ“雅樹”っていう名前なんです」

「!?」

 私は思わず目を瞠り、息を飲んでしまった。

「やっぱりそうなんですね」

「やっぱりって……?」

 知らないふりをしようとするが


「もういいです」

 蒼くんは視線を落とし、諦めたようにそう言った。

「蒼くん?」

 俯きながら、足早にキッチンから出て行ってしまう。

「ちょっと待って!?」

 二階に上がって行く彼にそう投げ放つが、その後なんて言ってあげたらいいのかわからなくて、足が止まってしまった。謝ったら認めたことになるし、でもこれ以上取り繕うとしても、余計墓穴を掘ってしまう気がして。階段の下から二階を眺めることしかできなかった。

「?」

 少ししてからドアが開く音がして、蒼くんが部屋から出てきた。彼が階段を降りて来る。私の前を通過してそのまま進み

「どこ行くの、蒼くん?」

 玄関に出て靴を履く。

「ちょっと待って、どこ行くの!?」

 私が掴んだ手を振り払い、彼は家から出て行ってしまった。

「待って!」

 靴を履いて外に出た時にはもう、彼が自転車で走り去って行く所だった。

「どうしよう……」

 不安が口から零れた。どうしたらいいのかわからず廊下で右往左往しているうちに、はっとして自分のケータイを取りにキッチンに戻った。卓上のケータイを見て、すかさずそれに手を伸ばすと

「っ!?」

 突然卓上にあった携帯が暴れるように震動して、私はびくっと体を浮かせた。慌てて拾い上げて見てみるとメールが届いたらしかった。


  “今から帰ります”


 聡志さんからのメールだった。それを見て、目にじんわり涙の粒が浮かんだ。鼻を啜りながら、彼にメールを打つ。 


 “蒼くんが家を飛び出してしまいました” 


 “何かあったのかい?”と彼。


 “私が悪いんです…”と私。

 すると


 “こっちから電話してみる”と返事が来た。


 “お願いします”と返信すると、不安が涙になって目からどっと溢れ出た。しばらくしてまたケータイのバイブが鳴り、慌ててメールを見ると



  “今日は友達の家に泊まるって言ってたから大丈夫だよ”


 そう返事が来た。


「よかったぁ……」

 安堵して私は、ケータイを握り締めたまま床にへたり込む。またメールが来た。聡志さんから――


  “じゃあまた近くに来たら連絡するね” 


 私はしばらく立ち上がることができなくて、足とお尻がジンジンしてきた。痺れちゃった。椅子に掴まりながらよろよろと立ち上がる。とまた不意打ちのように、しかし今度は家の電話が鳴り出した。驚かせないでよ。心臓が止まっちゃう……すっかり私は憔悴して、心臓の辺りを手で押さえながら電話に出た。


「う、そ……」


 相手からその内容を聞かされた私は放心した。

「聡志さんが……聡志さんが……」

 その電話は警察からだった。駅の階段を降りていた聡志さんを、後ろから来た酔っ払いが絡まるようにふらふらと降りてきて、それに巻き込まれた聡志さんが階段から転落して病院に運ばれたと。相次ぐ衝撃に動転して返事を返さない私に、電話の相手から「落ち着いて」と言っているのが聴こえてくる。そして自分で自分を落ち着かせ、通話を終えた。


 それからすぐに以前登録しておいた、蒼くんのケータイ番号に電話をかけた。

 しかしつながらない。

「出て、出て、出て、蒼くん……!」

 その願いはなかなか届いてくれない。家の電話からかけたらつながるかな? そう思い、かけてみると

「あ、蒼くん!」

 つながった。

「蒼くん、切らないで! 聡志さんが大変なの」と叫ぶ。

《親父がどうかしたんですか?》

 疑われて切られてしまったら困ると、矢継ぎ早に私はそのことを伝えた。





 それから私達は別々に病院に駆け付けたが

 彼は


 逝ってしまった。







 十年後――

 私は家の近くのスーパーに買い物に来ていた。住んでいる家はもう実家ではない。長く勤めた派遣先の工場の正社員になってから実家を出て、今は勤務先から程近い場所にあるアパート。独身の人も結構住んでいる。そう、私もその一人。今日も一人分の食材やら雑貨をショッピングカートに乗せてスーパー内を回り、買い物を終えるとそれを転がして駐車場にやって来た。自分の車がある所へ。手前に若い夫婦の姿が目に入った。奥さんが車から降りて子供をベビーカーに乗せている。運転席から旦那さんが降りてきた。歩いてきたその男性の顔に、私の視線が止まる。“見覚えのある顔”だった。


「蒼くん……」


 胸の内でそう呟く。

 彼は反対側に立つ私の存在に気付いたが、すぐに視線を逸らした。それから妻子の傍に歩み寄ると、家族揃って私の横を通り過ぎて行った。



        ――Alone end――





◆◆大切なものがなにか――気付くのが遅すぎたようですね。◆◆


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