第66話 天使と悪魔では終わらない
体育祭まで一週間を切った日曜日の午後、僕はリビングのソファでテレビを観ていた。
テレビの中ではフリルいっぱいの衣装を身に包んだ女の子が、何やら背負った十字架みたいな棺桶から銃みたいな大きな黒光りするそれを出して敵に向かって撃っている。
それはガトリングの様にガガガガガガッと連射して、悪魔みたいな姿を模したザコ敵を蹴散らして行く。
「神様の守護が、邪悪な心を撃ち祓います♪」
キメ台詞を視聴者へとウインクと一緒に送ると、スタッフクレジットが流れてポップなエンディングが始まる。
今時流行りのCG仕様で、出演していた主役だと思われる女の子とライバルの子が踊っている。軽快な動きでかわいい仕草と振付を笑顔で振り撒く。
エンディングが終わると、次回予告が流れ出す。
「教会天使ぷろもちゃん。次回、第36話ぷろもちゃんのライバル現る!?次回も神様の守護が有らんことを……」
番組が終わって宣伝に差し変わったところでテレビの電源を消す。
「主人公の女の子の方が悪魔みたいなんだけど……そう思うのは、僕だけ?」
「おにぃちゃんの方が悪魔だと思うな、私的には」
「なんだそれ」
「べっつにー」
妹分の沙奈は何か含みのある返しをして床に転がる。
「だらしないぞ、沙奈」
「たまの休日くらいゴロゴロするの~」
アイドルのこんな姿を見たら、ファンの人達は幻滅するのだろうか。それとも、かわいいと思えるコアなファンがいるのだろうか。
うん、それは僕のことなんだけど。
たまの休日とか言ってるけど、週4の確率で僕の家に来てるんだけど……突っ込んではいけないのか。
まぁ、いつもこんな感じでだらけてるけど、普段は忙しいはずだ。アイドルと学業の両立は大変と良く聞くし、それで学校かアイドルかを辞めることもザラにあると耳にしたことがある。
沙奈は陰で努力するタイプだから、それはないだろうけど、少し心配だ。
「おにぃちゃんおにぃちゃんっ」
「なに?」
「大好き!」
「え、ちょっ?」
沙奈は僕に抱きつき、無邪気に笑う。
「えへへ~♪」
「……はぁ、まったく」
──ピンポーン
妹分をあやしていると、インターホンのチャイムが鳴り、客が来たことを伝える。
「誰だろ」
「あっ、私が行ってくる!」
とててて……
反応を見ると、沙奈のお客さんのようだ。
もしくは、代わりに行ってくれたのか。
というか、ここは僕の家なんだからお客さん呼ぶなら事前に……まぁ、いいか。
沙奈にもいろいろあるだろうし、任せよう。
「おにぃちゃん!」
僕が正座して茶を啜っていると、沙奈は知り合いらしい女の子を連れてきていた。
「紹介するね。お仕事仲間の──」
「蒼月那冬です」
綺麗なお辞儀をする蒼月さんは、毅然としていてお嬢様といった風だ。
「仕事仲間ってことは……」
「そうだよっ。ふゆちゃんもアイドルなんだよ!」
「そうなんだ。よろしくね」
「……」
僕の差し出した右手をジッと無言で見つめる彼女は、どこか怒ってるように見えた。
「ふゆちゃん人見知りするから、恥ずかしいんだよっ。ねっ?」
「……大丈夫よ、さななん。これくらいは平気。よろしくお願いします、お兄さん」
真剣な顔付きで握ったその手は氷のように冷たく、すべすべな肌も気持ちいい。
んっ?これじゃあ僕変態な気が……。
「ふゆちゃん、好きにくつろいでね」
それ、僕の台詞だからね?
「沙奈の言うとおり、自由にしてていいからね」
「むっ……はい。では、遠慮なく」
その場で綺麗に正座をした蒼月さん。
なんだか気難しい子なのかな……?
それにしても、綺麗な子だな。沙奈はかわいい系の美しさだとしたら、蒼月さんは綺麗系の美しさだ。
そんな雰囲気を2人は持っている。
「何です?何か顔に付いてますか?」
「あ、うぅん。綺麗だなって思って」
「──!……お世辞はいらない」
「お世辞じゃないんだけどな」
「おにぃちゃんがふゆちゃんを口説いてる!」
「違うからねっ?」
「わかってるよー。褒めてるだけだもんね、おにぃちゃんは誰にでもそうだもん」
「誰にでも……まぁそうだけどさ。本当のことしか言ってないし」
「そうやって何人何十人もの女の子達を落として楽しんでるのですか」
「落とすって何さ」
「私はそう簡単に攻略できませんから!」
「あ……うん」
蒼月さん、なんだか華妃野さんみたいなこと言うな。
僕、何か知らないうちに気に障ることしちゃったかな?
──ピロピロピロ……
「ふゆちゃん、携帯鳴ってるよ」
「うん」
今では珍しいガラケーを手に取り、蒼月さんは玄関へと電話しに離れた。
誰からだろうか。アイドルだから、それに関係する人からだろうか。
「ごめんなさい。急なお仕事が入っちゃった」
「いいよっ。がんばって!」
「うん、ありがとう。また誘ってね」
やっぱりそうだったみたいだ。
アイドルというのは忙しいのだ。
「では、失礼します」
早々に出て行く蒼月さんに「ばいばーい!」と元気よく手を振る沙奈。
「かわいいでしょ!」
「うん?まぁ、そうだね」
何に対してのかわいいかはわからないけど、同意はできるから相槌を打つ。
「あのツンデレが!」
「うん……え?」
ツン、デレ……?
どこがだろう?でも沙奈はそう思うのだろうから、そういうことにしておこう。
そして、この残り休日の時間は、なんのオチもなく終わったのだった。
「あ、おにぃちゃんおにぃちゃん」
「なに?お風呂なら1人で入ってね」
「しょぼーん」




