第65話 心配事では終わらない
「はるとくんはるとくん」
放課後、いつもの様に生徒会室に向かう途中、廊下で夢前のえる学園長とすれ違い、呼び止められた。
「のえるさん」
「今暇かな?」
「ええ、まぁ」
「じゃあ私に着いてきてくれるかな?」
「あ、は」「答えは聞かないけどっ」「い……て、え?」
「にゃはは。んじゃれっつらごー!」
今日もテンションが高い人だ。
人が少ない廊下は靴の音を鳴らして響く。
そういえば、こうやってのえるさんと一緒なのはひさしぶりだな。
「さ、入って入って」
学園長室前、扉を開けて手招きをする。
「失礼します」
「堅いなあ!そこがはるとくんのいいとこなんだけどね。にゃはは」
室内は大きな机と椅子が中央にあり、周りには症状や優勝カップなど、あとは歴代の学校長の方々の写真が飾られている。
そんなシンプルな造りの室内はどこか居づらくはあるが、反面、落ち着く感じもする。
「それでのえるさん、どうかなさったんですか?」
「うん。あのね、はるとくんに頼み事があるんだ。聞いてくれる?」
「とりあえずは話は聞きます。出来ることなら手伝いますから」
「ありがとう!」
のえるさんには転校の件でお世話になっているから、これくらいは当然というもの。
むしろ何もしないというのも、僕が落ち着かないのだ。
「あのね、もうすぐ体育祭があるでしょ」
「はい」
「それで今みんな準備で忙しいんだけど、ちょっと問題がね……」
「どうしたんですか?」
「うん。今依ちゃん、どんな感じかな?」
「え?あ、えーと……そういえば、先日、沈んでましたね。父親が来るって……あ」
「それだよ!」
ビシッと僕に指を差すのえるさんは続ける。
「今度行われる体育祭の審査委員にPTAの代表も含まれるのは知ってるよね?」
「ええ、まぁ、ある程度は一応会長から聞いてますけど」
「依ちゃんの父親である依代 白山はPTA会長なの」
「それって、PTAの代表、つまりPTA会長である依代さんの父親が審査委員の一人として在籍するってことですか?」
「その通り!」
またもやビシッと僕に指差す。
「でもそれでどうなるんですか?依代さんは嫌がってましたけど」
「うん。そこなんだよ」
「ん?」
「白山さん──は言いづらいね。白さんはね、
こう言っちゃなんだけどね、親バカなんだよ」
──親バカ。
「それも、生粋の親バカ。だけど周りはちゃんも見えていてね、依ちゃんを持ち上げるといっしょに固めちゃうんだよ。最愛の娘には鳥籠を用意して、誰も近付けさせないの」
出会った初めの頃、彼女は孤独だった。
会長とか生徒会のメンバーはいたけど、クラスで浮いて孤立していたのだ。
髪の色の差別的意識や感情の乏しさがそうさせたのだと思っていたけれど、原因はそれだけではなかったのか……。
親の過保護な愛情も手伝って彼女を孤独に追いやった。
「学園長がそんな事言っていいんですか?」
「もちろん、良くないよ。けど、わたしは学園長である前に人だからね。一個人として、時には言うよ?」
のえるさんは茶化した風に笑う。
時々思う。のえるさんは大人びた笑顔をするけど、かわいいというか綺麗というか……心にグッとくるモノがあるんだよね。
「それでね、はるとくんに頼み事。依ちゃんが安心して体育祭を過ごせるようにしてほしいの。それはみんなそうなんだけど……依ちゃん、精神的に思い詰めやすいから、見てて欲しいなって」
「はい。できるだけ、目を配っておきますね。のえるさんも、体調には気をつけてくださいね」
「うん!はるとくん大好きっ!!」
「ちょ──っ?!」
ガバッと抱きついてきた小さな学園長を剥ぎ取りながら、僕はもうすぐ始まる体育祭がうまく行くよう、祈っていた。




