第60話 勝負では終わらない
もうすぐ文化祭って事もあり、HRでは各競技種目の出場者が決まって、それについての説明がされた。
それが終わると各自解散で放課になった。
放課後、僕は生徒会室に行かないでそのまま聖橋さんの家に行くことにした。
ちゃんと策もあるし、今日こそは話をしないと。
「時峰、今日も生徒会か?」
戸田君が声を掛けてきた。
「うん。と言っても、仕事で出張だよ」
「いつも大変だな」
「うん、まぁ、もう慣れたよ」
「そうか。頑張れよ!」
「ありがとう」
笑って見送ってくれる戸田君をあとに、僕は教室から出た。
瞬間、
「──きゃっ」
誰かとぶつかり、短い悲鳴が上る。
相手を見ると、尻餅を突いた綾未さんがそこに居た。
「ご、ごめん」
「私もごめんなさい」
互いに謝って、僕は綾未さんの手を引いて起き上がらせる。
「……」
「……」
「えと、それじゃ僕は行くね」
「う、うん。またね」
胸に引き寄せてしまい、目と目が合った瞬間に気まずくなって離れる。
綾未さんは教室の中へと入って行くのを見送ってから、中で話し声が聞こえたのを聞かないようにして僕は聖橋さんの家に向かう為に学校を出た。
家のインターホンを鳴らして中の人を呼ぶ。
ガチャリ、と玄関の扉が開く。
「いらっしゃい」
鈴蘭さんに迎えられ、お邪魔する。
今日こそは桜花さんに会って話さないと。
「桜花さん、時峰です。会ってはくれませんか?」
ノックして反応を待つが、無反応だ。
やはり、会ってはくれないのだろうか。
「仕方ない……帰ります」
「ごめんなさいね」
「いえ。桜花さんと対戦したくて持って来たゲームも無駄になりますけど……まぁ、対戦する前に敵前逃亡ですから、よっぽど外に出たくないのでしょうから」
「?そうね~。仕方ないわ」
鈴蘭さんも天然で話に合わせてくれてる。
挑発とは程遠いけど、聴いてくれていれば出てくるかも知れない。
「では、しつれ──」
──バタンッ
と、勢い良く扉が開いた。
この子が桜花さん……プロフィール通り小さ
「キッ──。今、何か失礼なこと考えやがっただろ。オマエ、生徒会だってな。何しに来た。てかアンタ、勝手に入れんなよこんなヤツ……チッ」
「ごめんね、けどね、私は……」
「いいからもうどっか行け。オマエ、よくも言いたい放題言ってくれるな。敵前逃亡?笑わせるな。あたしはオマエから果たし状すら貰ってねぇっつの。勝手に決めやがるな。いいじゃねーの。受けて立ってやるよ、その安っぽい挑発にな」
なんかいろいろ解っての発言だった。
態度というか口調というか、悪いな。
きっと何かしらのコンプレックスがあるのかも知れない。そこら辺も探ってみようかな。
「おら、入れよ。アンタはさっさとどっか行け」
「うん、ごゆっくり~」
なんだかんだでマイペースな母親であった。
「けっ」
僕を中へ入れて扉を閉める。
中は暗かった。
「明かり点けたきゃ点けな」
扉の近くの壁を手繰る。すると、硬い出っ張りがあった。
これかな──パチッ。スイッチをオンすると音を立てて室内は明るくなる。
見事なゲーム部屋だった。
オマケというようにベッドが隅に追いやられ、カセットが棚にビッシリと詰まっていて、選り取り見取りだった。
床には家庭用ゲーム機から携帯用ゲーム機が散乱している割には整理がされていた。
テレビ前には席であろうクッションが敷かれており、ずっと座っていたことがわかるくらいに潰れていた。その回りだけごちゃついていて、他は整理されている、大事にされているのが見て取れる。
「んだよ、てきとーに座りやがれ」
おらよ、と投げつけたのは座布団だ。それもピンクのフリルで縁取られた、かわいいのだ。
意外、というか、全部が予想外でそれが意外なのかわからないくらいだった。
ゲーム好きなのは前回来た時に予想は出来ていたけど、これほどまでとは思わなかったし、引きこもっている割には整理整頓もきちんとしているみたいだし、少し気後れしてしまっている。
「んで、敵前逃亡とか言ってくれやがったくらいだしな。オマエ、ヤれんだろ?」
──ニヤリ
瞳に怪しげな禍々しさと真っ直ぐな煌々とした光が灯っている様に見え、もう少しやり方考えた方が良かったかな?なんて思ってもしまったけれど、ここまで来たからにはやるしかない。
「勝負だよ。先日発売された、このゲームで」
「なるほどな……いいぜ、ヤってやろうじゃねーか」
見せたパッケージ。それは何日か前に発売された格闘RPGのゲームだ。
王手のゲームメーカーの出だが、そんなのは関係ない。
求められるのは、強者になれるかどうかの〝腕〟だ。
「まだ最近発売されたばかりの新作だから、互角に戦えると思うよ」
「はっ、簡単に言ってくれるけどよ、オマエは昨日今日それを買ったんだろ?あたしは発売日より前から手に入れてやり込んでんだ。差は歴然だと思うぜ?」
「フラゲか……」
フラゲ。フライングゲットの略で、発売日より一日以上前に手に入れることをそう言う。
そうか。どうやって手に入れたかは興味はないけれど、ファンはこんなに身近にいるんだ。
「どうした、震えで言葉も出ないか?」
「いや……楽しみだよ」
「チッ。そんな甘ったるい言葉を吐けるのも今の内だ」
不機嫌になった彼女はゲーム機を手に取る。
僕もそれに倣ってゲーム機を取り出して起動させる。
会社の名前が画面に現れ、流れる。タイトルが出たら対戦モード、通信対戦を選択。
「ルールは時間無制限の三セットマッチ。先に二セット先取した方が勝ち、いいな」
「いいよ。むしろそれくらいのハンデでいいのかなって思ってる」
「言ってろ」
キャラは一番扱いが難しいとされる隠しキャラにする。
「それでいいのかよ。隠しが強いとか思ってる奴は大抵にわかなんだよ」
対して桜花さんはシンプルに剣士の主人公を選ぶ。確かに扱いやすいキャラで人選としてはいい感じだ。
ステージはランダムに選ばれ、街とか無縁な緑溢れる森の中のステージになる。
ready?の表示。
>Fight<
試合が始まった合図で同者相手の動きを見る。
「来いよ」
挑発なのか、キャラを前後に素早く動かして荒ぶらせる。
その挑戦的な行動に乗ることにする。
僕は知ってる限りの操作でパッドとボタンを駆使する。
「──は?」
わけがわからないよ、という顔をしながら画面を見詰める桜花さんは、ちょっとかわいかった。
僕の画面には『Win』の表示。これで二連勝だ。
「てめえ、何しやがった、いや、何したらこんなんなる!」
「僕は知ってる動作しかしてないよ」
「んなバカなことがあるかっ、これじゃあ──チートじゃねぇか……!」
「桜花さんは知らないんだね、この隠しキャラにおける──強味がね」
「……っ」
「あ、僕帰らないと」
また妹分が来ているに違いない時間だ。
「ま、待てっ。帰る前に、その強味ってのはなんだ!?教えてくれっ!」
「明日、学校に来てくれたら教えてあげるよ」
「……それが狙いか」
「うん。わかってるんでしょ?わかった上で勝負を引き受けた。違う?」
「……」
「明日学校に来たら教えてあげる」
「……なあ」
扉を開け、廊下に出る前に声が掛かる。
「行ったら、あたし……いや、なんでもねぇ──て、何を……うわにゃあっ!?」
引き返して桜花さんの頭を無造作に撫で回す。
「大丈夫。桜花さんはかわいいから、友達なんてすぐ出来るよ。僕がその証拠」
ゲーム機を見せて笑う。
きっと不安なんだろう。学校に行くことが。
詳しくは知らないけど、根っ子のところでは寂しいと感じているのだと思った。
「……うっせぇ。早く帰れ」
顔を赤くして、目を逸らして相変わらず乱暴な口調だけど、嬉しそうだ。
「うん。またね、桜花さん」
「──またな」
声は小さかったけど、確かに聞こえたその言葉を背に、僕は帰宅したのだった。




