第59話 お宅訪問だけでは終わらない
その日の放課後、僕は桜花さん(親と区別するために下の名前を呼ぶことにした)を訪ねることにして聖橋家にまたお邪魔することにした。
母親である鈴蘭さんは快く受け入れてくれたが、当の本人といえば……
「桜花さん。僕、時峰悠人と言います。今日はお話をしたくて来ました。会ってはくれませんか?」
『……』
鈴蘭さんと顔を見合わせ、落胆する。
この通り、無反応である。
ノックしても反応はなかった。寝ているのか無視しているのか。
それとも、何かしら音をシャットアウトしているのか。
「普段、桜花さんが何をなされているのか、わかりますか?」
「そうね。あの子の趣味ゲームだから……たぶん、ゲームばかりしていると思うわ」
「そうですか。わかりました。今日の所はここで退散致します」
「いつでも遊びに来てね」
鈴蘭さんにお辞儀をして家を出て向かったのは、ゲーム専門の店。そこで幾つか買い物してから帰宅した。
「乗ってくれるといいけど」
そこから帰宅すると、沙奈が玄関前に待機していた。
「おにぃちゃん、おかえり!」
いや、ここは僕の家で……なんて、もういいか。
「ただいま。疲れただろ」
「ううんっ、平気だよ。これでもアイドルなんだから。体力は自信あるもん」
「そういえばそうだったね。忘れてた」
「ひどいよ~!」
「あはは」
鍵を解除してノブをひねりドアを開ける。
僕の家はアパートの仮住まいだが、居心地はいいので替える気はないかな。今の所は。
なんて、沙奈の帰る場所にもなってるのか、ここは。
なんだか拍子抜けしちゃうな。
「沙奈、夕飯何食べたい?」
「え、いいの?」
「もちろん」
「じゃあハンバーグ!」
「おけっ」
たまにはこういうのもいいかな。
日に日に脆くなる殻は、悲鳴を上げることさえ出来ないでいた。
募る想いと、焦る衝動はどうにもなるものではなかった。
──この時にはまだ、僕には余裕があった




