第45話 説明するだけでは終わらない
自称時峰悠人の母親の猫耳少女(背的には小学校低学年だな)嘉愛の躰を洗っていると、日笠日和の姿が入り口にあった。
「……は、悠人先輩……その、お邪魔してしまいましたか?」
目線がこっちを見たり宙を見たりと泳いで頬を赤くしながら訊いてくる。
そうだった、失念していた……日和は女の子ではなく、〝男の子〟であった。それは先日に明かされた事実ではないか。本人からの証言がある。
ということは、男湯に来るのは必然であり普通だ。いくら隠しているとは言え、お風呂に入らないのは非合理的。
日和が綺麗好きなのも考慮すれば、なおさらなことだ。
いや、今はそんなことはどうでもよく。
「い、いや……これは、その……理由があってさ」
噛んでしどろもどろに弁明を計る。
「なんだ、男子か。女子かと思うたぞ」
だが、猫耳幼女(少女というよりはそっちの方がしっくりくる)が口を挟んで会話に参加した。
「あ、えっと……わ、私……あ、えと、ぼ、僕は……」
すごい噛んでるしこの状況にも順応できなくて挙動不審になる日和さん。
確かに、パッと見女の子なんだよね。身体は華奢だし、顔も小さくて肌は色白い。女の子の服を着たら完璧だ。
だけど、その身は実質男だ。生物学的にも、男性。
本人もバラしたように。でなければわざわざ男湯に来る理由が見当たらない。
「ごめん、説明はするからさ。良ければこっちに来て一緒に洗おうよ」
「あ、でも……お邪魔ですよね。わた──ぼくは男だし、その……」
僕が知らない女の子と一緒に洗いっこ(?)をしていたのを見て、誤解をしているようだ。
「大丈夫だよ。いいから、僕の言うとおりにして」
「……は、はぃ!」
命令口調になってしまい、半ば強引に呼んでしまった。
「……」
おどおどと少し怯えを見せながらプラスチック(かな?)の椅子に座って日和さん。
「あと、普通に『私』でいいよ。この子なら平気だからさ」
「あ、はい」
「良い子だのぉ。肌もきめ細かく触り心地が良さそうだ」
「……あの」
「日和さんが怖がるから、いきなりそういうこと言わないで」
「そうかの?だがしかし。男子にしとくのは勿体ないとは思わぬか?」
思いますけどね。
口にはしないけど。
「だからって、セクハラは僕が許さないよ」
「さっきまで私の柔肌を楽しんでおった者の言うことかの?」
一言余計だけど、一々目くじらを立てるのも大人気ないかな。
反論するのをやめて、水をかけて嘉愛の身体を洗い流す。
「スッキリするのぉ。さて、私は湯船を楽しむとするか」
女子同士だからセクハラも何もないと思うがの。
そんな一言を残しながら丸く帯びたお尻を後ろに入浴しに行った。
「……あの、悠人先輩」
「ん?」
あくまで冷静で、ポーカーフェイスで対応する。
「あの女の子はどなたでしょうか……?あ、いえ──ダメだと仰るのなら答えなくても……!」
「いや、別にダメじゃないよ?」
どうしてそんなに慌てているのだろうか。
そんなに僕が幼女といたのが不審だったのだろうか?
だとしたら、ちょっと悲しい。
「あのね──」
本当のことを、順を説明する。
部屋に戻ると、そこにいたこと。ソーダ味の飴を気に入ったこと。僕の母親と同じ嘉愛を名乗り、母親と申し出た。お風呂と入りたいと言ったから、今ここにいること。
そんなついさっきまでの成り行きを。
「……そういうことでしたか」
神妙な顔付きで頷く日和。
それにしても、どう見ても女の子だな……。
張りのありそうなすべすべした肌に、柔らかくも丸い体つき。毛も産毛のようで、足や手なんかには剃った形跡も生えた形跡も見当たらない。
それに加え、顔立ちも幼く髪は黒く長い。
これは女の子にしか見えない。
ある部分を隠せば、の話だけど。
「あ、えと……何か私に付いていますか?」
声も女性に近いソプラノボイスだし、本当、淑女として申し分ないな。
付いていると言えば付いてはいるが、そこは指摘しないのがマナーだな。暗黙の了解的な意味で。
「いいや。ただ、本当に男なんだなって」
「──あ」
察したみたいで、顔を赤くして俯く。
「信じて……なかったのですか?」
「いや、信じてはいたけど……実感が持てなかったというか。これでやっと実感が持てたって感じかな」
「……それは良かったです」
上目遣いをまた俯かせ、顔をさらに赤くさせてそのまま動かない日和。
「まぁ、まだ慣れないけれど。これからも仲良くしてほしいね」
「あ、はい……もちろんです!」
お互い笑い合い、躰を洗った。
「……ふぃ~。極楽ー、極楽ー……っと」
頭にタオルを乗せ、爺臭い猫耳幼女は、頬を緩ませて気持ちよさそうに入浴を満喫していた。




