夜の渚にこれほど似合わないカップルも珍しい
エレンとアベさんとの練習試合を終え、ギャラリーアーミーとの戯れをこなし、ヘトヘトの俺。えーと、あとなんだっけ?あ、そだ。ウィンドウの俺研究に協力するんだった。待たせたなウィンドウ。「ちょっと海の方に行かない?」ああそうだな。俺もなんかひと気のないとこ行きてえや。
この時の俺は知る由もなかった。まさかウィンドウが…。余りに意外なその行動とは?
RPGっぽい異世界なう。
なんだかそのまま米兵にかこまれて肩叩かれたり写真取られたり…こらこら。コミコンとかのコスプレイヤーじゃないぞ。一応騎士資格持ってるこの世界の公務員だぞ。良く言えばフレンドリー。悪く言えば激・馴れ馴れしい。って言ってるそばからパシャッ!って。せめて一言断わってから撮ってよ!もう!
「清水君。」
米兵の人だかりを掻き分けて、ひょこっと顔出したのは…。
あ、せん…もなみ。
「先に宿舎に戻ってるね。一通り落ち着いたら声かけて。起きとくつもりだけど…もし寝てたら起こしていいから。」
わかった。寝てていいよ。色々あってもなみも疲れたろ?…ファムは?一緒?
「それが戻って来ないのよ。向こうで何かあったのかもしれない。」
…親父さんに見つかったのかもな。だとしたら道中、より慎重にならないと。最悪、回復魔法はアテにできなかったり…。
「まあどちらにしろ今すぐどうこうできないし…打合せの内容、考えとくから用が済んだら宿舎で、ね。」
わかった。
「ヒロ。」
あ、エレンとアベさん。
「エゥー・エプスル。ドゥーグニグテ。」
ばささ、と鳥ウィンドウがエレンの肩から俺の肩へ。
ウィンドウが耳元で囁く。
「先に休むぞ、お休み…って言ってる。」
ああ、ドゥーグニグテ!
…こっちが「お休み」だよな。
その後も米兵たちに三十分余り絡まれ続け…剣貸してくれとか振って見てくれとか肩組んで写真とってくれとか…最後の三人が揃って宿舎に戻って行く頃には、俺はなんかもうヘトヘトだった。あー…しんどい。大体エレン、アベさんと連戦しただけで既に体のあちこち痛い。特に剣を振った腕。試合中や直後はアドレナリン出てたためか平気だったが…落ち着くにつれて早くも筋肉痛のプロローグ。んでそっから更に英語話すムサくてゴツいあんちゃん達に囲まれてあーだこーだ言われた日にゃ…熱出して寝込みそうだ。はぁぁ…。
「やっと解放されたわね。」
…ああウィンドウ。待たせた。お前と質疑応答だったよな。
「ちょっと海の方に行かない?元の姿で話したいわ。」
ああ構わない。俺もなんか人けのないとこ行きてえや。
鳥ウィンドウ、答えのつもりか、くええっと一鳴きした。
夜の渚なんていつ以来だろ?
基地から二三分も歩くと狭い湾に面した三日月型の砂浜に出た。二つの月が雲から顔を出し、海面をきらきらと照らす。ウィンドウは既に魔術師シルエットになってるが…夜のこいつはカモフラージュ率高い。雲の加減でいないみたいになる。
波打ち際をちょっと歩き、俺は適当な所で腰を降ろした。
ふぃー…くたびれた。
このまま大の字になって寝ちゃいたい。
ふわっと頬を撫でる夜の潮風が心地いい。
ウィンドウも隣に腰を降ろす。
なんか…変な感じ。
携帯見ると時間は八時前。
まだこんなもんなのか。
あ、そういやウィンドウって眠ったりするのか?
「部分的にね。システムや記憶のメンテナンスの為の機能休止を、わたしの内面の部分部分で順番にやってるわ。人間みたいに横になって眠ったりはしない。」
へえ。合理的だな。人間もそんなならずっと起きておけるのに。
変身は?何パターン位できるんだ?
「パターンはそんなに多くない。すぐなれるのは二十種類位ね。主にこの世界の生き物や魔物だけど。」
馬みたいなのとか…魚とかもパターンにある?
「なれるわよ。ウェルトゥに起こる不測の事態に、基本的にわたし一人で対処できるように移動手段や戦闘手段としていろんな姿になれるスペックをもらってるの。」
すぐになれるのは…ってことは変身パターンって後から増やしたりできるの?
「できるわ。わたしが立体として大きさや凹凸の具合いを近くで見て把握したものなら。例えば…」
ウィンドウは、わわっと滲むと再びはっきり像を結ぶ。その形は…俺だ!鎧や髪の感じまで!
色は真っ黒だけどまさしく俺!
またわわっと滲んで元に戻るウィンドウ。
すげえな。無生物…例えば机とか椅子とかにも?
「なれる。まあよっぽどのことがない限りなりたいとは思わないけど。」
そう言うとウィンドウ…微妙だけど、笑った?
影ってのも悪くないな。まさに変幻自在。魔法も使えて永遠の命があって…お前自身も、お前の本体の魔術師もほんとにすげえなぁ。ほとんど神様じゃん。
「…そんな…いいものじゃないわ。やってる本人からすれば。」
今の仕事…管理人の立場…イヤなのか?
「管理人の立場は嫌ではないわ。それがわたしの存在理由だから。ただ最近…ちょっと色々思う所があって。」
まあそうだろうな。影だ管理人だっつってもハッキリ人格…心があるんだ。モヤモヤすることもあるわな。
「…ええ、まあ…そうね。そのとおりだわ。…所でそろそろ質問してもいいかしら?なんかあなたばかり質問してるみたいだけど。」
ああわりい。なんかウィンドウって滅多に会えないタイプの存在だから、なんかこの際聴いとかなきゃってなるんだよ。
でもお前から見りゃ俺がそうなんだよなぁ。そう思うと妙なもんだ。
「ほんとね…世にも珍しい珍種同士。よくも出会ったものね。」
ちょっと待て!俺はそこまで物珍しい珍種じゃないぞ。むしろクラスに一人くらいは居るタイプだ。
「あなた以外は口を揃えてあなたのことを普通じゃないって言ってるように思うけど?」
普通のおっさんおばさんの子供で、成績は中の中のド平均。SFやファンタジーやオカルトや兵器軍事にチョッピリうるさい文化系オタク青年としては、ごく普通だ。
「…なんか面倒臭いから普通ってことでいいわ。」
こらそこ!面倒臭がるな!俺の主張が通った感が全くないだろ。
くすくす…って。
なんかウィンドウ…最近よく笑うようになった?
「だっておかしくて。ね、教えてヒロ。あなた、誰かを好きになった時…どうなるの?」
で⁉…どんな質問だそりゃ?
うー…でも、まあ、答える約束か。
そうだな…。好きになると、というか、まず「なっちゃう状態」が先にあって、段々「あ、俺…この子のこと好きなんだ。」って自覚する感じだな。大体。
「…よく分からない。どういうこと?」
んー…場合にもよるが、大抵まず用もないのに目が追っちゃうんだな、その子のことを。
「うん。それで?」
その子としたほんの少しの些細な会話の内容とかをいつまでも鮮明に憶えてたり、挨拶の時ちょっとニコっとかされただけで胸がざわついたり。
「ふんふん。」
すれ違う度に振り返ってみたり、その子が別の奴と楽しげに話しとかしてるとスゲー内容が気になったり。
「…そこで好きだ、と気付くのね?」
いや。この段階ではまだ自分で否定するんだ。なんかわかんねーけど。違う、そうじゃない、好きなんじゃない、恋じゃない…って。
「どうして?」
さあ?勘違いだったらお互い妙な感じになるからかなぁ?恋愛の成功体験がないから、辛い目見るのを本能的に回避しようとしてるのかも。
「…なるほどね。それで?」
で…寝る時とかにその子のこととか考え始めて…挙句起きてる時もその子のことばかり考え始めて…自分で自分に言い逃れできなくなって観念する。
ああ、俺はあの子のことが好きなんだ…って。
「…手間暇かかるのね。」
ほっといてくれ。
そうじゃない奴もいるんだろうけど、俺の場合はな。
「…で?」
そうなったら告白するよ。もう。タイミングと手段の検討に入る。
「へえ!好きを自覚するまでに時間掛かるのに自覚したらすぐ行動するのね。」
初恋がな…気持ち伝えないまま向こうに恋人ができて投了でさ。もんっすごモヤモヤが残ったから。気持ちを自覚したらダメだろうがなんだろうが伝えるんだ。振られりゃ諦めもつくが…何もしないうちに終わった恋の悔しさと言ったら…のたうちまわる程だからな。誇張抜きに。
「その…初恋の相手がもなみ?」
…ああ。
「告白した相手が…ファタリ、ね。」
そうだな。そうなるな。
「……。」
どした?
「いえ、なんでもないわ。人を好きになって…失恋だ告白だってなったのはその二人だけ?」
なんのインタビューだよ、そりゃ。
ん、まあ小坊中坊の時も好きな子ってのはいたし、大学入ってからもかわいいなと思う子はいたが身悶えするほど好きになったり、残り一生棒に振ってもいいやって思ったのはその二人だけかな?
「…そう。そうよね。」
なんかトーン暗いな。どした?ウィンドウ。大丈夫か?
「ええ…大丈夫。ねえヒロ、一つ実験に付き合ってくれない?確かめたいことがあって。」
実験?今?ここで?
ウィンドウは立ち上がる。
「すぐ終わる簡単な実験よ。大丈夫。痛くも痒くもない。立って。」
やれやれ。すっかりこいつの研究対象だな、俺。
俺は立ってズボンの砂を払う。
で?どうすりゃいいんだ?
言っとくが変な魔法かけたりするなよ?
「そんなことしないわよ。ちょっと眼を閉じて。じっとしてて。」
なんだってんだ。痛くも痒くもないけどものすげー痺れるとかねえよな?
ウィンドウがすい、と俺に近寄るのが分かった。そのままふわっと俺は何かに包まれる。
日に干した布団のような…。
待て!これ…抱きしめられてないか⁉
次の瞬間、濡れた柔らかいものが唇に当たる。
え⁉ と思わず眼を開ける。
すぐそばにウィンドウの黒い顔。
俺は彼女に…ウィンドウに抱きしめられながら、キスされていた。




