VSアベェンスグストゥス ラウンド2!ファイッ‼
剣術稽古の練習試合二試合目。相手はアベさん。生半可な小細工は通じねえな、きっと。ここは負けて元々、今の俺の持てる力…全力を見てもらおう。臆さず戦います!行きますよ!アベさんっ‼
RPGっぽい異世界なう。
剣を正眼…切っ先が眼の高さになるように構える。その先に右手に剣を持ち、すっと立つアベさん。構えは取っていない。が…なんだろう、この「斬りかかれない感」。何をしても即座に対処されそうな…気負い過ぎ?
「レッヒ・ェウォズ。」
「はじめよう、ですって。」
だらん、と下がるアベさんの剣。距離は6メーターってとこ。ひと駆けして飛び込めば剣の射程だが、少し遠い。ふう…。落ち着け。中距離からの駆け込み斬撃なんかが通じる相手じゃない。間合いを、詰めよう。その前に。
うぉぉぉぉぅっっ‼
剣を構えたまま叫ぶ。
正しく発する気合いは、それだけで勝負を決めることもある。
もちろんアベさんはそんな甘くはないが、臆さず戦います!って宣言みたいなもの。
厳しい表情のアベさんの頬が少し緩んだ。
俺は焚き火を背負うように左に回り込みながらアベさんとの間合いを斜め移動で詰める。アベさんはこっちの出方を見るつもりか、体の向きを自然に変えるだけで間合いを取り直したりはしない。剣はだらりと下がったまま。身のこなしも…普段その辺を歩く時となんら変わらない。
俺はと言えば…手にも足にも力が勝手に入り、太ももと二の腕のあたりがなんかしびれたみたいになって。自分の体じゃないみたいだ。ふう…もう一度息を吐き、肩を軽く回す。
距離は4メーター弱。ここからはじわじわジリジリ間合いを詰める。一足一刀。
もう剣は届く。でもそれじゃ十分じゃない。体重を掛けた威力のある斬撃を相手に浴びせるには体当たりするくらいの間合いと勢いがいる。どうだろ。あと…1センチ…!
今‼ 地を蹴ってアベさんに向かって飛び込む!
剣を正眼から上段へ。防御は捨てる!振り降ろしの方が剣の足が速い。なんだかんだで俺のが若い。警戒されてるだろう小細工も抜き!初速で勝負!真っ向!唐竹割りぃっっ‼
シュルルッ!
うわっ‼躱され…いや、いなされた⁉
くる、と身を躱すアベさんとすれ違う俺!
なんだ今の音!剣を剣で受けてなんであんな音がするんだ⁉
踵を返してもう一度!
下段斜め後ろに剣を構え、自分の体で剣を隠したままアベさんに駆け込む!体ごと両腕を回す!大振りで軌道は読まれるだろうが、どうせ何したって読まれる。なら勢いと渾身の力で受けた防御をはじき飛ばせ!
でやぁっっ!
スラーンッ!
俺は見た!アベさんの剣先が俺の剣先に触れるやいなや、エスコートするようにピッタリくっついて…磁石にでもなってるのか? …なめらかに行く先を変えてリリースした!そしてまたアベさんはくる、と小さく身を翻して俺本体を躱す。
…遊ばれてる。円弧流水の剣、か。それなら!
俺は一旦距離を取り直す。息を一つついて、肩の力を抜く。くるん、と手首で一回、剣を回す。…よし、回る。夜の甲板での練習を、今ぞ活かす時!
ふっ!
たたっと短いツーステップで間合いを詰める。
そのままボックスを踏むように足をクロスし、身を回す!足首、膝、腰、肩、肘、手首…足から連なる全ての関節を柔らかく回し、俺自身が一つの渦になるようなイメージ…回転に回転を重ね、俺の剣はサイクロイドやクロソイドの曲線を伴った連撃を生む!流剣!つむじ風・朧‼
アベさんの剣が初めて上がる。
キィン!
ガギン!
二撃目まではまともに防御したアベさん。だが三撃目からは!
アベさん本人の動きも円と曲線になり始めた!柔らかい…そして速い‼
俺の連撃に巧みにタイミングを合わせ弾き飛ばしつつ、ふっと空いたスペースに鋭い攻撃を差し込んで来る!あぶっ!うおっ!
防御に追われ、俺の回転のリズムが狂う。増える隙とアベさんからの攻撃。ますます狂うリズム!…ダメだ!支え切れん‼
下からすくい上げるようなアベさんの一撃を、全力打ち下ろしで弾いて、俺は飛びずさる。
はあ、はあ、はあ、んぐ!
強えええ!アベさん!やっぱ小細工全開で戦うべきだった?いや…何を今更。えーい弱気な!
‼ …アベさんの動きが!
あれは…ゆらぁ〜…元祖!歩法!柳葉 ‼
いかん!仕掛けが分かってても目で追ってしまう!このままじゃ思うツボ!迷ってる暇はない‼
俺は体を半身に、剣を片手上段に構えると…眼を閉じた。心眼なんて勿論無い。柳葉の動きは相手の視線を誘導し、欺く所に奥義がある。ならミスリードの動きを見ずに…足捌きの音に集中すれば。
ざざざ…ざざ…ズザッ!
後ろ‼
俺は背中に剣を回した!
王の間で見たキムタク防御!
キィィィン!
びっくりするほど澄んだ音色が響き渡る!
剣は使えない!俺はダメ元で低い回し蹴りを放つ!飛びのくアベさん!
俺は剣を両手持ちに構え直し、アベさんに向き直る。
アベさんの雰囲気が変わる。
何かする気だ…あの構え!
クマゴリ殺しの瞬剣!迅雷‼
って俺相手に⁉
しかも!ゆらぁ〜って…それ試練の王にかました最強コンボじゃないっすか!俺を過大評価し過ぎ‼
むう!さすがに迅雷相手に眼はつぶれない!
ならば俺も‼
ゆらぁ〜…そして剣を中段水平に構える。柳葉vs柳葉。本家アベさんにどこまで通じるかわからんが、突撃の狙いが少しでもそれれば。
迅雷は神速の捨て身突き。攻撃速度は恐ろしいが、性質上攻撃は一直線。途中で軌道も大きくは変えられない。腰だめの構えからは低い位置しか狙えない。
コンボ発動の瞬間、全速で後退して相対速度を遅くし、水平の構えから下回しに全力でアベさんの剣を弾く!…イメージで。
一回しか見たことないが、キムタク相手に一緒に飛び出したタイミングは忘れてない!恐らくアベさんを見失うと同時に、全力でさっき言った回避運動に入れば!
アベさんの膝揺らしの予備動作…いつもより長い。いや、そう感じるだけか?
その時!アベさんの姿がふわっと滲むように宙に消えた!
今‼
アベさんは勿論、その剣も見えない!だけど突っ込んで来てるんだ!弾いて防げ‼
ジャリィィンッ!
突き出されたアベさんの剣を俺の剣が薙ぎ払うように弾いた!
やった!防いだ!アベさんの超必殺‼
だがそこまでだった。剣を弾かれるに任せ、アベさんはそのまま肩から俺に体当たりを敢行した!
後ろに飛びのきながらの俺に体勢を立て直せる筈もない。
体当たりをまともにくらった俺は地面にひっ倒れて、したたかに背中を打った。
げへあっ!
身を起こそうと顔を上げると、そこにアベさんの切っ先が。
エレンが短く叫ぶ。
「アロウブ!」
「それまで!」
はぁっ、はぁっ、はぁ…ふぅっ。うう…参りました。
やっぱ敵わんな、アベさんにゃ。
アベさんに助け起され、剣を鞘に納めて礼。鎧下やズボンの砂埃を払う。アベさんが近づいて来る。その肩に鳥ウィンドウ。
…ありがとうございました。勉強になりました。
「いや、勉強になったのはこっちだ。膝揺らしからの捨て身の突き…躱されるとは思わなかった。滅多に使わないんだが…生身の人間で躱したのはヒロ、お前が初めてだ。…ですって。」
その王の時に一度見てたし…アベさん手加減してたでしょ?実戦なら俺、完璧に串刺しでしたよ。
「あれを躱して満足したな?その後を考えてなかったろ?」
…はい。
「下がって躱す…では弱気だな。さっきのように追い討ちに対処できん。相討ち覚悟で前に出て俺の間合いを潰す気持ちで、逆に斬り込んでいれば、勝ってたのはヒロだったかも知れないぞ。」
そこまでの覚悟がなかったです。咄嗟に躱す事で頭一杯に…まだまだですね。
「円弧の剣…あれは誰に習った?いつ?」
いや、見よう見真似で。ほらウァルハァの手下の骸骨軍団と戦った時。以前アベさんが斧で戦ってるのを見たことあったからそれを参考に。
「あの時より動きも大きく、体全体を使っていて…動き自体がのびのびしていたようだが?」
…ちょっとだけ練習しました。みんなが寝た後。船の甲板で。
「大した奴だ、ヒロ。向こうに帰すのが惜しくなる。お前の剣の腕は俺の想像以上だった。お前の剣は『考える剣』だな。力が強いとは言えないが、変化や工夫があって手ごわい。お前はお前自身が思っているよりずっと騎士に向いてるぞ。騎士は戦って勝てばいいだけじゃない。どうすることが一番いいことなのか、常に考えて剣を振るわなければならない。お前はすでにそれができている。十分に。」
え!いや!あー…えと、それほどでも。ごにょごにょ。
「謙遜するな。胸を張れウェルトゥの騎士。観客が見てる。大袈裟にしなくていいが、手ぐらい振ってやれ。…だそうよ。」
そういうとアベさん、ぽんっと俺の背中を叩いてウィンクした。
観客…?
でっ!いつの間にか結構な数の米兵が取り巻いてんじゃん!なに?見てたのこの人たち!三十人ぐらいいる?暇なの?仕事しろよ!海兵隊!おお!拍手と歓声と口笛と…なんかスラングっぽい野次、ありがとう。小さく手を振って応える。あ!あそこにこっそり先輩も混じってる!負けて倒されたとこだけ見られたっぽい!エレンには勝ったのにそこは見てないな…。ま、こういうもんよな。とほほほ。




