VSエレレンナンシュタト ラウンド1! ファイッ‼
無茶ぶりの騎士エレンとの練習仕合。いや勝てないっすよ。…まともに戦えばね。みたとこエレンは余裕で勝つつもりで完全に俺を下に見てる。そこにチラつく微かな勝機。ダメ元の…自分より強い相手との戦いの回数なら、きっとエレンにも負けてない!オタク学生にはオタク学生の戦い方があるってとこを見せてやる‼
RPGっぽい異世界なう。暗くなり始めた仮宿…プレハブのそば、焚き火の近く。
キルトっぽい生地の鎧下姿で剣を手に対峙するエレンと俺。エレンがふわっと柔らかく二刀を構える。左右に均等に開いた二つの刃。ゆるゆると開き、上がり、殺気を含んでそそり立つ。同時に足はじりじりと前後ににじり開き、腰は落ち、あらゆるアクションに備える。
「ワイァン・エティメ。ティクニグ・ウェルトゥ。」
普段は人懐こい無茶ぶりの騎士が不敵に笑う。
「いつでもこい、ウェルトゥの騎士。…だそうよ。」
アベさんの肩の鳥ウィンドウが通訳する。
静かに降りる夜の帳…揺らめく炎が俺とエレンを照らし出す。
約束通りエレンとの練習仕合い。昼間はああ言ったけど、俺も男の子だからな。ぶっちゃけどうせなら負けたくない。アベさんも見てるし。とは言え残念ながらまともな剣の腕なら絶対エレンに勝てない。見た感じ気のいいお兄さんだが、その実、腕一本折りながら一人でクマゴリ倒す豪傑だ。だから「剣以外の勝負」に持ち込もうと思う。イチかバチかになるが…なに、負けて元々。なおかつ負けても死ぬわけじゃないし。
二刀流の有利なところは二つの武器で分業が可能な所だ。エレンの場合、左手の小太刀は防御的役割だろう。対する俺は剣一本。迂闊に斬り込めば小太刀で受けられ、ほぼ同時に右の長刀でフィニッシュされる。盾と違い、剣撃の応酬の中で逆の使い方…長刀で受けて小太刀で斬ることも当然できる。攻めては二箇所同時に斬りつけることで傷を負わせる確率を倍にすることができるし、相手が防御に躊躇すれば一気に二箇所を斬れる。そうなれば実戦ならもう、ほぼ勝負が着く。対人刀剣戦闘では先に手傷を負わせた側が圧倒的に有利だからだ。痛みで動きは鈍り、集中力は削がれる。そんな中、元気な敵から二撃目三撃目が来るのだ。まず勝てるわけがない。…じゃあ二刀流の不利な点は?片手一本で一つの刀を操っている所だ。まともに全力で斬り結べば、両手剣の一撃の重さを受け切れない。恐らくエレンは受け流す動きで俺の打ち込みを反らす戦い方をするハズ。片手で重い刀をデリケートにコントロールして初めて完全に優位に立てる…二刀流は熟練を要するのだ。そんな流儀のエレンは、俺の剣の気配や動きに全神経を集中し…一手二手三手、先を読んで来るだろう。そこを、はずす。
俺はエレンに斬り込む。
工夫なく、まともに。
予想通り俺の剣を小太刀で受け、流すエレン。
間髪入れず横一文字に閃く長刀の一撃!
だが予想していた俺は飛びのいて躱す。
二撃目。右から左に切り返すフェイントを入れて勝負手を思わせる強烈な一撃を!
エレンは長刀で弾き、小太刀で突いて来た!
これも想定内。攻撃直後から守りに転じていた俺が引いた剣が小太刀を巻き込むように弾く!
互いに半歩飛びのき取る間合い。
未だ一足一刀の距離。
ふふん、と笑うエレン。手詰まりだろう、とその表情が語る。次はやけっぱちの一撃か?と。
エレンと最後に別れた時…魔の森でクマゴリの群れと戦っていた頃の俺なら、そうしてただろう。だから、次の俺の一手はエレンの意表を突けるハズだ!
構えを変える。
立ち位置はさりげなく予定の場所に来れた。焚き火のそば。近すぎず遠すぎず。
胸元に引いた剣を垂直に立てる。
同時に歩法・柳葉の予備運動。
エレンには見せたことない技。
剣のツカを…ねじる。
焚き火の火の光が、剣身に跳ね返ってエレンの顔を照らす!
思わず目を細めるエレン!
今だっ!
剣をその場でぽんっと軽く投げ手放す!
同時に柳葉発動!エレンの死角に滑り込む!
エレンの視線は、宙にふわっと舞った剣を追っている!
とすっ、と地面に落ちる俺の剣!
俺を見失った事に気付くエレン!
遅い!
俺はエレンの背後からおぶさるように飛びつく!
がむしゃらに腕をエレンの首に回す!
いわゆるスリーパーホールドの態勢に!
よし!取った‼
何が起こったか分からないまま、おれを振りほどこうと暴れるエレン!
離すもんかぁっっ!
離したら俺の負けだもんっっ‼
「ウ…ク…」
苦しそうにうめき、片膝を折るエレン。
その時、アベさんが短く叫んだ!
「アロウブ!」
「それまで!」
ウィンドウの言葉に腕を解き、エレンの背から離れる俺。
苦しげに咳混むエレン。
ああゴメン!なんかムキになっちゃった!平気?
エレンを気遣って背中をさする。
ウィンドウ、伝えてくれ。
やり過ぎてすまない、本気でやらないととても敵わないから…大丈夫か?って。
赤い目で笑って見せるエレン。
「勝負だから本気でやるのは当たり前だ。気にするな。俺は正直ヒロをなめてかかっていた。謝るのはこっちだ。今のが実戦なら俺は死んでいた。完敗だ…ですって。」
いや…実戦なら鎧があるからこうはいかないよ。若干以上に卑怯でごめんね。でもこういう戦い方の俺みたいな奴も世の中にはいるのよ。そのつもりもどっかに持ってないと。ずるい!っていう前にやられちゃったりするかもだから。エレンにはそんなやられ方してほしくないんだ。
ウィンドウ通訳中。
エレンの手を引いて立ち上がるのを助ける。
「仲間に伝えよう。勇者ヒロの強さは本物だった。かのウェルトゥの騎士は不思議な技を操る。剣が光ったと思ったら姿が消え、次の瞬間、背中を取られて負けた、と。」
うーん。卑怯にずるを乗っけたような技なんだが…。まあそう言いたいならどうぞ。
アベさんが何か言う。
「初めからああするつもりだったのか?って聞いてるわ。」
…はい。正直まともに戦ったら絶対勝てないので。
「最初に二回斬り結んだのは?」
剣に、より注意が向くようにです。攻めると見せかけて防御的な気持ちで打ち込みました。
「立つ場所も考えてた?」
そうしないと反射で目眩ましができないし。俺のあの柳葉…いや、膝を揺らすフェイント。人間相手に使うの初めてで。上手く行くか分からなかったから。なるべく惑わせる要素を盛り込んどこうかな、と。
「以前一人で練習してるのは見たが…いつ身につけた?」
そっか。よく考えてみりゃアベさんに見せるのも初めてか。
…ファタリがクマゴリにさらわれて俺一人助けに行った時っす。身につけた…ってかヘロヘロになってたまたまできちゃったんですが。
「それにしても剣を捨てるとは…思い切ったな。二刀の相手に丸腰になるんだぞ。怖くはなかったのか?」
そりゃ心細いけど…。
騎士の人達って剣にこだわり持ってるでしょ?立会い中に剣を捨てるとかまず思いつかないんじゃないですか?剣がギラッとしてフワッと上に動けば自然に眼で追う…注意が削がれたところに膝揺らしかませば、付け焼刃でも上手く行くかな?と。
無茶だからこそ、効果的な囮になるかなぁ、なんてやってみました。
エレンがふうん、と鼻を鳴らした。
「大したものだ。ヒロ。刀の腕だけならエレンが上だろうが、ヒロは相手の強さと自分の弱さを認めた上で、知恵と勇気で勝利を掴んだ。相手が強くても負けられない戦いをすることもある我々騎士は、かくありたいものだな。」
おおう。アベさんにガッツリ褒められた。へへへ。いや嬉しいな。単に知恵と勇気しか勝負できる要素がなかっただけだけど。
「次は俺が相手だ。稽古がてら腕前を見ようかと軽く考えていたが…今のヒロとそんな気持ちで戦っては足元を掬われそうだ。強敵と見て、本気で立ち会おう。」
…ええええっ!
いや、なめてかかって下さいよっ!
本気のアベさんに取っとくべきだったか⁉
柳葉・焔は!




