アニメならサブタイに「もなみの◯◯大作戦!」とかつきそうだな。
怪しい連中の偵察に出る俺。100人規模の仮設基地。潮風にたなびく星条旗!…分かりやすいなぁ。やっぱアメリカかぁ…。ついにもめだす先輩とウィンドウ。もう、今それどころじゃないじゃん!あいつらの目的もわかんないのに!え?直接聞く?あいつらに?いや教えてくれるわけ…なに思いついたんですか先輩。危ないことじゃないでしょうね?…え‼ 本気⁉できるかな、俺。 …ヒロト、上手くやれよ‼
昼食後の作戦ミーティング。神殿の位置は分かっているが、問題はやはり米軍だ。まずは米軍目撃ポイントに近づき、偵察して部隊の規模を確かめようということになった。確かに5人なのか500人なのかで対処は全然違う。意外に米以外の国籍の軍隊かもしれないし。どちらにしろ神殿には向かうが、米軍への態度を決めとかないと、どっかでかちあって戦闘!とかいやだもんね…。
皆を少し離れた場所に残し、俺単独で目撃ポイントが見下ろせる高台に向かった。偵察の結果、やはり米軍とわかった。仮設基地まで設営してる。基地の規模から想定すると100人前後かな?駐留してるの。常時実働は一個小隊40名前後で交代要員やCICやバックアップにざっくり60名前後?…結構な戦力だな。確か海兵隊は1班4名。…10班が常時交戦可能なわけか。半分を拠点防衛に回しても、なお5班20名は動かせる。何をする気だ?米軍。目的によっては脅威だぞ?
皆の所に戻り、見てきたことを報告。目的はウェルトゥかも、という話に。その話の途中、また俺の影を巡って一悶着。今度はウィンドウと先輩が。…疲れるなぁこのパーティー構成。
ウィンドウ。大体一緒にいるんだからさ、直接聴けばいいんだよ俺に。その不思議だか興味だかの内容についてさ。今すぐはちょっと無理だけど、夕飯のあとにでも。質問考えといてくれ。
「ヒロ本人に、直接聞く?わたしが不思議に感じたことを?」
そうだよ。俺の影なんかこねくり回すより、余程手っ取り早い。違うか?
「……。」
ま、おいおいでいいぜ。先輩が俺の腕を引っ張る。
「そうよ!直接聞けばいいんじゃない?アメリカ兵に。なにしに来たのか。」
俺たちみたいな得体の知れない団体に『実はさあ、異世界転送アイテム探しに来たんだよね〜。』とか教えてくれなくないですか?逆に捕まって、変な注射されて、白目向いてヨダレ垂らしながら、知ってること全部しゃべらされたりしそう。
「そんなことしちゃまずい、味方にしたほうがいい相手だって思わせればいいんでしょ?」
…何か策が?
「ウィンドウさんの巨大牛ってすぐなれるんですか?」
「なれるわ。」
「あの状態の時、鉄砲や爆弾でダメージ受けますか?」
「物理攻撃はなんの効果もない。逆に魔法攻撃は、強い影響を受けるけど。」
「ファタリさんの落雷の直撃を受けたら?」
「結構深刻なダメージね。消えはしないと思けど、暫くはわたしとして機能できない。」
「じゃあ当てないようにしないと。ファタリさん、ヴァリーさんに手伝って貰えるか尋いて。アべさんとエレンさん、ラムさんにも…はいな。ン・ヴァリー!」
…なんだなんだ。なんの悪だくみ?イケメン☆ヴァリー、力強く頷いて。アベさんも無茶振りエレンも成る程、ってなリアクション?ラムだっちゃ姉さんが、ファムになんか言ってファムが断ってるっぽい。
ちょ、ファム、先輩、何が始まるんですか?俺にも教えて下さいよ。
隣でウィンドウが溜息をついた。
「あなたの先輩、変な事思いつくのね。いいアイデアかもしれない。すごく不本意だけど協力するわ。主役はあなたよ。上手くやって奴らとの交渉、必ず成功させて。無事ウェルトゥを回収する為に。」
…だから何を⁉ みんなもったいぶるなよう。俺にも事の次第を教えろっっ‼
米海兵隊の異世界仮設基地の平野部に繋がるなだらかな丘陵地。亜熱帯っぽい樹木が覆う。
突如、ギャアギャアと鳴く鳥の群れが…結構な数だな。数十羽。メキメキバキバキと強い力が大木をへし折る音がそれに重なる。木の葉と土煙を巻き上げながら、小山のようなそれが身を起こす!
「んもおぉぉぉっ!」
真っ黒な身体、左右非対称に生える五本腕、三本の脚、天を突く二つの角!
相変わらず見事な牛っぷりだなウィンドウ。
地響きを立て、進行方向の何もかもをなぎ倒し異形の牛怪獣が米軍基地に近づく。響き渡るサイレンの音、何か叫びながらプレハブから駆け出す米兵たち。
タタタン!
見張り台の兵が射撃を始めた。2輌の装甲車が動きだし、基地と巨大牛の間に入る。
トトトトトッ‼
装甲車の屋根のフタが開き、グラサンの兵隊が屋根据え付けの機関銃で巨大牛を撃つ。この距離だとジャラジャラ排出される空薬莢もみえる。
まんまB級ハリウッド映画。にしてもあんな相手でもすぐ撃つのな、米軍。流石だ。無理かも、とか逃げよう、とかないんだ。
タタンタタンタタン!パパパパパン!
バラバラと駆け出してきた米兵たちがそれぞれの手持ちの武器で攻撃を始める。チカッと何か光ったと思ったら、シパッ!煙の尾と細いケーブルを一本牽いて対戦車ロケットが翔ぶ。巨大牛の頭部めがけて。バパンッ!という音色は間抜けだが大音量と空気振動は身をすくませるに十分。直撃された巨大牛、全く動ぜず前進をやめない。ついに森から出た巨大牛、天に向かってもう一度吼えた。
「もふぅぅぅっっ!」
装甲車がゆっくり後退する。兵士たちも「やばいんじゃないか?」みたいな雰囲気で撃ちながら下がる。みな少しずつ装甲車周りに集まりながら。ウィンドウが地面に拳を打ち付ける。地震のような揺れ。砕けた大地に大穴が開き、岩や石が飛び散り、辺りに降り注ぐ!海兵隊基地、大ピンチ!
…ピシャァァンッ!
その時!巨大牛の目の前の地面に雷が落ちた!牛がたじろいだように後ずさりする。
ピイイイッ!
俺は思い切り指笛を吹いた。それを合図に、俺を乗せたヴァリー・ザ・ケンタウロスが隠れていた茂みから駆け出す!ハイヨー!アグロ!アベさんとエレンは反対方向から飛び出し、海兵隊の兵士たちに下がって逃げるよう誘導する。
あ、以外に素直に逃げてるな…おわっ!速度上がると…え!ちょ!落ちそう!鞍もあぶみもないんだぞ?内股筋そんな強くないって!くう…根性!
逃げ遅れた装甲車に巨大牛がパンチを見舞うモーション!間を割って駆け込む俺と愛馬ヴァリー!落ちまいと必死なのを隠しつつ、パンチのタイミングに合わせて剣を振る!
「もぁぁぁっ!」
パンチ弾かれたし痛えっ!みたいなリアクションの牛。ウィンドウ、意外に演技派だな。おれは重ねて二回、三回、四回、五回と牛に向かって剣を素振りする。その度に「いてっ!」「ぐわっ!」「ぎゃっ!」「斬られたぁっ!」と演技する牛。剣を高々と掲げ、ちょっと溜める。えい!っと垂直に振り下ろす剣の動くに合わせ、二発目の雷!
あれ⁉当たってね?ウィンドウのすぐ後ろに落ちる手はずだが…大丈夫か?
「ふもおぉぉぉぉぉっっ!」
あれ演技だよな?苦しむ牛。滲んで…虚空に消えた。
「イェーツ!」「フゥーッ!」
米兵たちが歓声を上げる。メッチャ笑顔でガンガン腕突き上げて。
隠れてたファムやラム姉さんも出て来て…俺中心に横一列でパーティーが並ぶ。
砂埃と陽炎の中、基地に向かってゆっくり歩く。
…あれだ。アルマゲドンの出発直前の採掘工たち。んー…なんか恥ずかしい。こんなベタな恩着せの勇者演出、上手く行くのか?
パタパタとカラス位のサイズの黒い首の長い鳥が一羽飛んで来て、俺の肩にとまった。
あ、よかった。ウィンドウ、無事だったか。雷、近かったように見えて心配してたんだ。
…鳥の姿のウィンドウが小声で答える。
「わたしもヒヤリとしたけどね。ファタリは上手くやってくれたわ。」
ちらっと隣を歩くファタリを見ると彼女は微笑んでウィンクした。ウィンドウが囁く。
「さあ背筋を伸ばしなさい勇者様。兵隊たちが見てる。顔はちょっと怒った顔に。少しだけ目を細めて…そう。そのまま。」
うう…顔がプルプルする。
「喋る時はゆっくり、低めの声でぼそぼそ喋るの。動作もね。一つ一つ、ちょっとゆっくり目に。ただものじゃない!とはもう思われてるから、それを少し強調するだけでいい。予定外の事があっても慌てず、落ち着いて。」
分かった。やってみる。味方だし強いって事は示せたはずだ。後は上手く情報を聞き出して…なるべく穏便に帰って貰いたい。こんなんやったことないけど…先輩、頼りにしてます!
仮説基地のプレハブ。米兵に付き添われながら通された会議室っぽい部屋。折り畳みの事務机とパイプイス。座って待つこと数分…迷彩の戦闘服に揃いのキャップを被り、ノートパソコンとファイルを抱えたでかくて毛深い大男と、痩せて眼鏡の神経質そうな男が現れた。俺と先輩が立ち上がる。俺の肩に止まるカラスのウィンドウがばささ、と二、三度羽ばたいた。
切り出したのは先輩だった。
「Nice to meet you.My name is Fatari,Priest in this universe. I have knowlede of your universe,a little.」
おおっ先輩。流石だ。国公立現役合格の実力。俺の白いマントを手直ししたローブに身を包み、海兵隊の責任者を向こうに回して物怖じしない…どころか最後にニコッと微笑んで小首かしげて見せる。向こうの二人も釣られて頬緩めてるし。女の人ってすげえな…味方にすると頼もしいが敵に回すと、勝負する前に負けてる感じに…。
「He is our master Sir Hiro,Knight of Weltow.」
あわますたー⁉さー・ひろ⁉ 演出意図あってのことなのは百も承知だが…いかん、笑いそうだ。シリアス顔が崩れる。ピクピク。黙って頷いとこう。
先輩が考えたのはつまりこういう作戦だ。銃火器を受け付けない大怪獣ウィンドウを不思議な技でやっつける異世界の騎士ヒロを祭り上げて、協力と情報交換を持ちかける。大怪獣が再び現れる可能性があれば、米軍も俺たちをないがしろにできない。最終的には米軍の目標が知りたいが、そういう意図があることはまずは伏せて、知らん顔して協力します、情報を提供します、と持ちかけて…どんな協力や情報を欲しがるか、から彼らの目的を類推する。米軍はこっちを一段下の未開人と見てるだろうし、高度な文明の事は理解できないと思っているに違いない。油断してる所に現地人から協力の申し出があれば断わるまい。
「ヒロ、こちらはホワイトレイ大佐。今回の作戦の責任者。」
ヤセ眼鏡のほうが軽い敬礼をする。あ、そっちが隊長?
シュワちゃんっぽい方は背中を丸めてパソコンを打ってる。…キータッチ静かで異様にはええな。
大佐が英語でしゃべり始めると、大男が部屋の電気を落とす。
ホワイトボードにパワーポイントが投影される。
うお!半壊した校舎みたいな建物…なんだあの壊れ方。
サーティーワンのアイスとる奴で丸くくりぬいたみたいな…。
先輩の同時通訳。
「今から22日前、ある実験をしていた施設が突如写真のような状況になった。6人の研究員、教授と準教授、2人の政府関係者を巻き込んで。」
画像が変わる。研究室の中…笑顔のロマンスグレーのおっさん。ハイネックの薄手のセーター着た。
その手に持つのは…ワィァド・ウェルトゥ!
いかん!表情よ動くな!ツバ飲むの我慢!
「モロンゴ・インディアン・テリトリーの遺跡から発見された『エルト』と呼ばれる遺物。カフイラ族の言葉で『鍵』という意味。彼らの伝承では高所に掲げたエルトに落雷した時、神の国への扉が開くと伝えられていた。実験とはエルトに実際に電流を流してみるというものだった。」
…ああ!やりそう!学者先生の好奇心無限大かよ!
「大学のLANに残されたタイムスケジュールから、恐らく流す電流を段階を追って強くしていく手続き中に事故が起きたと思われる。関係機関の調査と検討の結果、行方不明者と欠損した建造物はどこか別の世界に送られた可能性が高いと判断され、我々海兵隊を主幹とした捜索・救出作戦が立案された。」
あー…B級SFっぽい。
「構成物質の分析の為、別の大学に送られていたもうひとつのエルトを用い、充分な広さの某所で遠隔操作による同様の実験を行ったところ、ある電流量で直径約300フィートの『ゲート』が出現。強い風と共に大量の海水が流れ出し、実験は中断。」
海に繋がったのか。
「場所を変え、実験設備の高さを変え、船で行き来できる状態にゲートを安定させた。」
…なるほど。兵員や車両や装備、仮説基地の建材の輸送なんか考えたら船舶が通れた方がいいもんな。
「小規模の部隊を繰り返し派遣し、一部現地人の協力を得つつ前線基地と補給線を構築。本格的に行方不明者の捜索に取りかかろうと準備していた矢先に、哨戒中のイージス艦が通信を断ち、警戒していたところにあの牛の怪物。正直、あなたがたが来なければ我々は壊滅していた。」
複雑…イージス沈めたの俺たちだし…怪物も自作自演だしなぁ…。
先輩が何かをさらさらとしゃべる。
殆ど聞き取れないが…事前の打ち合わせ通りなら、情報提供と協力を申し出ているハズ。
「それはありがたい。我々は行方不明者の位置を携帯電話の位置情報信号から探知していたが、それも途切れて丸三日が経つ。」
また画像が変わる。地図?
「これは探知結果の推移を無人機で測量した地図に重ねたもの。彼らは島の中央、やや東寄りに留まっていたが、なにかの理由で島の中央まで移動したらしい。信号はそこで途切れている。」
神殿の近く…肩のカラス型ウィンドウをちらりと見ると、ウィンドウはくるる、と喉を鳴らした。
また先輩が何か言う。かぶりを振る大佐。
「別々に2つのチームを向かわせたが、森林地帯で消息を絶った。」
…むう。現地に誰か向かったのかを質問したんだな、先輩。
部屋の電気がつく。
「我々は何としても行方不明者を連れて帰りたい。サー・ヒロ、協力をお願いする。」
一呼吸置き、俺は黙ってゆっくりめに頷いた。
「感謝する。明朝6時に第三次救出チームが集合、出発する。チームと同行してアドバイスをお願いしたい。また、この世界特有の怪物が出現した際には戦闘のサポートも。」
もう一度頷く。
大佐が席を立つ。俺と先輩もそれにならった。
「こちらでもこういう習慣はあるかな?」
握手の手が差し出される。握手がこの世界にあるか俺もわかんねえけど、まあやっとけ。
がっちり大佐と握手。痛いくらいに。こちらも渾身の力で握り返す。
「では明日、その時間に。」
大佐とでかい秘書は敬礼して退出する。先輩はちょっと腰を落として優雅に挨拶した。
え!おれどうすりゃいい?えと、とりあえず会釈!
…うまく行った?なんとか乗り切ったっぽい。
プレハブを出る俺と先輩。
「御苦労様、清水君。何とかなったわね。」
今のところは…最後までボロ出さずに行けるかな?自信ねえっす。
「大丈夫。あたしがついてる。みんなも。あなたはあなたの思うように動いて。サポートするから。」
おねげえします。
「ヒロ、あいつらの話…どう思う?」
と肩のカラスのウィンドウ。
うーん、嘘をついてる感じはないなぁ。画像とかも作ってないっぽい…恐らく兵隊たちへのブリーフィング用の資料だろうからあの辺は全部ほんとじゃないか?…ただ、なあ。
「ただ?」
国が…アメリカが大げさってか…本腰入れ過ぎな気はするんだよな。人的被害とか、すでに行方不明者の数を平気で上回ってるわけじゃん。あ、写真のあれ、ワィァドだろ?
「そうね。恐らく間違いない。過去にこっちから向こうへ持ち込まれたものでしょうね。」
それだって発動可能な予備があるわけだから…何十人って犠牲出しながら作戦継続する理由が…捜索打ち切り、作戦中止になっておかしくないと思うんだけど、なんでそうならないのか。
「まだ何か隠してることがある…と?」
わかんねえけどな、そりゃお互い様だし。
「確かにそうね。」
先輩も真剣な顔。うーん綺麗だな、先輩。相変わらず。
「…とりあえず様子を窺いながら協力しましょう。最初の予定通りに。幸いここまではうまく行ってる。変に欲を出して探りを入れたりして、ぶち壊しにはしたくない。」
…そうっすね。
「みんなのところに戻って報告と相談よ。それとご飯。…なんかお腹すいちゃった。」
俺もっす。ウィンドウいつまでそうしてるんだ?
「あら、いけない?ここ、気に行ったわ。変身を彼らに見られるわけにはいかないでしょ?わたしの正体がばれたら、それこそぶち壊し。」
念のため確認だけど、あの行方不明者たちの場所って…。
「ええ。旧帝国の神殿そのものね。あそこには女神の泉がある。水を求めて移動したんじゃないかしら?」
なるほどな。森で消息を絶った救出チームは…。
「さあ?なにせ食欲旺盛な森らしいから。多分…。」
訓練受けたフル装備の海兵隊を食っちゃう森って…俺たち踏み込んで大丈夫なのか?
「頼りにしてるわ、罠と試練の専門家さん。」
えっ!!頼りが…俺っ!? 俺になんかあったら俺は誰を頼りゃいいんだよっ!!




