こっちの世界でも、実は穴のあいた貨幣って珍しいんだよな。
ついに到着した神秘の島、スゥシャル・ドモス島。待たせたな!ここに米軍と古代神殿とウェルトゥが?…なんかざっくり書くとほんと厨二な展開。再会して以来どこか態度がおかしいウィンドウ。先輩はなんか不機嫌?ファムはいつものノリだが…俺を買いかぶり過ぎじゃないか?「首が取れたりしない限りは治したるさかい。ぶわーぁっと行こうで!」…半繋がりなら治せる?ええい弱気な。作戦はいつもいのちを大事に!攻め三、守り七の気持ちが合言葉!ひとりの体じゃないんだから、俺!!
翌朝船は目的の島に着いた。
西の果て、「黄昏の海原」と呼ばれる海域に浮かぶ神秘の島。スゥシャル・ドモス島。どっかで見たな、こんなシーン。あ、あれだ。ジュラシックパーク2のオープニング。鬱蒼としたジャングル、切り立った崖、砂浜。ザ・孤島。…なんかなんでも「ザ・」って付くと急に百均みたいになるのな。結構でけえ島だなぁ。あ、鳥が飛んでる。
港に入港…とかじゃなく沿岸に停泊して小舟に分乗し、上がれる海岸を目指す。漁民が怪しい連中を目撃したポイントから一つ隣の入り江に。なんかメンバー以外にもスタッフっぽい人七、八人が一緒に上陸し、ベースキャンプの設営を手伝ってくれる。船は最大15日停泊してくれて、その間、ベースキャンプにも数人のスタッフが常時詰めてくれるらしい。
ウィンドウの話では神殿までは順調に行けば丸二日の距離らしいから…まあ、食われたり呑まれたりさえしなければ帰ってこれるだろ。問題は米軍か…訓練され統率された現代の歩兵部隊が相手じゃ…RPGキャラの一桁人数パーティーなんて、動くオモシロ標的みたいなもんだ。ウィンドウのモーモーアタックやファムの落雷、ラムだっちゃ姉さんの「10まんボルト」なら勝てるかもだけど…できたら正直、人間を殺すのは避けたいなぁ。ヘリ落としちゃったし、イージス艦一隻沈めちゃってるけど…これ以上は、ノーキルでクリアしたい。
テントの設営も終わり、一休みがてらご飯。みんなでご飯の時、ウィンドウは腕組みして立ってる。
ウィンドウ。お前、腹は減らないのか?
「減らないわ。」
…エネルギーとか要らない?
「身体や意思は永久循環魔法で維持してる。」
エイキュウジュンカン魔法?
「簡単に言うとエネルギーをぐるぐる巡らせ続けて…永遠にエネルギーを確保し続ける魔法。」
…エネルギー保存の法則に普通に反してね?
「例えば水車。あれは水が高い所から低い所へ流れる力、落差水圧からエネルギーを取り出す仕掛け、よね。」
ああ、そうだな。
「基本は同じ。永久循環魔法はこの世界の事物の『有』と『無』の落差からエネルギーを取り出すの。」有と、無の落差…へえ。
「生まれたエネルギーの周囲にはエネルギー自体の有と無の落差が生まれる。そこからまたエネルギーを取り出す。エネルギーがエネルギーを生んで永久に循環する。それが永久循環魔法。塔やわたしの力の源。」
そんなことができるんだ。すげえな。
「ある程度文明が進めば、どの文明もたどり着くありふれた永久機関よ。あなたの世界でもいずれ発見されるでしょうね。魔法、とは呼ばれないかもしれないけれど。」
それでエネルギーは賄えるとしても、なんか食えるようになってたらいいのにな、お前も。
「なぜ?必要ないのに。」
いや一緒に飯食えるじゃん。
「……。」
てか立ってないで座れば?見張られてるみたいで落ち着かねえよ。
「…そうね。」
ウィンドウは俺の左隣に腰掛けた。珍しく素直だな。
「ン・ヒロ!」
ん?ああタチ君。どうした?…ファム、訳してくれない?
「…ごめん。ファタリさんまだいないのよ。今はあたし。」
あ、先輩か。ファムいないと言葉がな…。ラムだっちゃ姉さんはちょっと離れたところでイケメン☆ヴァリーとなんか話し中みたいだし。
「昨日はすみません、失礼なことをして。僕、あなたに一度お会いしたいと思っていました、ですって。」
あウィンドウ。ありがと。
「聞いてもいいですか?」
なに?
「どうやったらあなたのように強くなれますか?ですって。」
…俺、そんな強くないよ。
「大きなィアゴを一人で倒されたと聞きました。どんな訓練をされてるんですか?だそうよ。」
いや、歌われてるほどでかくはなかったんだ。実際はこの黒いお姉ちゃんが立ち上がったくらいの大きさで。
「ちょっと…人を魔獣の例えに使うのやめてくれない?」
戦ってる時もすげえ怖かったし。ギリギリ勝ったけど血まみれのボロボロで…最後なんて崖から落ちる所をこっちのお姉ちゃんに助けられて、なんとか死なずに済んだんだよ。がっかりさせて悪いな。
「いえ、やはり思ったとおりの方です。僕はあなたのようになりたい。どうすれば、なれますか?ですって。」
俺のように?オススメしないけどなぁ。改めてタチを見る。ガチガチに緊張してるみたいだ。船の人足だからそう高い身分ではないんだろうが、顔立ちも整ってて…なんつーか俺とかよりよっぽど賢そうだがな。…なんて答えてやるのがタチ君の為になるんだろ?
…歌に歌われるような英雄になりたい?
「はい。」
俺もなろうと思ってなった訳じゃないから、どうしたら英雄になれるかは正直わかんないんだ。そもそも俺、自分が英雄だとはどうしても思えなくてさ。
「そんなことありません!ヒロさんは英雄です!って言ってるけど?」
…好きな人や、仲間の為にできる事を頑張っただけだ。仲間の中にたまたま大袈裟な歌好きがいたんだよな。タチも好きな人や仲間を作って、その人達の為に一生懸命になればいいんじゃないか?少なくともその人達から見れば、そんなタチは英雄に見えると思う。逆にどんなに大勢の人達にもてはやされても、歌に歌われても、好きな人や仲間がいなかったら…虚しいし寂しいと思うよ。
タチがこくこく頷く。
「これ、差し上げます。お守りです。」
差し出された小さな袋。開けていい?…お、銀色の…植物の種?
「マンタラィスの種です。成長すると城のような大木になります。普通の種は茶色いんですけど何百個かに一個、そういう銀色の種ができるんです。」
へえ。
「銀色の種は幸運を呼ぶと言われています。幸運を祈っています。ですって。」
ありがとう、大事にするよ。あ、ちょっと待って。ごそごそ…あ、良かった。あった。五円玉。これやるよ。御礼だ。俺の世界のお金。
「そんな、いただけません、って言ってるわ。」
いやそんな高い額のお金じゃないんだ。ただお金の名前の響きが、俺の世界の言葉で『いい人と出会って仲良くなる 』って意味があって。神様のお供え物とかによく使われるんだ。よその世界のお金なんて、こっちじゃ珍しいだろ?好きな女の子ができたら、紐通してペンダントにしてプレゼントしたらいいよ。
「異世界の勇者ヒロからもらった異世界の神の金貨。絶対に人にあげたりしません!」
…大袈裟だな。じゃあ二個やるよ。タチがこの人だ、と決めた相手とお揃いで首にかければ仲も深まるんじゃないか?
「ありがとうございます!そうさせて頂きます。
」…その相手以外には、俺からそんなもん貰ったってのは秘密にしとけ。なんか俺、名前だけ変に有名になっちゃったみたいだから、盗られたりするかもよ。いい人と巡り会えることを祈ってるよ。
「はい!ヒロさんも。ウェルトゥを見つけて必ず神殿から帰って来て下さいね!ですって。」
ああ、また帰りの船でな、タチ。タチはまたパタパタと駆けて行った。
「…どういうつもり?」
なにが?
「あんな人足の子供にサービスしたって大していいことがあると思えないけど?」
そうか?幸運のお守り、貰ったぜ?
「まさか信じてるわけじゃないでしょうね?その種にはなんの力もない。植えれば芽は出るでしょうけど。色の違う、ただの種。」
でもあの子の俺を応援したいと思ってくれる気持ちは、本物だろ?
「……。」
それに俺が応えて、あの子がちょっとでもこれからの生き方に夢や希望が持てるようになるなら、さっきのやりとりには、すげー大事な意味があると思わないか?
「…あの子にとって?」
この世界にとって、さ。あの子がほんとに恋人や仲間を大事にして、あの子と関わる人達や先々あの子の子供たちにその気持ちが伝わって、それぞれがまた恋人や仲間を大事にするようになれば…世界自体が少し、優しくなるんじゃないか?
「あなたの世界じゃないのに?」
大人の責任だよ。子供が、夢や希望を持てるようにしてやるのは。世界は関係ない。俺、瞳は中二だけどハタチ過ぎてるからな。不本意だけどなんかすっかり勇者だ英雄だってことになってるし。ファンサービスってわけじゃないが、俺のちょっとした愛想であの子にとっていい思い出ができるなら、やらない理由は逆にないぜ。
「…そういうものかしら。」
そういうもんさ。子供が夢や希望を持てなくなったら、それこそお先真っ暗だ。
「叶わなかったり、見せかけだったりしても?」
それでも、だ。最初に立てた目標に例えたどり着けなくても、そっちに向かって前進したなら意味がある。少なくともなにもせずにぼんやりひとっところにいるより、ずっといい。
「…いずれにせよ一時のことだわ。」
そうだな、お前から見りゃそうかもな。俺たちの寿命は短い。でも死んだ後に、親しかった人の中にかけらが残る。俺の言った言葉や取った態度。それが相手に与えた影響が。そのかけらはその人の一部となって、また誰かの中に。世界に波紋のように拡がる。未来の誰かと、響きあいながら。なら生きてる内になるべくいいかけらを残しとかないと。どんな世界でも、いつ死ぬか分からないからな。
「…あなたはいつもそこまで考えて、人と接してる?」
いやこう思うようになったのは実は最近の話で。どういうつもりか尋ねられたりしなけりゃ恥ずかしいからくどくど説明したりもしねえよ。にしても通訳サンキュな。お前も親切なとこあるのな。助かったよ。
「それは…あなたが、困ってそうだったから。」
言葉もな、憶えなきゃとは思ってるんだがなぁ。…どしたんですか?先輩、じっと見て。
「…なんでもない。」
…?。なんか不機嫌?
「ファタリさんと代わるわ。戻って来たみたいだから。何かあったら呼んで。」
あ、はい。
「ヒロ!ごめんな、遅なって!お勤めはすぐ終わらしたんやけど、父上の説法がいつもよりえらい長くて。父上が後ろ向いた隙に女神像と入れ替わってきたわ。」
それは…どうかと思うぞ。
「ウェルトゥ捜しは何より優先や!父上はウェルトゥの大事さが分かってないねん。事情は全部説明したのに、断じてならん!なんて。全宇宙の危機だってのにお経なんて読んどる場合かっちゅうねん。ラム姉ちゃんは回復魔法使われへんし…。」
えっ!そうなの⁉ じゃ、なんでついて来たんだ?だっちゃ姉さんは。
「うち、必要やろ? 今回の探索にも!」
そうだな。回復魔法ナシの一発アウトはこの世界じゃ厳しい。お父さんには悪いが…。てかお前、身体が禊の間なら土壇場で急に連れ戻されたりしない?
「ふふん。うちもそんなにアホやない。ちょっとやそっとじゃ見つからんとこに隠れて瞑想に入ったさかい、そんなことにはならんわ。」
ちなみにどこに隠れたんだ?
「神殿の地下墓地。」
…怖っ!俺なら絶対イヤだ。
「うちかてイヤやけど、盲点やろ?横たわる人間を隠すには、横たわる人間の中、や。」
なるほど。道理ではある。けど何かあって身体に帰れなかったら、人知れず…他の横たわる人間の仲間入りだな。
「そんなことにもならん。ヒロがおるもん!ン・アベェも。ウェルトゥの騎士と魔の森の主がおって上手く行かんわけあるかいな。」
買いかぶりすぎだ。そんなことにはならないように全力を尽くすが…俺だって死ぬときゃ死ぬぞ。
「そんなことにもならんわ。うちがおるもん。首が取れたり石になったりしない限りは治したるさかい。ぶわぁーっと行こうで。ぶわぁーっと!」
…ポジティブだなぁ。さらっと怖いこと言うなよ。即死したり生命活動が完全停止したりしない限りは大丈夫ってことね。肝に銘じときます。




