剣と夜空と生い立ちと
何の因果か異世界の、旧帝国の神殿に向かう船の上。おニューの剣、試しに振っておかなきゃな。…あ、先輩。眠れないんですか?…俺の二の腕の素肌を先輩の指が伝う!えっ!何この展開!? 何フラグ?「…どうしてあたし、あなたを選ばなかったのかな。」見ているのは満点の星空だけ。そしてまさかの…。語る生い立ちに真実がにじむ。
で、島に向かう船の中なう。夜も更け皆割り当ての船室で休んでいる。俺はアベさんと同室で、アベさんは既に眠っているが、俺はそっと抜け出して来た。
ジーンズに綿着。鎧下の綿着、前のは要所に綿パットみたいなのが縫い付けられた感じだったが、今回のは全体がキルトっぽくオシャレな感じに。実家の居間の敷物、こんなだわ。シャツじゃまだ寒いから丁度いい。
船室を出て甲板に上がる。潮風。船の側舷が波を切る音。
おおっ!夜空の星っっ‼ 宝石輸送ダンプの横転事故直後!
俺、ロマンチストではないが…敢えて言おう!綺麗であると!いや、星見に来たわけじゃないんだった。剣剣。
ちょっと思ったんだけど、使い慣れた寸と重さのこの剣でつむじ風…回す動きの剣線描いたらより小さな力で、より速い斬撃が可能なんじゃないか?という。
ペン回しとかさ、慣れてくるとすっげ軽い力で回せるようになるじゃん?くるっくる行けんじゃん?大事なのは重心とそれ以外のバランスのコントロール。アベ邸居候時代の朝練で一回見せて貰ったんだけど…。
構えて。背筋は伸ばし。膝は柔らかく。右の爪先できゅ、と足元確認。後足はかかと浮かせて猫足に。
力まず、剣の流れの制御を意識して…ひゅひゅっ!…おお!いい感じじゃね?体ごとぐるっと行ってみっか?
眼を閉じ、昼間戦ったガイコツに囲まれてるイメージ…。ぱっと眼、見開く!えやっ!しっ!はぁぁっ!よいさ!の、よいしょ!っと!
…おし。結構思った感じで振れたぞ。ソフトな相手には有効かも。ハードアーマーな相手には殴って痛めつける直線打撃じゃないと、か。
感じを忘れないうちにもっかい…あらよっ……いいね。調子でて来た。もう袖とかまくっちゃうかな?もっかい。今度は広い範囲を移動しながら。せーのっ…ほい!…もひとつ!くるっと…ねっ!倒れた脳内敵。それでも俺は構えを解かない。倒したという過信が隙を呼ぶからだ…とアベさんの真似。
「パチパチパチパチ!」
拍手?何奴!…ってファムか。どした?眠れないのか?
「ファタリさんは自分の体に帰ってるわ。向こうの身体でもご飯食べなきゃ、でしょ?」
あ!先輩⁉すんません間違って。今晩は。…見られたか。練習。ちょっと眩しげな顔つくったアベさんの真似まで。ハズい!
「…綺麗ね。」
ああ、星でしょ。空気が澄んでるんですよ。なんせガソリンもディーゼルもない世界、ですもん。先輩は船の手すりにもたれかかった。
「……ね。」
風と波の音で聞こえない。俺も剣をしまって先輩の隣にもたれる。すんません、今なんて?
「怖い世界ね、って言ったの。」
…ですね。よく考えたら。
「偉いね。剣の練習?さまになってた。高校時代のあなたは…こういう荒事とは縁もゆかりもないイメージだったけど。」
いや今だって。大した縁やゆかりはないですよ?ただ、ほら。
「ほら?」
…怖い世界、なんで。自分と…もう一人くらいは護れるようにしときたくて。
「もう一人…それ……あたし?」
、はい!
「…『はい』がコンマ1秒遅い!出た『はい』が必要以上に大きい!」
…。
「ファタリさんがよぎったんでしょ?」
…。
「図星、ね。沈黙もまた答え。やっぱり正直ね、あなたって。」
…。
「かなわんな、先輩にゃ、って思った?…それが先輩の先輩たるゆえん。女性の解読化能力…嘘を嘘だと見抜く力は元々男性より高いのが一般的だけど。あなたはそれ以前の問題ね。」
先輩は笑った。…俺は黙っていた。先輩だっていつもより多弁で早口。ふと出た素の質問を、しまったと思ったんだろう。
「なんとか言いなさいよ。」バシ!
痛いっす。
「…優しいのよね、根本的に。例えば、ファタリさんとあたし、どちらかしか助けるられないとしたら…どうするの?」
二人とも助けます。先輩が吹き出す。
「だめよ。質問聞いてた?どちらかしか助けられないとしたら、って言ったでしょ?」
二人とも、助けるんです。
「…だーかーら、」
二人とも助けます!絶対!だがら、だからそんな悲しい質問…勘弁して下さい。
「ごめん…そうだったわね。塔では…まさにその通りのことをしてくれた。自分の命を懸けて。先月号の雑誌でも捨てるみたいに。あっさりと。」
とん、と先輩の頭が俺の右腕に当たる。
「口で優しい事を言う人は沢山いる。けれど優しい行いを実行する人は少ない。あなたは…普段は浮世離れした宇宙人みたいな奴だけど、土壇場で優しさに、自分の命を使う。魚が泳ぐような…鳥が飛ぶような自然さで。」
なんて言っていいやら。…! 先輩の指が、する、とまくった右袖をさかのぼり俺の二の腕の素肌をつたう。うっ!これ…なにフラグ?
「…どうしてあたし、あなたを選ばなかったのかな。最初からあなたを好きになってれば、今頃…」
…それは俺の台詞!とは言えない。なんか…黙るパート多いな、今回。
「あたし…」
先輩…。ガリっ!痛っっっ‼ 引っかかれた!二の腕!ああっ!血が滲んでるっ!三本線に!…先輩?ちょ、なにするんすか!
「なんか、…イラっとして。」
清水家男子たるもの紳士たれを信条にはしてますが…終いにゃキレますよ!なんだよこの…アメの包み開けたらムチが飛び出すような展開。ショックでけえよ、期待があっただけに。
「清水君は、その…どこが気に入ったの?…つまり、あたしの。」
え‼ そんなこと…ご本人にっ?
「自分で言うのもなんだけど、あたしって…勝手でワガママで偉そうでしょ。あたしのイイトコって…どこ?」
…女の子が男の子にする質問ってどうしてこう、難しいんだ?
「思い込みも激しいし、こう!と思ったら突っ走って、極端な事して、みんなに迷惑かけて…」
…うーん。答えづれえっ。その通りなだけに。
「どうして清水君は、あたしみたいな…」
ストップ!ネガティブ!…えー、俺が先輩のどこを好きになったか、でしょ?それ言葉で説明しないとダメですか?
「どういうこと?」
…部分を好きになったわけじゃないので上手く言えないっす。気づいたら、そばに居たくて、離れ難くて…何故か?とか考えたことないんで。
「そんなことってあるの?カレーを好きな人は辛さが美味しいから好きなわけでしょ?自分の好きなものを好きな理由を、説明できない?」
言い方を変えます。俺が先輩を好きなのは、先輩が…先輩だからです。
「…答えになってない。」
カレーを好きな人だって『あー、カレーって辛さが旨いから好きになろう!そうしよう!』なんて考えたり言ったりしないでしょ?匂いとか、のど越しとか、見た目とか、食べたら幸せになる感じとか…『あー、カレー好きだなぁっ!』っていつの間にかなるのが普通なんじゃ?
「……。」
俺がカレーを好きなのはカレーの全てに幸せを感じるから。先輩を好きになったのは先輩の全てに、愛しさを感じるからです。『ツラい時、お風呂で泣く所』とか何かひとつの要素だけじゃ、先輩は成り立たないでしょ。
「…どうして知ってるの⁉ 誰にも言ったりしてないのに。」
なんとなく、分かりますよ。一時俺、先輩ばかり視て先輩のことばかり考えてたんですから。
「覗いたり…したわけじゃないよね?」
あのね。後輩の純情な感情を三等分して壊すようなこと言わないで下さい。
「それにしても清水君って船…戦艦に詳しいのね。」
どきっ!
「あたしもイージス艦って聞いたことぐらいはあるけど、重さや武器の性能まで把握してるって…ちょっと変。」
ま、そうだよな。今まで敢えて言わなかったんですけど、うちの父が…元・海上自衛官なんです。
「へえ!カッコイイ!」
いや、今は保険屋の営業事務ですよ。見た目も普通の中年のおっさんで。
「なんで黙ってたのよ?男の子なら自慢にしても良さそうなものじゃない?」
…昔、言われた事があって。お前の父ちゃん、毎日人殺しの訓練してるんだろって。
「え…。」
いやもちろんそうなんですけど、俺もちっちゃかったから…言った奴とガチで掴み合いのケンカして。それからは…聞かれない限りは自分からは言わないんです。
「ごめん…。」
いやマジ謝罪やめて下さい。父は好きだし、その仕事も必要なもので、恥ずかしいとか悪だとか思いませんが。…軍事は人の死や戦争と切っても切れないですから。受け付けない人がいるのも、今は判るつもりです。
「…うん。」
それに父も国防だなんだより単なる船好きみたいなとこがあって。志高い立派な父ちゃんなんだよ!って強く主張もできなくて…この話題、微妙なんすよ。
「そっか。」
昼間はつい、生のイージス艦見てテンション上がってマニアックな事を口走りました。今後自重します。「でもいいんじゃない?あの影のウィンドウたちが知りたいのは、そういう情報なんでしょ?」
そうなんすよ。今後米軍について聞かれたらどんどん軍事オタクっぽい一面が露わに…。家庭の事情なんで、ひかないで下さいね。
「でもそういうの、キライじゃないんでしょ?お父さんが自衛官だからって、昼間の詳しさは…。」
どきっ!ええ、まあ…ってか父ちゃんが。そんな特集とか映画ばっかり観るんですよ。で、あーだこーだと分かり易い解説をしてくれて…パッシブソナーって言うんでしょ?惜しい、「コーン」ってなるのはアクティブソナー、みたいな会話が日常会話なお茶の間で育ちゃあ…ねえ。
「なんかあたし…知ってるようで、ちゃんとは知らなかったのね。清水君の事。」
どうでしょ?大概のとこ把握されてる感も無くはないですが。…そういや先輩のお父さんってお仕事なにされてるんでしたっけ?確か神社の管理だかなんだかしてるって聞いたことある気が。
「…教えない。」
なぜえっ?先輩は悪戯っぽく笑った。
「教えない理由も教えない。」
なんだその秘密のデフレスパイラルは。こんにゃろう…後で言いたくなっても聞いてやるもんか!




