ぎりぎり浮気じゃないんじゃないか説
また一人仲間を失って落ち込み、アベさんやもなみに励まされる俺。畜生。その夜、もなみと俺の二人で不寝番。俺はもなみに気持ちを伝える。そして俺は…俺たちは。
【RPGっぽい異世界なう】これまでのあらすじ。いつもの帰宅電車。東武線南越谷駅で降りると筈がそこは見慣れぬ森。奇怪な生物に襲われた俺は鎧姿の中年男性アベェ…アベさんに助けられる。文化系インドア派大学生の異世界サバイバル生活が始まった。
察するに中世西洋封建社会っぽい異世界でアベさんと森の狩人暮らし。…現実か強烈な妄想か。困惑しつつ目の前の生活に適応して行く俺。見慣れぬ動物、非文明的暮らし、空に輝く二つの月。ああ…南越に帰りてぇ。そんな折、アベさんを訪ねてやって来た騎士団と巫女。俺はその巫女に衝撃を受ける。
彼女は俺の初恋の先輩に瓜二つだったのだ。流石にありえねぇ。妄想確定ですか?彼女達は異世界への扉があると言われる「ウェルトゥ」を目指すとのこと。現世帰還の一縷の望みを託し、探索行に動向する俺。で、ウェルトゥって何?
騎士たちとのぎこちない交流、魔獣との死闘、巫女と二人きりの夜…なんだかんだで試練の塔ウェルトゥへ。心の試練、知恵の試練、強さと絆の試練、闇と光の試練を乗り越え…ついに俺たちは扉の間へ。そこで明かされる驚愕の真実。現世への帰還。しかし運命は俺を再び異世界へと誘う。
新幹線…新大阪で降りた筈が見知らぬ船の甲板。元気一杯襲ってくるガイコツ軍団。懐かしい仲間との再会…を喜ぶ間もなく米軍のイージス艦来襲!凌いだと思ったら神話クラスの海の魔神⁉太陽神エル・エソォよ!我に力を!
危機を脱して話を聞けば、塔から消えたウェルトゥを探す為、アベさんたちがある島に派遣されたと。そこには米軍基地が。しかも島自体が旧魔法帝国の拠点?人喰いの森に人を呑む砂漠?…普通に嫌なんだけど。
なんだかんだで異世界の勇者に奉りあげられ、米軍との協力関係を成立させた俺たち。空飛ぶ巨大メダカ、怪獣サイズのお化けザリガニとの激闘をくぐり抜けた俺たちに…正体不明の緑の人型の怪物が迫る。奮闘も虚しく増える犠牲者。…くそっ!この際、神でも悪魔でもいい!俺に仲間を護る力をくれ‼
RPGっぽい異世界なう。命を落とした仲間を埋葬する為の穴を掘る陰鬱な作業が続く。米軍に借りたスコップは三つに折れる折り畳みの簡易スコップで柄まで入れても60cm位。3人で掘っても中々人一人分の大きさにならない。ある程度掘らないと野生動物に掘り返されるだろうし。無表情で黙々と掘る。
米兵はこちらでやるから俺は掘らなくていい、と言ったんだが…どうしてもやらしてくれと頼みこんで掘らせてもらってる。今回も涙が出ない。エンリコとはツアー初日から同じ車両で…ファーストネームで呼び合って一緒にipod聴いた仲なのに。頭がぼーっとなって…感じるのを辞めてしまったみたいだ。
ざく。ざく。ざっ。ざく。目の前の土を掘る。それだけの生き物になったような気分。なんなんだ?俺。どうしちまったんだ?知り合いが…仲間が…目の前であんな死に方をして、どうして平気でいられるんだ?ざく。ざく。ざく。土の色が黒く変わる。掘りごたえも少し重くなった。ざく。ざく。ざく。
エンリコはビニールシートを被せられ穴のそばに横たわる。背の高い眼鏡の米兵が胸の前で十字を切ってはぶつぶつと祈りの言葉を唱える。ざく。ざく。ざく。「OK。it's enough.」一緒に掘っていた米兵が言う。エンリコが穴に降ろされる。俺たちはエンリコを穴の底に横たえ、穴から出る。
穴の周りに積み上がった盛り土を、再び穴の中へ。ビニールシートに包まれたエンリコが少しずつ見えなくなって行く。ざく。ざく。ざく。ざっ。心は平坦だ。埋め立て地の空き地みたいに。起伏も何もない。…俺。こんな冷たい人間だった?感情とか感受性とか、どこ行った?…死んだんだぜ?仲間が。
埋め終わり、スコップの背で土を固め、木で作られた十字架が打ち込まれる。眼鏡の米兵がいっそ声高に祈りの言葉を唱える。その場にいた全員が、掌を組んで祈る。俺は剣を抜いてこの世界流の合掌を。「…Amen.」「…Amen.」俺は黙っていた。ぽん、と肩を叩かれて顔を上げる。あ、狼っぽい人。
差しだされた掌には、イヤホンが巻きついたエンリコのipodが乗っている。「Take this.Thir Hiro.」え?…俺に?「…He wish that.」俺の掌に乗せられる小さな電子機器。冷たい。俺はぐっとそれを握った。握った拳には何故か俺が意図した以上に強い力がこもった。
その瞬間、耳の奥にエンリコと聴いた「哀戦士」のメロディが甦った。哀戦士…哀、戦士?途端にエンリコの色んな表情が次々フラッシュバックする。哀戦士は鳴り止まない。エンリコ…エンリコぉぉっっ…うぁぁぁっっ‼悲しい!悔しい!納得できない!受け入れられない!…感情の渦が俺を飲み込む。
とても立ってはいられない。目鼻口から色んな液体を滴らせながら俺はくずおれて、両の拳で地面を殴った。何度も。何度も。何度も。すぐそばに居たんだぞ?奴に剣も届いた。首を落とす勢いで当たった筈だ。…なんで倒せなかった⁉何で俺の剣はすり抜けたんだ⁉くそうっ!…くっそうっっ!
「…ヒロ。」アベさん…みんな。アベさんが差し出す手拭いで顔を拭く。ウィンドウが肩に止まる。「お前のせいじゃない。気を強くもたないと…この先辛いぞ、だそうよ。」はい。…すいません。もうちょっとシャキッとします。もなみが黙って寄って来て俺に寄り添い、肩に頬を寄せた。ありがと、もなみ。
あ、ラムさん。「ラムでいいっちゃ。なに?」お願いがあるんだけど…今度あいつが出たら、なんとか俺が抑えるから…迷わず炎の魔法を撃って欲しいんだ、俺ごと。強めに。「そんな!ダメよ!」…もなみ。あいつさ、剣が効かねーんだよ。今んとこ炎位しか有効な攻撃が思いつかないんだ。「だからって!」
大丈夫。ファムの癒しで治して貰うから。俺だってまだ死にたくねえし。だけどこれ以上…あんなワケ分かんない奴に仲間をやられたくないんだ。次は…もなみや…ファムかもしれないんだぜ。「……絶対死んだら駄目よ。」ああ。命あっての物種は俺の信条だ。消炭になっても生き返ってみせら。「…馬鹿。」
RPGっぽい異世界で不寝番なう。焚き火はパチパチと音を立てて勢いよく燃え盛る。乾燥した水草系枯れ木は良く燃えるが薪の持ちが悪い。俺はストックの薪を二本、新たにくべた。少し強くなった火に剣身を照らして、その様子を視る。傷と刃こぼれ。汚れ。…潰れた虫の死体なんて付いてる。三匹も。
きつく絞った手拭いで剣身を拭い、棒ヤスリで鍔元から剣先にガリリリッ、ガリリリッ、と滑らせるように削る。刃の断面がどこを切っても鋭角の二等辺三角になるように。焦って変に力が入ると刃のラインの直線が乱れて斬れ味が落ちる。腕が生半可なんだ、道具はせめてベストコンディションにしときたい。
火に照らして刃筋の真っ直ぐを確認しつつ。ガリリリッ、ガリリッ。…ふう。荒削りはこんなもんか。道具を柄付き砥石に替えて同様の作業。ザシュシュッ、ザシュシュッ。削りカスを手拭いで拭いて。ザシュッ、シュッ、ザシュッ。できた…か。炎に照らし確認。…うん。悪くないデキ。「…剣の手入れ?」
…もなみ。うん。魔法で斬れ味上がってた筈なんだけど刃自体は痛むのな。キャシディさんは?「やっと眠った。恋人ではないけど長い付き合いだったんだって。…無理もないと思う。ファムさんが手伝ってくれて。」眠りの魔法?「いいえ。普通の子守歌よ。こっちのだけど。」…現世の歌は歌えないもんな。
あ…ファム、眠りの魔法なんて使えねーじゃん。落雷と癒し、あと草木をでっかくする奴だ。…もなみが俺のすぐ隣に座る。ぴとっとくっついて、寄りかかって来る。「ファムさんはご飯食べに行った。便利なような不便なような。」…ほんとだな。捕まらなきゃいいけど。「……。」どした?「…怖い世界ね。」
…そうだね。「私…どこかまだ現実感がない。あんなに簡単に、誰かが死んじゃうってことに。」うん。「君は…死んだりしないよね?…清水君。」もなみさ…。「なに?」前に俺の前だと嫌な女になる…って言ってたじゃん。「…うん。」あの時思ったんだけどさ。もなみ、自分が感情的になるの嫌悪してね?
「……。」俺はさ…嫌じゃないぜ。怒ったり、泣いたり…今みたいに怖がったりしてるもなみ。全然嫌じゃない。「私は…別に。」逆に嬉しい。俺の前だと…その気持ちに素直になっちゃうってことだろ?「清水君…。」ヒロって呼んでよ。みんなそう呼ぶ。「……。」他の人の前では抑えてる感情とかがさ。
俺の前で表現しやすいなら、そうしていいんだ。「……。」怒ったり泣いたり怖がったりして。俺の前では。「…ヒロ。」好きだよ、もなみ。俺は彼女の肩を抱いた。もなみはこちらに顔を向け、うるんだ瞳に俺を映す。その瞳が閉じられる。俺は色んなものをグッと堪えて、そっとそっと…彼女にキスをした。




