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無力の剣

謎の緑人間の正体も掴めぬまま、ウェルトゥ探索の旅は続く。え?もなみが…水浴び?女性兵士と?読者サービスシーンキターッッ【ガツッッ‼】ぐあっ!ちょ…ナレーション中に棒で殴るのやめて下さい。とかなんとか言ってる間にまた出た!緑人間!仕留める…今度こそ!

RPGっぽい異世界なう。再び巨大水草の生い茂る森を行軍中。昨日まで同じ班だったメタボの人がいない。…やられたの、あの人だったのか。人の良さそうな兄ちゃんだったのにな。うーん…。…いで。ふと気をぬくと昨日の戦闘で負ったダメージが思い出したようにビシバシ痛む。読み返すと痛いキツイみたいな記述が多いけど…ほんとに痛くてキツイんだよ。体がどっか痛い時なんてなぁ…頭はその事で一杯になるだろ?俺だけか?これ。


痛打した左肩と右脇腹の銃創がマジに痛い。左肩は歩きの振動でズクンズクン痛む。右脇腹は常に痛い。しかも裂くようなひきつるような痛みとヒリヒリする痛みの絶妙なコンビネーション。ゲームとかの勇者もこんなコンディションで冒険してんのかな?大変だな、あいつらも。…無傷の健康って素晴らしい。


行軍が止まる。休憩にはまだ早いけど…なんだ?前の方がザワザワ。ファム、もなみに変われるか?「うん……今日はよく呼ぶのね。」昨日、もっと頼れっつってなかったっけ?あれ?いつした会話だ?なんか俺が無理し過ぎだからとかなんとか…で、その後…えーと…【バシィッ】った!ちょ…なんで殴る?


後頭部のこぶにクリーンヒットしたもなみのグーの痛みに涙目になってる間に彼女はさっさと前の方に様子を見に行った。仕事早えのはいいんだけど…手は遅くていいっす先輩。あれ…銃とか構えてね?前の方。敵?…骨魔獣か?ツカに手をやる。脱落留めのストラップを外す。…早く戻れもなみ、落ち着かん。


「んー…。」どうだった?なんだって?「微妙。兵隊の一人が…人影を見たって言ってるらしいけど…その人、キョロキョロしながらハアハア言ってて。どう見てもかなり動転してて…ほんとに見たのか怪しい感じ。」…まあ前後の状況が状況だからな。海兵隊も人間か。逆によく…俺とか正気でいるもんだ。


サブカルにどっぷり浸かってるって、どっか非社会的なんだろうけど…非日常に対する耐性はまっとうに社会的な人よりあるのかもな。まあまず発揮されないままになる能力だろうけど。ありがともなみ。念の為用心…「ゥアアアアッ‼」【タタタッタタタッ】なんだ⁉何が出た⁉ もなみは俺の後ろに!早く!


「アァァァ…!」前の方だから良く見えないが…チラッと見えたのは手足をバタつかせた兵隊が一人ザザザザッと凄い勢いで何かに引きずられて行く所。「Chase him!Move!Move!Move!」小銃を構えた何人かがガスガス茂みに踏み込んで小走りに追っかけけてく。俺も追いかけ…いや!


クマゴリの時みたく…敵が一体とは限らん。もなみを振り返る。「あの人…さっき人影を見たって言ってた….。」青ざめて俺に寄り添って来る。ぐ…これは放っては駆け出せない。ヴァリー!エレン!振り向く二人に追いかけてくれ、とハンドシグナル。ヴァリーはエレンを乗せて森の奥に向けて駆け出した。


指笛。舞い上がったウィンドウは一度隊列の上を旋回する。俺が頷くとエレンとヴァリーを追って森の奥に消えた。…なんか我ながら勇者っぽい。もなみ、俺たちも行こう。癒しが必要かも知れん。ファムと替わってくれ。「……。」もなみ!「あ…ごめん。今、替わる。」大丈夫。もなみの身体は…護るから。


ファム、アベさんに伝えてくれ。ラムさんと残ってこっち頼むって。「…うん。分かった。」敵の姿がさっきは全く見えなかったが…人影…人型の何か、なのか?「ええでヒロ、行こ。」ああ。ファム、俺から離れるなよ。「分かった。くっついとくわ。メンタマにくっついとるまぶたみたいにな。」…行こう!


RPGっぽい異世界なう。ファムを連れ、剣を手に異世界の森を走る。【…タタッ…タタン…】銃声…何かと戦ってる…!ざざっと茂みを突き抜けて俺が目にした光景…なんだこいつは⁉ 人型に切り取った…森⁈ ザザザッ!速え!…そいつは海兵隊1個小隊の銃撃を猿の様に躱しながら樹から樹へ飛び移る。


俺もヴァリーもエレンも…目では追うけど、武器が剣と槍。くっ。役立たず。ビシッ!メキメキッ!やつの足場の樹を銃弾が折り、やつはバランスを失って倒れながら落下する。チャンス!…え⁉…今ふわぁっ…って消えた⁉ 「Jesus…Jesus…」吐息も荒くガクブルしながらしゃがみ込む兵隊一人。


最初にさらわれかけた人か。…にしてもあれは…なんだ?土着の部族かなんかか?姿隠しの魔法を使う。海兵隊が、俺、ヴァリー、エレンが奴の落下予測地点を取り囲む。…落ちた跡すらない。本当に消えた…ってことか。「ウァァッ!」悲鳴⁉誰の⁉あ…さらわれかけた人!ザザザ…ッ!また引きずられて…!


RPGっぽい異世界なう。くそっ。速え!あっと言う間に見えなくなるさらわれ兵。位置的に俺が一番近い。ヴァリー!…よっこらさ!頼む。あの人を助けさせてくれ!ってはっきり日本語で言ったが意味は通じたようだ。「スプー!グラ!」なんだろ?掴まれ、とかかな?おおうっ!速い!揺れる!怖ええ!


うわっ。ちょっ。枝とか危ねっ。樹木を躱し、小さな茂みは飛び越え、テクニカルな走りを見せるヴァリー。しかし行けども行けどもさらわれ兵の姿も見えない、声も聞こえない。くっ…見失ったか?どこかで隠れるか大きくコースを変えるかしたのか?…仲間全員護りたいとか言いながら…くそっ!三人目か⁉


ヴァリーが次第に速度を落とす。ついに止まったヴァリーは俺を振り返ると目を伏せて首を振った。確かにこれ以上、隊列から離れると下手すれば迷う。追いつけなかった時点で捜索範囲は広大に…捜索に時間を割けば正直所持食糧の範囲でミッション完結できなくなる気が。…一度戻って隊長と相談しよう。


ヴァリーと人型魔獣遭遇地点まで戻る。隊長さんは無線機で何度も誰かを呼び出している。応答を待つも無線機はホワイトノイズ。こっちに気づいた隊長と目が合う。俺は小さく首を振った。「ヒロ…その様子だと…。」ファム…ああ。追いつけなかった。もなみに変わってくれるか?「ん…なんて伝える?」


かなりの距離追いかけたけど見失った、と。時間が貰えるなら改めて捜索に協力するが、って伝えて。もなみが通訳中。「無線に応答がない。彼は恐らく手遅れだ。これ以上日程を後倒しにはできない。残念だが、前進する。…だそうよ。」…分かった。畜生。次出会ったらあの人型の何か…ぶった斬ってやる!


RPGっぽい異世界なう。さらわれ兵追跡小隊とともにとぼとぼ本隊に向かい歩く。もなみは前を歩く白人の…目付きの鋭い「狼」とか呼ばれてそうな兵隊さんに何か尋ねて、あーだこーだ英語で会話中。…なんだったんだろう、あの緑のモヤモヤ人間…一斉に襲ってこないとこをみると単独は単独なのか?


「うーん…」なに話してたんだ?「あの緑人間がどう見えたか訊いてたの。捕食者の怪物だって。」捕食者…プレデター?「へえ、意外に使用頻度の低い単語知ってるのね。」いや、ハリウッドB級映画で…そういう名前のがいるんだ。「…知らない。それ、あんな感じなの?」んー。微妙だなぁ。


新旧あるけど、「プレデター」ってのは概ね、醜い容貌の好戦的エイリアンが、異星技術の武器や装備品で、人間や他のエイリアンを獲物として残酷な狩りをする…って筋立てだな。「異星技術?」うん。代表的なのはオプティカルカモフラージュ。「光学迷彩、ってことね。」…意外にSF用語いけるな。


劇中では本人の向こう側の景色が、レンズ通して見たみたいに、歪みながら透けて見える、みたいな演出だったけど…緑人間は濃淡のある緑の…テレビノイズみたいだもんなぁ。「エイリアン、か…なんでもアリね。」何基準で獲物を決めてるんだろう?「彼か彼女にとって、美味しそうってことじゃない?」


最初のメタボな人はなんとなく分かるが…今回の人は痩せてて、うまそうとも思えないけど…。「そこは人間とは感覚が違うのよ。…私が襲われたら、ちゃんと助けなさいよ。」…一命に替えても。「よろしい。…ファムさんと変わる。改めてこっちの世界の心当たりを尋ねるでしょ?」もなみ…話が早いなぁ。


「ごめんヒロ。さっぱりやわ。なんなんやろなぁ、あの緑モジャモジャ人間。そもそも…人間やないんかな?」…分からん。ウィンドウ的な…呪いか魔法が掛かった元人間、とかかもな。…でもだとすると、一度木の枝から落下した時…どうやって消え去ったんだ?ふわっと掻き消えたように見えたけど…。


例えば光学迷彩や姿隠しの魔法だったとしても、本体がドサッと落下するのは避けられないし…転移の魔法とかを並行して使ってるのか?あんな見た目だけど魔術師…とか?「んー…上手く言えんけどちゃう気がするなあ…動きが野生っぽい…知能低いっぽくなかった?」…ワイルド魔術師かもしれねえじゃん。


海兵隊も結構撃ってて…距離も2、30メーター位だったけど…当たらないもんなのか?テレビや映画のようには行かないって事か…それともお約束の「矢滑り」か。ウィンドウの破魔のナントカ…掛けてもらわんと剣も効かないかもな。魔法…腹立つ。破魔の奴、一回掛けてもらったらどれ位持つのかな?


RPGっぽい異世界なう。川沿いのキャンプ予定地に到着。携帯チラ見すると時間は午後四時過ぎ。川…普通に綺麗な流れ。幼少のみぎり、親兄弟と夏休みに丹沢でキャンプしたことがあったんだが、その川原の雰囲気に似てる。水の透明感や川幅や流れの速度。川原のすべすべ丸い石。…周囲の植物を除いて。


米軍の連中は手際良くテントを設営し始めた。…けど俺たち異世界メンバーには、んなものない。基本…野宿時は焚火のそばでマントに包まって寝るのだ。俺のマントはもなみのローブになってしまったので、今朝目覚めた時に被ってた小さいブランケットをしれっと荷物に入れてるんだが…米軍提供の品かな?


俺はもなみと一緒に隊長さんの所へ今後の打ち合わせに。明るい内にテント設営、交代で水浴び、夕食、だそうだ。夜間は常時米兵二名、異世界メンバー二名が見張りに起きる体制で、と。…了解。ちょっとゆっくりできるか?水浴びは嬉しいなぁ。暑いし、背中もベタベタして気持ち悪かったんだ。やれやれ。


異世界メンバーも煮炊きの準備。みんなで薪拾いや石でかまど作り。地味にこういうの楽しい。けどあの緑ノイズ人がいつ襲って来るか分からんから、心からほっともできないんだけど。「清水君。」へーい。「キャシディさんと先に水浴びするから見張りに来て。」きゃしでぃ?誰?あ、あの女兵士さんか。


なんか英語でお喋りしながら川に向かう女子二人の後をついて行く。ん?ipodの…えーとエンリコ。あんたも見張りか。見張りって英語でなんて言うんだ?…まあ結局なんとなくお互い「ああ、あんたも…ね。」みたいな空気出して黙って隣あって歩いた。「Stop.Wait here.」「Log.」


川に背を向け、おっきな岩にもたれる。エンリコと隣あって。…気まずい。話しかけて間を持たす程の英語力はねえ。ん?エンリコが何か差し出す。イヤホン?耳に入れるんだ、ってジェスチャー。おっかなびっくり耳に入れ、うわぁビックリ!音するじゃん‼ってな演技。あ、これ「哀戦士」の英語カバーだ。


RPGっぽい異世界なう。女子二人の行水も終わり、濡れ髪の二人の後について基地に向かう。ふと立ち止まった女性兵士、振り向いてエンリコになんか早口で指示出し。エンリコ不満気。女性兵士強気に行って来い!みたいなアクション。何?「She made thing left behind.」


…忘れ物、か。どぅあすごーうぃず?「No thank you.Take care of girls.」おーけ。エンリコは小走りに川の方へ駆けて行った。エンリコと女性兵士、階級変わんなそうだけどな。エンリコ…お互い尻に敷かれるタイプか。まあ、男が譲らないとな。それも器量よ。…ふっ。


女子二人と俺が丁度キャンプに付いた時、後ろから駆け足の足音が。エンリコ。ご苦労さん。俺が振り向いたのに気づいたエンリコ。ちょっと笑って手を上げた。あれ?その後ろに…もう一人。…!緑モジャモジャ!エネミーッッ!エスケープ!エンリコッッ‼ 気づいたエンリコ。血相を変えてダッシュする。


俺の叫びに気づいた米兵2名とラム姉ちゃん、ヴァリーがこっち来るのをチラ見しつつ、剣を抜きながら駆け出す。これ以上好きにはさせねえ!今度こそ間に合う。逃げるエンリコとすれ違う。振りかぶって十分な力を込め、緑人間の首目掛けて必殺の斬撃!スバッ!狙い通り奴の首に俺の剣が吸い込まれる!


え…⁉剣が、奴の首を…すり抜けた⁉ ダッシュから急ブレーキ。馬鹿な!今のは必殺の間合いだった!「ゥアアアアッ‼」悲鳴に振り返ると緑人間がエンリコを締め上げながら木に登ろうとしている。やべえっ!連れてかれる!ラァァムッ!火の魔法だ!ジックメイ・リファイッ!ラム姉ちゃんが力強く頷く。


エンリコは持ち上げられて木々の間からもがく足だけが見えている。俺は木の下に駆けつける。ラム姉ちゃんの手帳の一ページが掌で燃え上がり、奔る蒼い炎の矢となって二人の居る茂みを撃つ。たちまち燃え上がる茂み。落ちてくるエンリコを俺は両手でガッチリ受け止めた。良かった!助けられた!


あーゆおーけ?と、言いかけて俺は言葉を失う。首から上。そばかすの人懐こい顔はそこにはない。あるのは命の欠片もない白い硬質な、頭蓋骨、だった。目の前が真っ暗になる。吐き気が込み上げるが、それを押し退けて俺の喉から溢れたのは、声にならない絶叫だった。

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