破魔の剣
人食いの森を行く俺たち米軍・RPGキャラ混成チーム。異世界ならではの珍しい草木、生き物…うおっ!あれすげえな、デカイし群だし…何より空飛んでるぞ。その時、突如響き渡る悲鳴!のんびりした空気一転、訪れる危機!剣が…銃が効かない⁉ 破魔の輝きよ!我に力を‼
RPGっぽい異世界なう。
三回目の休憩。森のちょっと開けたところで。
大休憩でご飯中。
米軍の人たちもクッカーで火を炊いてレーション温めたりコーヒー入れたりして食べてる。
あれが有名なレーションか…。
丸い缶じゃないのな。凹みのある四角いパッケージにビニールシールがされてて、シール剥がして食べる感じ。
俺たちも持参食料を食べるが、例によってかったいジャーキー。まあ火であぶると少しはマシだ。鍋出して煮炊きするのはオオゴトだから野営の時だけになるな。持参食料の中には塩漬けの肉とか芋やタマネギみたいな野菜もあるから、煮炊きできるならこっちの世界の食事としてはメジャーな「肉野菜ごった煮スープ」が食えるんだが。
大分…森も深くなって来て見かける生き物も増えて来た。ドッジボール大のカタツムリ、そこかしこにいる。カタツムリっつうかほとんど貝殼に隠れててぬらっとした裾みたいのと長〜い触覚だけが貝から出てる。
手の平サイズの白っぽく透き通った虫…なんかすごい。アノマロカリスみたいなデザインで体幹からワラワラ生えた足だか羽だかを波打つようにくねらせて音もなく宙を泳ぐ。アノマロカリスわからない人は悪いけどググってね。
それとは別にでかい蚊みたいな普通?の羽虫もいるのな。ブーン…なんつって。
よく見れば木…というかぶっとい草に青びかりするアリみたいのが列を作ってたり、かさって音に目を向ければトカゲそのものな生き物が普通にいたり。
現世で見るのと似た生き物もいるけど、改めて異世界なんだなぁ。
…あ!何あれ!メダカが!デカイメダカが空中を泳いでる!すげえ!しかも、1、2、3…群れだ。ざっと二、三十っ匹はいる!こっち来る!…うわ。でかいな。小さく見積もっても1mは超えてる5、6年生の背丈くらいあるぞ。どうやって空中を泳いでるんだ?魔法生物か?
あ、近づいてくると微妙にメダカとは違うな。胸ビレが大きめで尾ビレの下側が長い。びろ〜ん、と。そしてウロコ。ピンクががった銀色のそれ。光を跳ね返す時、色艶の違いでなんかビッシリ模様が見える。アラビア語のような…文字?
アベさんの向こうに立って見張りしてた小柄なポイントマン…あれ⁉あの人!女の人じゃん!女性兵士‼…わお。
女性兵士は飯食ってる別の兵士からビスケットだかクッキーだかを受け取ると、巨大空中メダカに餌付けし始めた。
ビスケットを投げると、空中で器用にメダカがパクっと食べる。おお。メダカが更に集まって来る。
上空を周回してる奴まで入れると…百匹近いかな?
女性兵士はメダカ使いのようにあっちへ投げ、こっちに投げ。仲間兵士がスマホだかデジカメだかで動画を撮る。
…なんかすげえな。
ファム、あの魚みたいなの…魔の森にはいなかったけど。この世界じゃ普通の生き物か?
「まさか!うちもあんなん見るんは初めてや。うち一応、巫女やさかい、古今の神話や伝説も勉強すんねんけど、あんな生き物は聞いたことないなぁ。」
ふーん。
まあ物理的におかしいもんな、流石に。あいつらもどっか別の世界から漏れ出して来た奴らなのかも。
「ヒロ、見てほらあの人!」
見ると女性兵士は手から直接メダカに餌付けしている。
「かわいいなぁ。うちも餌やりたい。」
確かに。こんな機会はそうはないし、折角だからやらせてもらって…。
と、俺が言いかけた瞬間、ぎゃあ、と言う悲鳴が当たりに轟いた。
皆が声の主を見る!
女性兵士!
あ!メダカが腕を!
女性兵士の腕をバックリ咥えてる!
女性兵士は引き抜こうともがくが引き抜けない。
メダカが口を動かす度に「アアアッ!」「ノォォッ‼」とか苦痛の叫びを上げる!
色めきたった周囲の兵が各々ライフルをメダカに向けるが、隊長がそれを制する…確かに、女性兵士に当たっちゃう。
「オオオゥッ!」
女性兵士の腕からぼたぼたと血が滴り落ち初めた!
迷彩服の袖が血に染まる!
メダカは宙に身を振って食い千切ろうとする!
このままじゃ…!
俺が剣の柄に手をかけて走り出そうとした瞬間、
ザンッッ!
メダカの頭部が白く輝く刃に両断された!
アベさんだ!
取れたメダカ頭と共に女性兵士が倒れ込む。
頭を落とされたメダカの身体は二度痙攣すると反り曲がって空中をゆらぁ〜っと上空に浮かんで…あ!そうか!この森の植物!分かった!見覚えある筈だ!「水草」だ!魚が加わってピンと来た!デカイ水草…タニシ…メダカ…。
ここは…この森は水槽なんだ!魔法で造られた…陸上の!その水底を歩いてるのが俺たち⁉
メダカの一匹がすごい速さで俺とファムに突っ込んで来る‼
‼ …速いっ!
ファム!伏せろっ!
俺は鞘走らせた剣を抜きざま、すれ違う瞬間の飛びメダカに叩きつけた!
ばいんっっ‼
跳ね返った⁉
何だ?今の感触⁉
満水のビニールプールの横面を木刀で叩いたみたいな。
体勢は不完全だったが、斬れていいタイミングのはず!
見回せば本性を露わにし、ひゅんひゅんと周囲を飛び回って人間をついばもうとする飛びメダカ!
【タタタッ‼】
うわ!至近距離の小銃の銃声!
うるさっ!鼓膜が叩かれるようだ。顔全体で空気が振動してるのが分かる。
ipodの兄ちゃんか。
米兵たちがそれぞれに射撃を開始する。辺りに響き渡る銃声のフルコーラス。排莢、装填で擦れるパーツの金属音。立ち込める花火の後のような火薬の燃焼臭。
これで飛びメダカの数も…あれ?
減らねえな。
みんな結構撃ちまくってるが仕留めたのは、アベさんの一匹と…あ!今もう一匹。なんで?みんな射撃苦手チーム?
うお!また来たっ!
ファム?平気か?
「うちは平気や!ヒロ!うちあの腕噛まれた兵隊さんのとこに…」
危ねえファムッ‼
べいんっっ!
くっそ、また…!
今の…突っ込んで来る飛びメダカの軌道変わるくらい強めに入ったのに!
米兵たちの射撃も飛びメダカたちを一瞬ひるませたりはしてるが…致命傷にはなってないようだし。
いや!待て…!戦闘の一画で何匹ものメダカの死骸が空に登ってくエリアが…アベさん、とエレン!
アベさん…すげえ!
ハイテンポな曲で踊るダンサーのように矢継ぎ早にステップを刻みながら、クルクルと身を翻す。
白い光を放つ剣が閃く度、哀れな飛びメダカが絶命し、動かなくなって宙に浮いてゆく。
そしてエレン!
アベさんとは対照的に二刀を構えたまま微動だにしない。
おおっ!
飛びメダカが間合いに入った瞬間、弾かれたように反応してメダカを真っ二つ‼
で、即座に元の構えに戻る!
軽量装備のアベさんと違い、エレンは三つ揃いの甲冑着込んでる。アベさんのように機動力と運動量で推すともたないわな。
…にしても、なんであの二人に斬れて俺に斬れないんだ?飛びメダカ。…腕の差?
とかなんとか気が散ってたらどんっ!と誰かに突き飛ばされた!
うわっ!とフラついたところにもう一度‼ メダカ!避けれん!どむっ!
尻もちついて完全に転ぶ!
そこに更に三匹のメダカが!
すげえ速さで俺に殺到して来る‼
わ!やべえッッ!この体勢じゃ…‼
その時!
ボゥワァッッ!と目の前に炎の壁が立ち昇った。
光を放つ銀色の槍が、炎にひるんだメダカ三匹をまとめて串刺しにする!
「…ヒロ、早く起き上がるっちゃ。」
ケンタウロス・ヴァリー!…に乗った、だっちゃ姉さん!
ありがとっ!
だっちゃ姉さん、手に持った手帖みたいなのから一頁紙を千切る。
途端に紙は姉さんの手で燃え上がる。姉さんが短く歌うと、手の炎は蒼く輝く矢となって飛びメダカを撃った!ボッと火達磨になる飛びメダカ!
「ヒロ!剣にウィンドウの魔法を!…ファムナ、オッグ・スゥイエム!オトルォフ・ジャディン!」
ファムは姉さんに引き上げられ、ヴァリーの馬部分に。…怪我人のとこに行くってことだな。俺は彼女の足の裏を掌で押し上げて乗るのを手伝う。…魔法?ウィンドウの?やっぱなんかワケありなのか、あのメダカども。
「ヒロ!気ぃつけてな!」
ああ!お前もな!ヴァリー、二人を頼む‼
…ってハッキリ日本語で言ったがヴァリーは力強く頷いた。
…こんな時だけど改めてオットコマエだなぁ。二人の巫女を乗せ、戦場の喧騒の中を駆け去って行くヴァリー。
入れ替わりにウィンドウが飛んで来た。
「ヒロ!剣を置いて!早く!」
言われるまま地面に剣を置き、予備のナイフを抜いて身を屈める。
ウィンドウは抑揚の少ないお経のような呪文を流れるように唱える。ぼんやり…はっきり白く輝き出す俺の剣!
ウィンドウ、これは⁉
「あの魚、体の表面にンルィー文字がびっしり浮き出てる!恐らく理違えと矢滑りの術理方程式だわ!」
コトワリタガエとヤスベリ?
「理違えは魚が空中を泳げるように周囲の物理法則を書き換えてる。矢滑りは対象に加わる衝撃モーメントの被受角度を擬似的に大きく傾斜させて…」
詳しい説明は後だ!
この光ってる剣なら奴らを斬れるんだな⁉
「斬れる。」
米軍の鉄砲には掛けられないのか?矢滑り破りは!
「破魔の輝きは銃じゃなく、一発一発の弾に施さないと。そんな時間は…」
ねえな、なるほど!
魚の体の模様が魔法の源?
「そう。弓矢や剣を弾くよう魔力を込めた方程式。」
じゃあ、目はどうだ⁉ 奴らの目‼
「目にはンルィー文字はない。刃は通る。弾も当たるわ。」
俺は息を吸い込んで叫ぶ!
エイム!ゼアアイズ‼
ゼアスキン・プロテクテッドバイ・ザ・マジカルフォース‼
米兵たちがそれぞれ頷いたり手で合図したりインカムで他の米兵に伝えたり。
他のみんなの武器には?俺が最後?
黒い鳥が頷く。
「あなたがしんがりだったから。ごめんなさい遅くなって。もっと強烈な魔法もあるけど、剣の使い手にも危険な術なの。増してこんな乱戦の中、味方に当たったら…」
分かった。十分だ!サンキュ、ウィンドウ!
あいつら数が多い!
油断してパックリ喰われたりすんなよ!
「…魔術師なめちゃだめよ。」
黒い鳥は鳥のくせにウィンクをかますと普通の鳥ではあり得ない速度で舞い上がった。
そこにぎゅんっ!と飛びメダカが突っ込んで来た!
乗れ体重!走れ刃‼
シパッッ‼
手応えが軽い!
二つ折りの紙を、挟んだカッターの刃で切った時のように!
綺麗に二つに割れた飛びメダカがそのままの速度で通り過ぎて行く!
…行ける!
破魔の輝きよ!
俺は仲間を助けたい!
輝け!もっと強く‼




