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怪獣のいない世界〜偶然アレに変身できたけど一切使い道がない件〜  作者: 大福


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8/20

第8話 コンタクト


 政府が。


 巨大人型存在との意思疎通を検討する。



 その方針が発表されてから。


 三日。



 早速。


 問題が発生していた。



「……で。」



 会議室。



 一人の担当者が。


 資料を見ながら言った。



「どうやって話すんです?」



「……。」



 誰も。


 答えなかった。



     ◇



「まず。」


「出現場所が分かりません。」



「はい。」



「出現時刻も分かりません。」



「はい。」



「次に出現するのが。」


「明日なのか。」


「一週間後なのか。」


「一か月後なのかも分かりません。」



「はい。」



「そして。」



 担当者が。


 資料を置いた。



「連絡先がありません。」



「……。」



 当然だった。



 電話番号。


 なし。



 住所。


 なし。



 メールアドレス。


 なし。



 SNS。


 不明。



「呼び出す方法もありません。」



「そうなります。」



「……。」



 一人が。


 腕を組んだ。



「ネットは?」



「ネット?」



「これまでの行動を見る限り。」


「報道やインターネット上の情報を認識している可能性はありませんか?」



「根拠は?」



「自主練です。」



 大型モニターに。


 例の映像が出る。



 スクワット。



 片足立ち。



 低空飛行。



「最初の事案以降。」


「自身の行動が社会的に注目されていることを。」


「認識している可能性があります。」



「……。」



「直近の飛行についても。」


「海外で武力衝突が大きく報道された直後です。」



「報道を見ていた?」



「可能性の話です。」



「なら。」


「テレビで呼びかけるということですか?」



「それも一つの方法でしょう。」



「しかし。」


「テレビを見るんですか?」



「分かりません。」



「スマートフォンは?」



「分かりません。」



「インターネットは?」



「分かりません。」



「……。」



 分からない。



 何も。



 分からない。



     ◇



 その日の午後。



 さらに。


 接触方法の検討が続いた。



「大型の電光掲示板は?」



「どこに設置するんです?」



「出現頻度の高い地域です。」



「北海道全域のどこに出るか分からないんですよ。」



「では。」


「ヘリコプターから呼びかける。」



「接近して問題ありませんか?」



「旅客機との異常接近事例があります。」



「……。」



「拡声器。」



「距離は?」



「安全を考えれば数百メートル以上。」



「聞こえますか?」



「分かりません。」



「手旗信号。」



「……手旗?」



「視認性は高いかと。」



「向こうが手旗信号を知らなければ意味がありません。」



「モールス信号。」



「同じです。」



「巨大な文字を書く。」



「……。」



 全員が。


 一度。



 黙った。



「それなら。」



 一人が言った。



「読めるかどうかも確認できます。」



「日本語を?」



「はい。」



「……。」



 議長が。


 考える。



「テレビ等で広く告知した上で。」


「人家から十分に離れた場所を指定する。」



「同時に。」


「上空からでも確認できる大きさで。」


「メッセージを表示する。」



「来れば。」



「少なくとも。」


「こちらの呼びかけを認識していることになる。」



「来なければ?」



「……。」



「分かりません。」



     ◇



 翌日。



 政府から。


 異例の発表が行われた。



『政府は、巨大人型存在に対し、意思疎通を試みる方針を明らかにしました』



「……。」



 俺は。


 会社の休憩室で。


 テレビを見ていた。



『これまでの行動から、高度な知性を有している可能性があるとして――』



「高橋。」



「ん?」



 隣から。


 佐々木。



「政府、へぁさんと話すって。」



「……みたいだな。」



「話せんの?」



「さあ。」



「何語だろうな。」



「……日本語じゃない?」



「なんで?」



「北海道にいるし。」



「北海道にいる熊は日本語喋らねーぞ。」



「……。」



 確かに。



 テレビへ視線を戻す。



『政府は、巨大人型存在に向けて、次のようなメッセージを発表しました』



 画面が。


 切り替わった。



『あなたと話がしたい』



「……。」



 読める。



『こちらの言葉が理解できる場合、指定する日時に、指定地点へ来てください』



「……。」



 日時。



 場所。



 全部。



 分かる。



 佐々木が。


 笑った。



「これで来たら日本語読めるってことか。」



「……そうなるな。」



「来ると思う?」



「……。」



 俺は。



 テレビを見た。



 指定日時。



 二日後。



「さあ。」



     ◇



 その夜。



 自宅。



「……。」



 テーブルの上に。



 銀色のボールペン状の器具。



 テレビでは。



 まだ。



 政府の呼びかけについて報道している。



『指定された場所では、安全確保のため一般人の立ち入りが規制される予定です』



「……。」



 行く。



 行かない。



 選択肢は。



 二つ。



「……行かなくていいだろ。」



 政府だぞ。



 怖い。



 何を聞かれるか分からない。



 そもそも。



 捕まったりしないだろうか。



「……。」



 いや。



 捕まえるのは。



 無理か。



 でも。



 正体がバレたら。



 生活が終わる。



 会社にも。



 行けなくなる。



 それに。



「……8,700万。」



 国会で。



 聞いた。



 復旧費。



 原因者への求償。



「……。」



 行った瞬間。



『初めまして』



『8,700万円お願いします』



 そんな可能性だって。



 ゼロではない。



「……行かない。」



 決めた。



     ◇



 翌日。



「高橋。」



「ん?」



「へぁさん、来ると思う?」



 また。



 佐々木だった。



「知らない。」



「ネットだと来る派が多い。」



「へえ。」



「来ない派は?」



「ビビってる。」



「……。」



「政府にビビるへぁさん。」



「……。」



「高所に続いて政府も怖い。」



「……。」



「弱点増えたな。」



「うるさいな。」



 佐々木が笑った。



「お前、へぁさんに厳しいよな。」



「そう?」



「本人が見たら傷つくぞ。」



「見てねーだろ。」



「……。」



 見てる。



 隣で。



     ◇



 指定日の朝。



「……。」



 俺は。



 銀色の器具を見ていた。



 行かない。



 昨日。



 そう決めた。



 スマホを見る。



【本日】政府、へぁさん待ち



126:名無しの一般人


今日か



127:名無しの一般人


来るかな



128:名無しの一般人


来るだろ



129:名無しの一般人


来なかったら草



130:名無しの一般人


へぁさん逃げて



131:名無しの一般人


政府怖いもんな



132:名無しの一般人


高所


政府



133:名無しの一般人


弱点一覧作るな



134:名無しの一般人


来なかったら政府恐怖症確定



「……。」



 スマホを置いた。



「行くよ。」



 誰に言うでもなく。



 立ち上がった。



     ◇



 指定地点。



 広大な土地。



 周辺道路は。


 既に規制されていた。



 政府関係者。



 警察。



 消防。



 離れた場所には。


 自衛隊。



 さらに遠方。



 報道陣。



 空からでも読めるように。



 地面には。



 巨大な文字。



『あなたと話がしたい』



 その前に。



 政府関係者が待っていた。



「現在、予定時刻の五分前です。」



「周辺に異常なし。」



「航空管制との連携は?」



「完了しています。」



「自衛隊は?」



「指定位置で待機。」



「接近させないでください。」



「了解。」



 時計。



 予定時刻。



 誰も。



 喋らない。



 一分。



 二分。



 三分。



 五分。



「……来ませんね。」



「もう少し待ちましょう。」



 十分。



 二十分。



「……。」



 三十分。



 報道陣にも。



 少しずつ。



 緩い空気が流れ始めた。



「やはり。」


「呼びかけを認識していない可能性も――」



「待ってください。」



「?」



 一人が。



 空を見る。



「……あれ。」



 全員が。



 同じ方向を見た。



 遠く。



 空に。



 小さな。



 銀色。



「来た……。」



     ◇



『へぁぁぁぁぁぁぁ……!』



 怖い。



 やっぱり。



 高い。



 でも。



 今日は。



 ちゃんと。



 目的地がある。



 下を見る。



 いた。



 人。



 車。



 いっぱい。



『……。』



 近づきたくない。



 絶対。



 何か壊す。



 速度を落とす。



 さらに。



 落とす。



 指定地点。



 その手前。



 いや。



 もっと手前。



 もう少し。



『へぁっ!』



 着地。



 ズン。



「……。」



 政府関係者が。



 俺を見上げている。



「……遠いですね。」



「安全を優先したのでしょうか。」



「それとも。」



「……着地が怖かった?」



「憶測は控えてください。」



     ◇



 拡声器。



 大きな音が。



 こちらへ届いた。



『巨大人型存在へ。』



「……。」



『我々の言葉が理解できますか?』



「……。」



 分かる。



 俺は。



 頷いた。



     ◇



「……!」



「今、頷いた?」



「映像確認!」



「頷いています!」



「日本語を理解している可能性が高い!」



「記録してください!」



 一気に。



 周囲が騒がしくなった。



『もう一度確認します。』



『我々の言葉が理解できますか?』



 俺は。



 もう一度。



 頷いた。



「間違いありません!」



「言語理解能力あり!」



「日本語です!」



 歴史的瞬間だった。



 らしい。



 俺としては。



 普通だった。



     ◇



『我々は、あなたと意思疎通を希望しています。』



「……。」



『敵対する意思はありません。』



「……。」



『あなたにも、我々に対する敵意はありませんか?』



 首を。



 横に振る。



「否定!」



「敵意なし!」



『人命が危険にさらされている場合。』



『今後も、救助する意思はありますか?』



「……。」



 少し。



 考えた。



 できるなら。



 助けたい。



 頷く。



「肯定!」



「救助意思あり!」



「……。」



 なんか。



 面接みたいだ。



     ◇



『ありがとうございます。』



『では。』



『あなた自身について、いくつか質問します。』



「……。」



 来た。



『あなたは。』



『何者ですか?』



「……。」



 何者。



 普通の。



 人間。



 会社員。



 高橋直人。



 35歳。



 独身。



「……。」



 答える。



 いや。



 待て。



 名前は。



 駄目だ。



 普通の人間だと。



 それだけ。



 言えばいい。



 口を開いた。



『……へぁ。』



「……。」



 政府関係者が。



 黙った。



「……今。」



「発声しましたね。」



「はい。」



「記録を。」



『もう一度、お願いします。』



「……。」



 俺は。



 ゆっくり。



 言った。



 人間。



『へぁ。』



「……。」



「同じ発声です。」



「音声解析を。」



「開始しています。」



「……。」



 違う。



 そうじゃない。



 俺は。



 もう一度。



 口を開く。



 俺は。



 人間。



『へぁぁ……。』



「……。」



「発声が変化しました。」



「何らかの言語でしょうか?」



「現時点では不明です。」



「……。」



 俺は。



 改めて。



 思い知った。



 喋れない。



     ◇



『確認します。』



『我々の言葉は理解できますね?』



 頷く。



『あなたは、我々に敵意を持っていない。』



 頷く。



『人命を救助する意思がある。』



 頷く。



『あなたは何者ですか?』



『へぁ。』



「……。」



『どこから来ましたか?』



「……。」



 北海道。



 いや。



 ここも北海道。



『へぁ。』



「……。」



『日本に住んでいるのですか?』



「!」



 頷く。



「肯定しました!」



「日本国内に生活圏がある可能性!」



「質問を続けてください!」



『北海道ですか?』



「……。」



 頷く。



「北海道!」



「やはり北海道です!」



「居住しているという意味かはまだ分かりません!」



「断定しないでください!」



『普段はどこにいるのですか?』



「……。」



 家。



『へぁ。』



「……。」



 駄目だ。



 全然。



 進まない。



     ◇



『では。』



『質問方法を変更します。』



「……。」



『はい、の場合は頷いてください。』



『いいえ、の場合は首を横に振ってください。』



「……。」



 なるほど。



 最初から。



 それでいい。



『あなたは生物ですか?』



「……。」



 生物。



 まあ。



 人間だから。



 頷く。



『地球上で生まれましたか?』



 頷く。



 政府関係者が。



 ざわつく。



『日本で生まれましたか?』



 頷く。



「日本!?」



「記録!」



『あなたは人間ですか?』



「……。」



 来た。



 俺は。



 頷こうとした。



 その時。



 ピコン。



「……。」



 ピコン。



 ピコン。



「……へ?」



     ◇



「胸部が点滅!」



「何だ!?」



「これまでの映像にもあります!」



「警戒!」



「自衛隊へ連絡!」



「待ってください!」



「刺激しないで!」



 ピコン。



 ピコン。



 ピコン。



『へぁっ!?』



「発声!」



「動きがあります!」



「何をする!?」



     ◇



 やばい。



 もう。



 三分。



「……。」



 待って。



 今。



 ものすごく。



 大事なところだった。



 俺は。



 両手を前に出す。



「待って。」



『へぁ!』



「……。」



 伝わらない。



 手を振る。



「違う。」



『へぁ! へぁ!』



「発声回数増加!」



「胸部の点滅も加速!」



「下がってください!」



「違う!」



『へぁぁぁぁ!』



 光が。



 身体を包み始める。



「消失します!」



「映像記録!」



「待て!」



『へぁぁぁぁぁ……!』



 そして。



 俺は。



 消えた。



     ◇



「……。」



 静寂。



 政府関係者。



 警察。



 消防。



 自衛隊。



 報道陣。



 全員が。



 巨大な人型が立っていた場所を。



 見ていた。



「……消えました。」



「はい。」



「接触時間は?」



「約三分です。」



「……三分。」



 一人が。



 記録を見る。



「これまでの出現時間も確認してください。」



「了解。」



 議長が。



 ゆっくり。



 息を吐いた。



「成果を整理しましょう。」



「はい。」



「日本語を理解する。」



「はい。」



「我々に対する敵意はない。」



「はい。」



「人命救助の意思がある。」



「はい。」



「地球上で生まれた。」



「はい。」



「日本で生まれた。」



「はい。」



「北海道と何らかの関係がある。」



「はい。」



「そして。」



「……。」



「発声による会話は。」



「できませんでした。」



「……。」



 一人が。



 小さく言った。



「へぁ、だけでしたね。」



「……そうですね。」



 人類史上。



 初めて。



 巨大人型存在との。



 意思疎通が成立した。



     ◇



 その夜。



 俺は。



 家にいた。



「……。」



 テレビ。



 見たくない。



 スマホ。



 もっと見たくない。



「……。」



 でも。



 見る。



 掲示板を開いた。



【歴史的瞬間】へぁさん、日本語分かる



1:名無しの一般人


分かるんかい



2:名無しの一般人


普通に頷いてて草



3:名無しの一般人


じゃあ今までの報道全部理解してたってこと?



4:名無しの一般人


ネット見てる可能性ある?



5:名無しの一般人


お前ら終わったな



6:名無しの一般人


自主練馬鹿にしてすみませんでした



7:名無しの一般人


高所恐怖症って言ってすみませんでした



8:名無しの一般人


北海道脱出できないって言ってすみませんでした



9:名無しの一般人


>>8


それは事実



10:名無しの一般人




「……。」



 スクロール。



11:名無しの一般人


日本生まれってマジ?



12:名無しの一般人


宇宙人説終了



13:名無しの一般人


北海道関係あるっぽいな



14:名無しの一般人


やっぱ住んでんじゃね?



15:名無しの一般人


175cmの奴の説当たってて草



「……。」



 俺は。



 少し。



 嬉しくなった。



16:名無しの一般人


でも喋れない



17:名無しの一般人


へぁ



18:名無しの一般人


へぁ



19:名無しの一般人


へぁ



20:名無しの一般人


へぁ



21:名無しの一般人


政府「あなたは何者ですか?」


へぁさん「へぁ」



22:名無しの一般人


政府「どこから来ましたか?」


へぁさん「へぁ」



23:名無しの一般人


政府「普段どこにいますか?」


へぁさん「へぁ」



24:名無しの一般人


会話成立してなくて草



25:名無しの一般人


日本語理解できるのに日本語喋れないの面白すぎる



「……。」



 俺は。



 書き込み欄を開いた。



26:名無しの一般人


喋ろうとはしてたと思う



 送信。



27:名無しの一般人


>>26


175cmキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!



28:名無しの一般人


本人おつ



29:名無しの一般人


お前の設定ちょっと当たってきてんの怖い



30:名無しの一般人


次の予言頼む



「……。」



 予言じゃない。



 本人だ。



 さらに。



31:名無しの一般人


最後なんであんな焦ってたの?



32:名無しの一般人


政府にキレた



33:名無しの一般人


光線撃とうとしてた



34:名無しの一般人


いや胸ピコンピコンしてたから時間切れじゃね?



35:名無しの一般人


>>34


アレじゃん



36:名無しの一般人


アレだな



37:名無しの一般人


やっぱアレじゃねーか



38:名無しの一般人


3分で帰る巨大ヒーロー



39:名無しの一般人


政府との初会談


制限時間で強制終了



40:名無しの一般人


次回は質問3分以内にまとめとけ



「……。」



 俺は。



 スマホを見た。



 少し考える。



 そして。



 書いた。



41:名無しの一般人


多分本人ももう少し話したかったと思う



42:名無しの一般人


>>41


へぁ



43:名無しの一般人


へぁ



44:名無しの一般人


へぁ



45:名無しの一般人


へぁ



「……。」



 スマホを閉じた。



「……日本語で喋りたかったよ。」

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