第7話 政府
巨大人型存在対策関係省庁会議。
長い名前の会議が。
開かれていた。
内閣官房。
警察庁。
消防庁。
防衛省。
国土交通省。
その他。
関係省庁の担当者。
大型モニターには。
一枚の画像が映されていた。
銀色の。
巨大な人型。
「それでは。」
議長が資料を開く。
「これまでに確認されている事案について、改めて整理します。」
画面が変わった。
『第一事案』
山。
巨大な足跡。
崩れた斜面。
塞がれた道路。
「最初に確認された事案です。」
「推定全高、約45メートル。」
「推定重量、約1,200トン。」
「山間部に出現。」
「斜面の崩落、道路の寸断等が発生しています。」
次。
空を飛ぶ。
銀色の身体。
「その後、飛行能力を確認。」
「民間旅客機との異常接近も発生しています。」
次。
『第二事案』
海。
巨大な水柱。
「沖合において、極めて大規模なエネルギー放出とみられる現象を確認。」
「詳細については、現在も分析中です。」
次。
『第三事案』
川。
傾いたバス。
そして。
それを支える巨大な手。
「転落しかけたバスを保持。」
「乗員乗客の避難完了まで支え続けています。」
「この事案では、明確な人命救助行動が確認されています。」
次。
『第四事案』
スクワット。
片足立ち。
低空飛行。
「…………」
会議室が。
少しだけ。
妙な空気になった。
「いわゆる。」
担当者が言う。
「自主練と呼ばれている行動です。」
「正式名称ではありませんよね?」
「もちろんです。」
「……続けてください。」
「歩行。」
「屈伸。」
「片足立ち。」
「低高度での飛行。」
「複数の動作を反復していることが確認されています。」
次。
『第五事案』
空を飛ぶ。
銀色の身体。
「そして直近の飛行です。」
「自主練時より明らかに高速で移動しています。」
「一定距離を飛行した後、着陸。」
「その後、消失しました。」
説明が終わる。
議長が。
資料へ目を落とした。
「以上が。」
「現時点で確認されている主要な行動です。」
◇
「知性があると考えるべきでしょう。」
最初に発言したのは。
警察庁の担当者だった。
「バスの件だけではありません。」
画面に。
自主練の映像が戻る。
「この行動です。」
スクワット。
片足立ち。
「単純な本能による行動とは考えにくい。」
「そもそも。」
消防庁の担当者が続ける。
「最初の事案と最近では、動きが違います。」
「違う?」
「最初は、自身の身体能力を把握していなかったように見えます。」
山。
飛行。
旅客機。
「しかし、その後は。」
バス。
自主練。
「周囲を確認しています。」
「自主練場所も、人や建物の少ない場所です。」
「偶然では?」
「可能性はあります。」
「ですが。」
映像が。
片足立ちで止まった。
「少なくとも。」
「自分の身体を扱うための訓練をしているように見える。」
「つまり。」
「学習している?」
「その可能性が高いと考えます。」
会議室が。
静かになった。
◇
「一つ。」
防衛省の担当者が口を開いた。
「確認しておく必要があります。」
「何でしょう。」
「知性があることと。」
「我々にとって安全であることは。」
「別の問題です。」
画面に。
数値が表示される。
『全高 約45m』
『推定重量 約1,200t』
『飛行能力』
『未知の高出力エネルギー放出能力』
「これだけの能力を持つ存在です。」
「仮に敵対した場合。」
一拍。
「現在の我が国に。」
「確実に阻止できる手段があるとは言えません。」
誰も。
すぐには答えなかった。
「しかし。」
消防庁の担当者が言う。
「現時点で敵対行動は確認されていません。」
「承知しています。」
「バスも救助している。」
「それも承知しています。」
防衛省の担当者は。
淡々と答えた。
「だからこそ。」
「敵対することを前提に対応するべきではない。」
「ですが。」
「敵対しないことを前提にすることもできません。」
「…………」
「善意があることと。」
「安全であることは別です。」
◇
画面が。
別の資料へ変わった。
銀色の巨大な身体。
その姿を見ながら。
一人の専門家が言った。
「……やはり。」
「何です?」
「似ていますね。」
「何にです?」
「…………」
少し。
間があった。
「アレです。」
「…………」
誰も。
何とは聞かなかった。
銀色。
巨大な人型。
飛行。
そして。
人命救助。
日本人なら。
多くの人間が。
一度は思う。
「国民が比較的好意的なのも。」
「その影響があるのではないでしょうか。」
「かもしれません。」
「アレなら。」
「人類の味方でしたからね。」
「…………」
議長が。
資料から顔を上げた。
「アレは。」
「作り話です。」
会議室が。
静かになった。
「フィクションの中で人類を守っていた存在と。」
「現実に存在している、この巨大人型存在を。」
「同一視することはできません。」
「姿が似ている。」
「飛べる。」
「人を助けた。」
「それだけで。」
「人類の味方であると判断することはできない。」
「…………」
「我々は。」
「現実の問題として考える必要があります。」
◇
「そして。」
防衛省の担当者が。
別の資料を開いた。
「現実の問題として考えた場合。」
「国内だけを見ているわけにはいきません。」
世界地図。
「諸外国から。」
「この存在がどう見えるかです。」
「…………」
「我々には。」
「バスを救助した存在です。」
「国民には。」
「自主練をしている、親しみのある存在として認識され始めている。」
「しかし。」
画面に。
空を飛ぶ巨大人型存在。
「外国から見れば。」
「日本国内に繰り返し出現する。」
「全高45メートル。」
「推定1,200トン。」
「高速飛行能力を持つ。」
「高出力の未知のエネルギーを放出する。」
「そして。」
「日本政府は。」
「この存在を管理していないと説明している。」
一人が。
腕を組んだ。
「……信用されるでしょうか。」
「そこです。」
海外報道の記事が。
画面に並ぶ。
『日本の巨大人型存在、新型兵器か』
『巨大人型存在を誰が管理しているのか』
『日本政府は関与を否定』
「既に一部海外メディアでは。」
「日本の新型兵器ではないかという論調も出ています。」
「兵器……。」
「当然でしょう。」
「逆の立場なら。」
「我々も同じ疑念を持つはずです。」
誰も。
否定しなかった。
◇
「特に問題なのは。」
「直近の飛行です。」
地図。
飛行開始地点。
移動方向。
「この飛行が確認された時期。」
「海外では武力衝突が大きく報道されていました。」
「まさか。」
「断定はしていません。」
「ですが。」
「仮に。」
担当者が。
地図の先を見る。
「この存在が。」
「紛争地域へ向かおうとしていたとすれば。」
「…………」
「善意だったとしても。」
「非常に危険です。」
「なぜです?」
「相手国には。」
「善意かどうか分からないからです。」
世界地図。
国境。
領空。
「正体不明の巨大飛行物体が。」
「高速で国境へ接近する。」
「軍事的対応を取られる可能性があります。」
「仮に攻撃された場合。」
「この存在が反撃すれば?」
「…………」
「本人にとっては。」
「自衛かもしれません。」
「しかし。」
「国際社会から見れば。」
一拍。
「日本から飛来した巨大存在による。」
「軍事行動になりかねません。」
会議室が。
静まり返った。
「彼が善意の存在だったとしても。」
「問題はそこではありません。」
「他国が。」
「そう判断するとは限らない。」
◇
「もう一点。」
国土交通省の担当者が。
厚い資料を机へ置いた。
「現実に発生している問題があります。」
「何です?」
「費用です。」
「……費用?」
画面が変わる。
道路。
土砂。
重機。
作業員。
「第一事案で発生した被害について。」
「道路復旧。」
「土砂撤去。」
「交通規制。」
「周辺設備の補修。」
「現在も。」
「関連する復旧作業が行われています。」
「…………」
「当然ですが。」
「全てに費用が発生します。」
一人が。
資料を見る。
「最終的な負担は?」
「それが問題です。」
「原因者は存在する。」
「しかし。」
「氏名不明。」
「住所不明。」
「法的な人格があるかも不明。」
「…………」
「請求書すら送れません。」
誰かが。
小さく息を吐いた。
「本人が見つかった場合は?」
「求償するんですか?」
「法的に可能であれば。」
「検討対象にはなるでしょう。」
「…………」
「ただし。」
消防庁の担当者が言う。
「今後。」
「この存在が救助活動を行った場合はどうします?」
「…………」
「例えば。」
「人命救助のために道路へ着地した。」
「道路が壊れた。」
「建物の倒壊を防ぐために接近した。」
「周辺設備に損害が出た。」
「飛行による風圧で。」
「別の建物が破損した。」
「…………」
「人を助ければ。」
「損害が発生する可能性がある。」
「その全てを。」
「本人へ請求するのでしょうか。」
沈黙。
「救助してください。」
「ただし。」
「壊したものは全額払ってください。」
「それでは。」
「今後、救助を躊躇する可能性もあります。」
「…………」
議長が。
ゆっくり息を吐いた。
「善意であることと。」
「損害が発生しないことは。」
「別問題ということですね。」
「はい。」
◇
議論が。
一通り終わった。
議長が。
机の上の資料を閉じる。
「では。」
「現時点での方針を確認します。」
全員が。
顔を上げた。
「当該存在に対して。」
「現時点で積極的な敵対行動は取らない。」
「監視及び情報収集を継続する。」
「諸外国に対しては。」
「我が国が開発、保有、管理する存在ではないことを。」
「引き続き説明する。」
「そして。」
議長が。
大型モニターを見る。
そこには。
バスを支える。
巨大な銀色の身体。
「意思疎通の可能性を。」
「検討してください。」
「意思疎通……。」
「これだけの知性があるのなら。」
「我々の言葉を理解できる可能性があります。」
「問題は。」
一人が言った。
「どうやって接触するかですね。」
「そうです。」
「出現場所も。」
「出現時間も分からない。」
「次に現れる保証すらありません。」
「それでも。」
議長は言った。
「話が通じる可能性があるのなら。」
「話すべきでしょう。」
◇
数日後。
国会。
「政府に伺います。」
野党議員が立っていた。
「いわゆる“へぁさん”についてです。」
議場が。
少しざわついた。
「政府は。」
「この巨大人型存在を。」
「いつから安全保障上の検討対象としていたのでしょうか。」
担当大臣が立つ。
「お尋ねの巨大人型存在につきましては。」
「最初の確認以降、関係機関において必要な情報収集を行っております。」
「答えていません。」
「国民には。」
「飛行能力。」
「そして極めて大きな身体能力を持つ存在であることが。」
「既に広く知られています。」
「政府は。」
「この存在を脅威と認識しているのですか。」
「現時点において。」
「我が国に対する明確な敵対行動が確認されているとは認識しておりません。」
「では。」
「脅威ではない?」
「そのように申し上げたわけではありません。」
「…………」
議場が。
またざわついた。
◇
別の議員が。
立った。
「私は。」
「政府がこの存在を。」
「安易に軍事的脅威として扱うことにも問題があると考えます。」
「バス事故では。」
「明確に人命を救っています。」
「敵対していない存在に対して。」
「こちらから過度な軍事的対応を取れば。」
「逆に危険を招くのではありませんか。」
さらに。
別の議員。
「では。」
「被害についてはどうでしょう。」
資料を掲げる。
「最初の出現では。」
「道路等に多額の被害が発生しています。」
「その復旧費用を。」
「最終的に誰が負担するのでしょうか。」
「現時点では。」
「当該存在の法的性質も明らかではなく――」
「税金ですか?」
「現時点で確定的なことを申し上げる段階にはありません。」
「では。」
「原因者が特定された場合。」
「政府は本人へ求償する可能性があるということでしょうか。」
「個別具体的な事案については――」
「しかし。」
別の議員が。
割って入る。
「救助活動中の損害まで請求するのですか?」
「…………」
「人を助ければ助けるほど。」
「本人の負担が増える。」
「そのような制度で。」
「次も助けてもらえると考えているのでしょうか。」
議場が。
ざわつく。
◇
その夜。
俺は。
ニュースを見ていた。
『国会では本日、巨大人型存在、通称“へぁさん”を巡って――』
「…………」
テレビの中で。
政治家たちが。
俺について。
真剣に議論している。
『政府は、この存在が日本政府によって開発、保有、管理されているものではないと改めて説明しました。』
「そりゃそうだ。」
『一方、海外では、日本の新型兵器ではないかとの見方も一部で――』
「……兵器?」
箸が止まった。
画面には。
俺が。
空を飛んでいる映像。
『日本国内でのみ繰り返し確認されていることから、海外では――』
「…………」
日本国内でしか。
確認されていない。
理由。
「住んでるからだよ。」
誰にも。
届かなかった。
◇
スマホを開く。
掲示板は。
当然。
盛り上がっていた。
【国会】へぁさん、ついに政治問題になる
1:名無しの一般人
国会でへぁさん連呼してて草
2:名無しの一般人
日本平和すぎるだろ
3:名無しの一般人
いや45mで1,200tだから普通に平和じゃない
4:名無しの一般人
結局アレなんだろ?
5:名無しの一般人
銀色
巨大
飛ぶ
人助け
6:名無しの一般人
完全にアレ
7:名無しの一般人
アレは人類の味方だったし大丈夫だろ
8:名無しの一般人
>>7
アレは作り話だぞ
9:名無しの一般人
急に現実に戻すな
10:名無しの一般人
海外では日本の兵器説出てるらしい
11:名無しの一般人
兵器じゃねーだろwww
12:名無しの一般人
じゃあ何なんだよ
13:名無しの一般人
へぁさん
14:名無しの一般人
>>13
何の説明にもなってなくて草
15:名無しの一般人
でも海外からしたら普通に怖くね?
16:名無しの一般人
日本にしか出てない
17:名無しの一般人
飛べる
18:名無しの一般人
1,200t
19:名無しの一般人
正体不明
20:名無しの一般人
こう書くと急に怖い
21:名無しの一般人
しかも光線っぽいの撃てる説ある
22:名無しの一般人
日本の最終兵器
23:名無しの一般人
射程3分
24:名無しの一般人
>>23
弱い
「…………」
兵器じゃない。
俺は。
ただの。
会社員だ。
スクロールする。
25:名無しの一般人
つーかなんで北海道にしか出ないんだよ
26:名無しの一般人
北海道が好きなんだろ
27:名無しの一般人
寒冷地仕様
28:名無しの一般人
住んでたりして
29:名無しの一般人
>>28
45mの家どこだよ
30:名無しの一般人
草
「…………」
俺は。
書き込み欄を開いた。
31:名無しの一般人
普通に北海道に住んでるんじゃない?
送信。
32:名無しの一般人
>>31
だから45mの家どこだよ
33:名無しの一般人
洞窟
34:名無しの一般人
山
35:名無しの一般人
湖の底
36:名無しの一般人
実家暮らし
37:名無しの一般人
>>36
急に親近感
「…………」
違う。
普通の家だ。
もう一度。
書く。
38:名無しの一般人
普段は普通の人間だったりして
39:名無しの一般人
またお前か
40:名無しの一般人
175cmのへぁさんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
41:名無しの一般人
前スレの偽物じゃねーか
42:名無しの一般人
まだやってたのかよ
「…………」
覚えられていた。
さらに。
43:名無しの一般人
でも政府は話してみるつもりらしいぞ
44:名無しの一般人
何語で?
45:名無しの一般人
へぁ語
46:名無しの一般人
政府「へぁ」
へぁさん「へぁ」
交渉成立
47:名無しの一般人
外交簡単すぎて草
「…………」
日本語で。
いい。
書こうとして。
やめた。
どうせ。
信じてもらえない。
スマホを閉じる。
テレビでは。
まだ。
日本の新型兵器について。
専門家が。
真剣に議論していた。
「……兵器じゃねえよ。」




