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怪獣のいない世界〜偶然アレに変身できたけど一切使い道がない件〜  作者: 大福


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16/20

第16話 宿題


 休日。


 テーブルの上には、銀色のアレ。


 その横では、スマホに昨日の掲示板が開かれたままになっていた。



『へぁさん 宿題な』



「……。」



 閉じる。



「誰が宿題だよ。」



 スマホを置く。


 数秒。



 また見る。



「……。」



 今度は、西村の顔まで浮かんできた。



『今回まで時間ありましたよね。なんで三回目を試してないんですか?』



「……うるせえな。」



 右足を見る。


 まだ少し痛む。


 手のひらも、完全には治っていない。



 あの日。


 初めて知った。



 爆発は、普通に痛い。


 熱いものは、普通に熱い。


 変身中に負った怪我は、戻っても残る。



 知らなかった。



 全部。



「……。」



 銀色のアレを見る。



 三回目。



 これも知らない。



「……一回くらい、ちゃんと調べるか。」



     ◇



 山奥。



 俺はスマホの地図を確認する。



 民家、なし。


 道路、かなり遠い。


 送電線、なし。



 周囲を見回す。



「……人も、なし。」



 たぶん。



 ここで初めて変身した時は、山を壊した。



 今回は本当に何もしない。



 変身して。


 立って。


 戻る。



 それだけ。



「……休日に何やってんだ、俺。」



 地面には鞄。



 中には、おにぎりとパンと水。



 変身すると腹が減る。



 これは、もう分かっている。



「よし。」



 銀色のアレを握る。



「へぁ。」



     ◇



 巨大化。



「……。」



 何もしない。



 動かない。



 ただ立っている。



 風が吹く。



 鳥が飛んでいく。



「……すいません。」



 暇だ。



 めちゃくちゃ暇だ。



「三分って、何もしないと長えな。」



 ピコン。


 ピコン。



「来た。」



 そのまま解除。



     ◇



 身体を確認する。



 異常なし。



「一回目。」



 スマホにメモする。



『1回目 問題なし』



 腹が鳴った。



「もう?」



 時計を見る。



 まだ昼には早い。



「……燃費悪いんだよな。」



 おにぎりを一個食べる。



     ◇



「二回目。」



 銀色のアレを握る。



「へぁ。」



     ◇



 巨大化。



「……。」



 また何もしない。



「暇だな。」



 空を見る。



「怪獣とか出てくれたら――」



「……。」



「いや、出るな。」



 ピコン。


 ピコン。



 解除。



     ◇



「……腹減った。」



 さっき、おにぎりを食ったばかりだ。



「マジかよ。」



 もう一個。



 メモ。



『2回目 問題なし 腹減る』



 そして。



 銀色のアレを見る。



「ここからか。」



 三回目。



 工場事故では、ここでやめた。



 何が起きるか分からなかった。



 変身できない。



 それだけならいい。



 倒れるかもしれない。


 戻れなくなるかもしれない。


 身体に何か起きるかもしれない。



「……。」



 一度、銀色のアレを置く。



 また持つ。



「西村のせいだからな。」



 少し考える。



「……いや。」



 違う。



 あいつは関係ない。



 これは。



 俺が知らなきゃいけない。



「……よし。」



 握る。



「へぁ。」



     ◇



「……。」



 景色が小さくなった。



 いや。



 俺が大きくなった。



 手を見る。



 動く。



 足。



 動く。



 胸。



 いつも通り。



「……できた。」



 普通に、できた。



「できんのかよ……。」



 嬉しくはなかった。



 頭に浮かんだのは。



 工場だった。



 黒煙。



 炎。



 瓦礫。



 走り回る消防隊員。



 そして。



 二回目の変身を終えて、飛び去った俺。



「……。」



 三回目は、できた。



 あの日も。



 たぶん。



「……戻れたんだな。」



 戻ったからといって。


 誰かを助けられたとは限らない。



 間に合ったかも分からない。



 それでも。



 戻ることは、できた。



「……。」



 ピコン。


 ピコン。


 ピコン。



     ◇



 解除。



 俺はしばらく、その場に座っていた。



 腹が鳴った。



「……。」



「今?」



 おにぎりを食べる。



 もう一個。



 パンも開ける。



「シリアスに考えてる時くらい待てよ。」



 食べる。



 少し落ち着いたところで、スマホに入力する。



『3回目 可能』



「……よし。」



 帰ろう。



 立ち上がる。



 二歩歩く。



 止まる。



「……。」



 振り返る。



 銀色のアレ。



「……いや。」



 三回できる。



 それは分かった。



 じゃあ。



 四回目は?



「……。」



「いやいや。」



 三回目を調べに来た。



 目的達成。



 帰ればいい。



 歩く。



 止まる。



「……。」



 戻る。



「こういうのを調べとけって話なんだよな。」



 銀色のアレを握る。



「へぁ。」



     ◇



「できんのかよ!」



 四回目。



 普通に巨大化した。



 手。



 足。



 胸。



 問題なし。



「何回できんだよ。」



     ◇



 解除。



 腹が鳴る。



「はいはい。」



 パンを食べる。



 水を飲む。



 メモ。



『4回目 可能 かなり腹減る』



 銀色のアレを見る。



「……五回目。」



「へぁ。」



     ◇



 巨大化。



「……。」



「はい。」



 もう驚かない。



     ◇



 解除。



「腹減った。」



 鞄を開ける。



「……。」



 おにぎり。



 ない。



 パン。



 ない。



 袋の底に。



 飴が一個。



「これだけ?」



 食べる。



「……足りねえよ。」



 スマホに入力。



『5回目 可能』


『食料終了』



「……。」



 自分で書いたメモを見る。



「何の研究だよ。」



 少し考えて。



『次回 弁当増量』



「……。」



「次回あんのかよ。」



     ◇



 帰ろう。



 そう思った。



 でも。



 気になる。



 五回できた。



 じゃあ。



 六回目は?



「……。」



 腹はかなり減っている。



 身体も少し重い。



「……一回だけ。」



 銀色のアレを握る。



「へぁ。」



     ◇



 巨大化。



「……。」



「できるんだ。」



 六回目。



 普通に変身できた。



 でも。



「……。」



 身体が重い。



 さっきまでと違う。



 腕を上げる。



「……重っ。」



 下ろす。



 足を動かす。



 動く。



 でも。



 明らかに怠い。



「これ……。」



 腹が減っているだけじゃない。



 全身に疲労が溜まっている。



「回数じゃないのか?」



 変身そのものはできる。



 ただ。



 使うたびに。



 俺の身体から何かを持っていかれている。



「……飯か?」



 自分で言って。



 少し嫌になる。



「燃費悪すぎだろ。」



 ピコン。



 ピコン。



     ◇



 その頃。



 政府の監視室では。



 職員たちが画面を見つめていた。



『へぁさん、消失しました』



「……。」



『本日、六回目です』



「六回……。」



『同一地点で出現と消失を繰り返しています』



「移動は?」



『ほとんどありません』



「何をしているんだ?」



 誰も答えられない。



「……訓練でしょうか。」



「何の?」



「……。」



 一人の職員が。



 先日の工場事故の資料を見る。



 二度の出現。



 その後のテレビ討論。



「……まさか。」



「どうした?」



「活動可能回数を、自分で確認しているのでは?」



「……。」



 室内が静かになる。



「なるほど。」



 別の職員が頷いた。



「では……。」



 画面を見る。



「六回が限界か。」



     ◇



「違う。」



 俺は山の中で。



 空になった鞄を見ていた。



「弁当がなくなったんだよ。」



     ◇



 翌日。



「高橋。」



「何?」



 佐々木が俺を見る。



「お前、疲れてない?」



「……ちょっとな。」



「休み何してた?」



「色々。」



「何したらそんな疲れるんだよ。」



「……色々。」



 テレビからニュースが流れる。



『昨日、山間部において、へぁさんが短時間に複数回出現していたことが確認されました』



「……。」



 俺はコーヒーを飲む。



『確認されているだけで六回――』



 佐々木がテレビを見る。



「何してんだ、こいつ。」



「……さあ。」



『専門家は、先日の工場事故を受け、自身の活動可能回数を確認していた可能性があると――』



「……。」



「バレてる。」



「ん?」



「何でもない。」



 映像が切り替わる。



 討論番組。



 西村。



「……。」



 嫌な予感しかしない。



『やっと調べたんですね』



「お前が言うな!!」



 佐々木が振り返る。



「何?」



「……いや。」



 コーヒーを飲む。



     ◇



 夜。



 自宅。



 テーブルの上には。



 今日の検証結果。



『1回目 問題なし』


『2回目 問題なし 腹減る』


『3回目 可能』


『4回目 可能 かなり腹減る』


『5回目 可能 食料終了』


『6回目 可能 かなり疲れる』


『上限 不明』



「……。」



 結局。



 分かったことより。



 分からないことの方が多い。



 何回使えるのか。



 どれくらい重いものを持てるのか。



 どれくらい頑丈なのか。



 どこまで飛べるのか。



 光線だって。



 ほとんど分かっていない。



「……。」



 俺は銀色のアレを摘まんだ。



 考えてみれば。



 俺は。



 こいつのことを何も知らない。



 どうして変身できるのか。



 どうして三分なのか。



 どうして光線が出るのか。



 どうして。



 あの銀色の男は。



 俺にこれを渡したのか。



「……。」



 そして。



 一番分からないこと。



「なんで俺なんだよ。」



 返事はない。



 銀色のアレは。



 ただ、そこにある。



「……説明書くらいつけろよ。」

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