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怪獣のいない世界〜偶然アレに変身できたけど一切使い道がない件〜  作者: 大福


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13/20

第13話 外交

 翌日。


 へぁさんとの意思疎通成功は。


 世界中で報道された。


『政府は昨日、巨大人型存在、通称へぁさんとの意思疎通に成功したと発表しました』


 朝。


 俺はテレビを見ながら。


 パンをかじっていた。


『これまでに確認された内容です』


 画面に。


 大きく文字が並ぶ。


【日本語を理解】


【意思あり】


【日本政府の指揮下には入らない】


【災害時は現場指揮に協力】


【日本ではなく「人」を守る】


【人間かどうかは回答不能】


「……。」


 改めて並べられると。


 最後だけ。


 ものすごく怖い。


『特に海外メディアが注目しているのが――』


 画面が切り替わる。


『日本という国家ではなく、「人」を守ると意思表示した点です』


「……。」


「そんな大げさな話じゃないんだけど。」


 困っている人がいたら。


 助ける。


 俺が言いたかったのは。


 それだけだ。


 だが。


 世界は。


 そう簡単には受け取ってくれなかった。


     ◇


『質問します』


 政府の記者会見。


『へぁさんの言う「人」には、外国人も含まれるのでしょうか?』


『確認できておりません』


「含むよ。」


『では、犯罪者は?』


『確認できておりません』


「……。」


 俺は黙った。


『敵対する国家の兵士も「人」に含まれるのでしょうか?』


『確認できておりません』


「……。」


 パンを置いた。


「急に難しくするなよ。」


 別の記者が手を挙げる。


『へぁさんは、日本政府の管理下にあるのでしょうか?』


『ありません』


『日本政府が所有する存在ではない?』


『所有しておりません』


「物みたいに言うな。」


『日本国籍は?』


『確認できておりません』


「あるよ。」


『そもそも、人間なのでしょうか?』


『本人が回答できないとの意思を示しております』


「……。」


「それは俺が悪かった。」


 さらに。


 海外メディアの記者が手を挙げた。


『では、日本政府はへぁさんについて、何を把握しているのでしょうか?』


『……。』


 会見場が静かになった。


「……。」


 俺も静かになった。


『現在、調査中です』


「ごめん。」


     ◇


 それから。


 各国政府から日本へ。


 問い合わせが相次いだ。


 日本政府の指揮には従わない。


 しかし。


 日本国内に現れる。


 日本語を理解する。


 そして。


 国ではなく。


 人を守る。


 海外から見れば。


 意味が分からない。


 日本政府から見ても。


 意味が分からない。


 俺にも。


 よく分からない。


     ◇


 昼休み。


「高橋。」


「何?」


 佐々木がスマホを持ってきた。


「へぁさん、会談するかもしれないって。」


「誰と?」


「外国。」


「外国って広すぎるだろ。」


「何か、いろんな国が話したいって言ってるらしい。」


「……。」


 佐々木が画面を見せる。


【各国 へぁさんとの直接対話を要請】


「……。」


『複数の国から、巨大人型存在との直接対話を希望する声が上がっています』


『国際機関からも、日本政府だけが接触を続ける現状について――』


「……。」


 佐々木が感心したように画面を見る。


「すげえな。」


「何が。」


「へぁさん、外交してる。」


「してねえだろ。」


「外国と話したら外交じゃね?」


「知らねえよ。」


「首脳会談とかするのかな。」


「するわけないだろ。」


「でもさ。」


「何?」


「どうやって話すんだ?」


「○×じゃね?」


「英語で?」


「……。」


 止まった。


 英語。


「……。」


 考えたことがなかった。


 佐々木が俺を見る。


「へぁさんって英語分かるのかな。」


「……どうだろうな。」


「宇宙人なら分かるんじゃね?」


「なんで宇宙人が英語分かるんだよ。」


「日本語分かってんじゃん。」


「……。」


 それを言われると。


 説明できない。


「高橋は?」


「何が。」


「英語。」


「……駄目。」


「俺も。」


「なんで嬉しそうなんだよ。」


「仲間。」


「一緒にすんな。」


「一緒だろ。」


「違う。」


 でも。


 問題はそこじゃない。


 俺。


 英語駄目なんだよね。


     ◇


 数日後。


 政府から発表があった。


『外国政府からの要請を受け、次回接触時、へぁさんが英語を理解できるか確認します』


「……。」


 テレビを見ていた俺の手が止まった。


『当日は通訳を同席させ――』


「マジかよ。」


     ◇


 休日。


 いつもの場所。


 俺は双眼鏡を覗いていた。


 政府関係者。


 警察。


 カメラ。


 そして。


「……。」


 いる。


 スーツ姿の外国人。


「本当に来てるよ……。」


 行きたくない。


 ものすごく。


 行きたくない。


 でも。


 前回。


 政府から協力を求めてもいいか。


 ○を出した。


「……。」


「英語のテストじゃねえんだから。」


 銀色のアレを握る。


「へぁ。」


     ◇


 巨大な身体が現れる。


 政府側が一斉に動いた。


『へぁさん!』


「はい。」


『本日は、あなたが英語を理解できるか確認させていただきます!』


「知ってる。」


『よろしいでしょうか!』


 ○


『肯定!』


 そして。


 外国人男性が。


 拡声器を受け取った。


「……。」


 目が合った。


 気がした。


『Do you understand English?』


「……。」


 俺は。


 少し考えた。


 Do you understand English?


「……。」


 これくらいは。


 分かる。


 英語が分かりますか。


 そう聞いている。


「まあ。」


「これくらいなら。」


 両腕を上げる。


 ○


『Oh!』


 外国人男性の顔が明るくなった。


『He understands English!』


「……。」


 これも。


 何となく分かる。


 英語分かるって言ってる。


「……。」


 そして。


 これが。


 まずかった。


     ◇


『First, I would like to ask you about your intentions regarding――』


「……。」


 急に。


 長い。


「ファースト……?」


『Do you consider yourself to be associated with Japan, or――』


「……。」


 待って。


『If another country were to request your assistance――』


「待て待て。」


『Would you consider――』


「ちょっと待て。」


 全然分からない。


 さっきと。


 レベルが違う。


 俺は外国人男性を見る。


「へぁ?」


『He responded!』


「いや。」


「分かんないって。」


「へぁ、へぁ?」


『Another response!』


「だから!」


「質問が分かんねえんだよ!」


『へぁ! へぁへぁ!』


 外国人男性が。


 何かをメモする。


「メモすんな!」


 さらに質問。


『Regarding your ability――』


「リガーディング?」


『Would you be willing to――』


「ウィル……?」


『In the event of――』


「……。」


 駄目だ。


 完全に。


 置いていかれた。


 分かる単語を拾おうとする。


 ジャパン。


 ピープル。


 パワー。


 ガバメント。


「……。」


「単語だけ分かっても意味ねえ。」


 外国人男性は。


 まだ話している。


 俺は。


 ○も。


 ×も。


 出せない。


「へぁ?」


 首を傾げる。


『He appears to be considering the question』


「考えてねえよ。」


「分かってねえんだよ。」


     ◇


 政府側も。


 さすがに異変に気づき始めた。


『通訳を入れた方が――』


 しかし。


 外国人男性が。


 もう一度、拡声器を握った。


 そして。


 何かを確認するように。


 俺を見上げた。


『If a military conflict were to threaten our citizens――』


「……。」


 ミリタリー。


 聞いたことある。


『Would you use your power to protect our people, if requested by our government?』


「……。」


 パワー。


 プロテクト。


 ピープル。


「人?」


 俺は首を傾げる。


 その瞬間。


『ちょっと!』


 日本政府側から。


 大きな声が飛んだ。


「え?」


 政府担当者が。


 外国人男性から拡声器を取ろうとする。


『何を言ってるんですか!』


「えっ?」


『そのような質問は事前の協議に含まれていません!』


「何?」


 外国人男性が何かを言い返す。


 政府担当者も。


 言い返す。


「……。」


 俺は。


 両方を見る。


「何?」


「何聞かれたの?」


『これは言語能力を確認するための接触です!』


『しかし彼は「人」を守ると――』


『安全保障に関わる要請を直接行うことは認められません!』


「安全保障?」


 何の話?


 俺。


 何頼まれた?


 外国人男性が。


 また俺を見る。


『Would you――』


『やめてください!』


「ちょっと待って!」


 何?


 何なの?


 俺を置いて。


 話を進めるな。


「へぁ!?」


『発声!』


「そこ記録しなくていい!」


 ピコン。


「……。」


 胸を見る。


 ピコン。


 ピコン。


「あ。」


 まずい。


 日本政府。


 外国人。


 まだ揉めている。


「ちょっと!」


 ピコン。


 ピコン。


 点滅が速くなる。


「俺の時間!」


 誰も。


 聞いていない。


「へぁ!」


『発声確認!』


「だから!」


 ピコン。


 ピコン。


 ピコン。


「もう知らん!」


 何を聞かれたのか。


 分からない。


 何で揉めているのかも。


 よく分からない。


 でも。


 なんか。


 ヤバそう。


「……。」


 とりあえず。


 両腕を。


 思いっきり交差する。


 ×


『……!』


 全員が。


 俺を見る。


「知らん!」


 ピコン。


 ピコン。


 ピコン。


「帰る!」


 地面を蹴る。


『へぁさん!』


「無理!」


『待ってください!』


「時間ねえんだよ!」


 巨大な身体が。


 一気に空へ上がる。


『まだ確認が――』


「へぁ!」


 そのまま。


 俺は。


 飛び去った。


     ◇


 その日の夜。


「……。」


 俺は。


 テレビの前に座っていた。


『本日行われた、へぁさんとの接触について――』


「……。」


『外国政府関係者が、事前に合意されていなかった質問を行ったことが分かりました』


 画面に。


 日本語訳が表示された。


【仮に軍事衝突によって我が国民が脅かされた場合――】


【我が国政府から要請があれば、その力を我が国民を守るために行使する意思はありますか?】


「……。」


 俺は。


 しばらく。


 画面を見ていた。


「そんなこと聞かれてたの?」


『へぁさんは質問直後、明確な回答を示しませんでしたが――』


「分かってなかったからな。」


『その後、×の意思表示を行い、飛び去りました』


「……。」


 結果だけ見ると。


 ものすごく。


 毅然と断ったように見える。


『専門家は、へぁさんが軍事的な協力を拒否した可能性が高いと――』


「……。」


 俺は。


 ソファへ深く座った。


「○にしなくてよかったぁ……。」


     ◇


 翌日。


「高橋。」


「何?」


 佐々木が。


 スマホを見ながら笑っている。


「へぁさん、英語分かるらしいぞ。」


「……。」


「昨日、自分で○出してた。」


「……そうらしいな。」


「でも途中から全部無視。」


「……。」


「英語分かるけど、気に入らない質問には答えないタイプらしい。」


「……。」


「外交うまくね?」


「どこがだよ。」


「軍事協力も即×だぞ。」


「……。」


「芯があるよな。」


「……。」


 違う。


 分かってなかっただけだ。


 佐々木が。


 さらにスマホをスクロールする。


「ネットでも評価上がってる。」


「何て?」


「『へぁさん、圧力に屈せず』」


「……。」


「『日本政府より外交強くて草』」


「……。」


「『質問が気に入らないので帰る。最強の外交カード』」


「……。」


「『英語ペラペラ説』」


「それは違う!」


 佐々木が。


 俺を見る。


「なんでそこだけ全力で否定すんだよ。」


「……。」


 俺は。


 パソコンへ向き直った。


「仕事しろ。」


「まだ始業前。」


「……。」


 画面を開く。


 昨日の英語が。


 頭に浮かぶ。


『Do you understand English?』


「……。」


 あれくらい。


 誰でも分かるだろ。


 検索欄を開く。


『英会話 初心者』


 入力する。


 検索。


 動画。


 教材。


 アプリ。


 オンライン英会話。


「……。」


 しばらく眺める。


 そして。


 気づいた。


 俺が。


 英語を覚える。


 完璧に。


 話せるようになる。


 外国人と。


 流暢に会話できるようになる。


 その状態で。


 変身する。


 俺が。


 完璧な英語で。


 話しかける。


 相手に聞こえるのは。


「……。」


「へぁ。」


 検索画面を閉じた。


「勉強する意味ねえじゃん。」

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