魔王討伐ゲーム
部員はふたり、部室はない。それが趣味研というサークル。
かつては存続すら危ぶまれていたが、フェイリアが部長として奔走したおかげで何とか廃部は免れている。
そんな弱小サークルは週に一度、午後のXクラスを活動場所にしている。
「いいかラド、オメーはアタシのサークルを代表して趣味研の活動に参加しろ。この指令は秘密だから絶対にバラすな。スパイとして隠密に密偵すんだぞ」
仰々しい会話だけど、なんてことはない。
この教室はメイ先生の家でもあるから、変なことをしないかとか、乗っ取られないように見張れと言いたいだけ。
ちなみにメイ先生のサークルはMCS。メイの、キューティな、サーバント。
つまり召使いとか奴隷みたいな感じ。
「勇者アリィよ。目の前の村が魔物の襲撃にあっている。どうする?」
「何ですか薮から棒に。わたくしが勇者……というのならば、助けるしかないでしょう」
「村に向かうと門番の兵士に止められた。これより先は村長の許可が必要だ」
「魔物はよくて勇者はダメなんですの!? では、どうしたら村へ入れるのでしょう」
「村長は北の湖に行っている」
「移動してきました。もしもし村長ですか。貴方の村、魔物に襲われてますわよ」
「助けてくれるというのか。では勇者の証を示すがよい。湖底に潜むといわれている古代竜、ウォータードラゴンの首を差し出せ」
「村が襲われているのになんて悠長な。メチャクチャじゃありませんか」
ひとつのイベントを進めるために、数多くのお使いをさせられるのがこの手のゲームの定番だとフェイリアは言う。
「こんな村長がこの世に存在していたら、とうの昔に淘汰されておるだろうのう。実在したら実在できないという、何というパラドックスよ」
一見くだらない会話のやり取りのようで、こういったところから新しい発想が生まれるものだと豪語している。ゲーム制作は奥が深い。
「あー忘れ物、忘れ物……って珍しい面子で遊んでんじゃん。メイちゃん先生は一緒じゃないんだ」
「出たなウォータードラゴン。勇者よ、サイコロを振ってこやつを攻撃じゃ」
「ドロー。ファンブル、胸がないから当たりませんわ」
勝手に魔物へ仕立てられ、悪口まで言われたらジュディアだって黙っていない。
「なんなのあんたたち!」
「激しい水流のブレス! ドロー、パーティ全員に大ダメージじゃ!」
「もう勝ち目はありませんわ。かくなる上は…………わたくしの仲間になれば世界の半分を差し上げましょう」
「それ勇者側の台詞じゃないっしょ、まったく」
ジュディアは私物のポーチを手に取ると、付き合いきれないといった表情で足早に教室を出て行った。
「ウォータードラゴン撃退じゃ。しかし、物足りぬのう」
「閃きましたわ。使いどころに困っていた、この変わったサイコロを使えば……」
「うむ。外に出て魔物退治の冒険じゃ」
外で遊ぶなら部室を使う意味がないという疑問は口にせず、ボクはフェイリアとアリィに着いていく。当然のごとく受け入れられているあたり、すでに趣味研の部員にカウントされているんだろう。
「お。中庭にてエレノアとレティシアを発見、サイコロをドローせよ」
特殊なサイコロには数を示す模様ではなく、いろいろな表情をデフォルメした顔だけが描かれていた。
「怒り顔が出ましたわ。デュエル、スタート!」
アリィが繰り出した攻撃は『スカートをめくる』。
フェイリアは『頭から水をぶっかける』。
まさかの指名でボクが捻り出した言葉は『急に抱きつく』だった。
「さてエレノアよ。今の攻撃はそれぞれ、百点中、何点じゃ?」
何の説明もなく目の前で唐突に始められた会話に戸惑いつつも、エレノア会長は律儀に考えて答えてくれた。
「スカートをめくられたら怒るかもしれませんが、同性ですから二十点くらいかしら。頭から水をかけられたら迷惑なので七十五点」
「ふむふむ、残り五点じゃ。して、ラドの攻撃はどうじゃ?」
「ラドが相手でしょう。その程度では怒りませんよ」
「まさかのミス、ラドはやられてしまった!」
事前のルール説明なんてひとつもない。エレノア会長もレティシアも、ボクでさえも呆気にとられていた。
「次のターン、ドロー。笑顔が出ましたわ」
アリィの攻撃はシンプルに『くすぐる』。
フェイリアはまさかの『服を脱ぐ』。
「くすぐられれば笑うかもしれないので十点はあげましょう。服を脱ぐというのは、笑われる方法ではないでしょうか」
累計ダメージが百を越えたら倒した判定になるらしい。
エレノア会長は無念にも力尽き、レティシアとの連戦になる。
「サイコロには泣き顔。シアを泣かせる方法ですか」
アリィの攻撃は『悪口を言う』。
フェイリアは『服を脱がす』。
ボクは戦闘不能で蚊帳の外。
「バカ、アホ程度の罵倒が悪口とは……単純すぎてまったく堪えぬ。服を脱がすのも、その前にひと太刀で返り討ちにしてくれよう」
「ダメージゼロ、クリティカルじゃ! 対象二倍、ワシらの負けじゃ…………」
冒険は初手にて終了……とはならず、次なる敵を求めて学園内を突き進む。
「なにかしら、アレ」
「私はいつの間に勝ったというのだ」
今はギルド活動の真っ最中。校庭ではたくさんの生徒たちが真面目に運動して汗を流しているので、邪魔をするわけにはいかない。
そもそも遊びに付き合ってくれそうな知り合いが見当たらないんだ。
「ふむ、さすがエスカレア特別区。魔物という危険因子はおらぬということか」
「わたくしたちから溢れ出す秘められたパワーに気圧されて、近寄れないのでしょう」
メイ先生がいてくれたら、一番の危険因子はオメーだと突っ込んでくれただろう。この中では唯一の良心とも思えるアリィでさえこの有り様。
敵を求めて彷徨い歩いていると、校舎前の日当りの良い花壇で水やりをしているフェイラー学園長に遭遇した。
フェイリアの弟だからって、まさか学園長を遊びには巻き込まないだろう。
「魔王じゃ、ラスボスの魔王じゃ、戦闘態勢に入るのじゃ!!」
ボクとアリィが挨拶をした時はニコニコしていたのに、フェイリアの号令が空気を一変させた。笑顔のようでいて、目が笑っていないフェイラー学園長はちょっと怖い。
「サイコロ、ドロー。照れ顔じゃ!」
辱める方法を挙げろと宣言したフェイリアは、意気揚々と『十二歳までおねしょをしていた』と暴露した。
顔を引きつらせたアリィは『クリーニングのタグを付けっぱなしにする』とお茶を濁し、ボクは無難に『ズボンを下げる』と告げて、すべてから目を逸らした。
「さあフェイラーよ、それぞれ何点……」
「何を言っているのかわかりませんな、姉上」
「くぅーっ、一ターン目は様子見というラスボスにありがちなパターンか。では再びサイコロ、ドロー!」
特殊サイコロの出目は怒り顔。
「ふーむ、フェイラーを怒らせる方法とな…………はて」
「簡単なこと。今の、このやり取りじゃ」
アリィは用事を思いついたと会釈をして、ゆっくりこの場を離れていく。ボクもさりげなく後に続いた。
「お尻ペンペンはイヤじゃあ!!」
残酷な言葉に思わず反応しそうになったけど、決して後ろを振り向いてはいけない。
嗚咽と悲鳴が枯れ果てるまで、フェイリアはフェイラー学園長にしこたま怒られた。




