これだれだゲーム
「暇だねぇ」
「暇だな」
遊びに行くほど元気もなく、時間を潰すアテもない。いつものXクラスではみんなが暇を持て余していた。
「これだれだゲームでもすっか」
「聞いたことないけれど、それはなんだい?」
「正式名称は知らねぇが……そうだなジュディス、解答者をやってみてくれ」
「うんいいね、了解」
カイザーがノートにメモをすると、ジュディス以外のボクたちに見せてきた。
「ジュディスが質問をして人物を当てる解答者、他は全員が出題者だ。メモには人物の名前が書いてある」
解答者であるジュディスはノートに書かれた人物が誰なのかを推測して、質問だけで当てられるかというゲームだ。
「ぼくの質問には、出題者のみんなは『はい』か『いいえ』で答えてね。曖昧な返答になってもいいし、素直に『わからない』でもいいんだよ」
「出題者は五人いるから、解答者の質問も五回にしておくか。解答者はわかった時点で答えていいぞ」
ゲームとはいえ勝ち負けを競うものではなく、強いていえば解答者が当てられたら嬉しいとなる程度の、つまりは暇つぶし。
「じゃあ早速、質問するね。その人は…………かわいい?」
「いいえ」
カイザーは即答した。人によって好みが違うため、答えが変わるから出題者の人柄や性格なんかも考慮する必要がありそうだ。
今回はチュートリアルなので引き続きカイザーが返答していく。
「では次に。女性ですか?」
「まぁ…………どちらかといえば、はい……だな」
好みや感情で返答が曖昧になるものもあるし、だけど確実に決まるものもある。
これ、性別だよね?
「んー、その人は魅力的で……」
「いいえ」
かわいいと魅力的って何が違うんだろう。質問回数は限られているので無駄にしたくないはずだけど、ボクたちにわかりやすくプレイしているのかな。
「今で質問は三回だよね。でも誰なのかは推測できたよ。どちらかといえば女性寄り、魅力もなければかわいくもない……となれば」
解答者のジュディスにとっては、限られたヒントで答えを導き出せるかがゲームの醍醐味というわけだ。
「答えは、姉さん!!」
「ジュディスぶち殺すわよ」
「ハズレだ。処刑はゲームが終わってからにしろ」
当たらなければ引き続き質問を繰り返していく。
その人物は先生なのか、背と胸は小さいかというヒントからメイ先生だと言い当てたジュディスの勝ちになった。
「っていうゲームだ。解答者と出題者が、その人物をどう捉えているかがバラされちまうのもポイントだな」
「メイちゃんはかわいくて魅力的な女の子なのに」
「こんな調子で次はジュディア、やってみろよ」
人物はXクラスに限らない。
可愛くなくて、マジェニア学園の生徒じゃなくて、先生でもなくて、クソガキでもなくて、女性じゃない。それなのにフェイリアと答えて外したジュディア。
フェイラー学園長は女性ではない。
次にカイザーは解答者なって開口一番、質問する前に『生徒会長か』で正解した。
「人読みで楽勝だな。お前らの思考が単純すぎんだよ。次はレナがやってみろ」
カイザーがノートに記したメモはレナ、つまり自分自身。
「んー、金髪ですかぁ?」
「いいえ」
「女の子?」
「はい」
「魔法は使える?」
メテオは魔法といえば魔法だし、違うといえば違う。エスカレア特別区の研究機関に調べてもらっても解明できない不思議な能力が、レナのメテオ魔法。
「そんなん、はいだ、はい」
「多分、はい……かな」
「うーん、違う気がするわ」
「ぼくにはわからないよ」
「ボクは魔法だとおも……は、はい」
ここでみんなの答えにバラつきが出た。はい、いいえ、わからない。
曖昧な返答は正解から離れてしまいそうで、実は解答者に考える余裕を与えてしまう。普通のウィザードだったら、この質問は『はい』で即答できるんだ。
「えーっと…………メテオを使う?」
レナは答えがわかった上で、念を押して確認するために言ったんだ。こうなったらみんな口を揃えて『はい』と言うしかない。
「最後の質問はぁ……」
「まだ聞くのかよ!? まぁ好きにしろ」
「その子は、かわいいですか。ね、かわいいですか?」
「あぁはいはい、かわいいかわいい」
「かわいいよねぇ」
「かわいいっしょ」
「うん、かわいいよ」
なぜ、かわいいという簡単な言葉なのに念を押して二回言ったのか。
なぜ、レナはボクから目線を外さないのか。
「早く答えろよラド」
「ラドはその子のことをどう思っているんだい」
「もしかしてかわいくないって思ってんの?」
「面白くなってきたね」
初動のミスを悔やむも後の祭り。みんなに続いてさりげなく即答しておけばよかった。
「ん…………う……うん…………その……か、かわいい……」
「照れてドモるのマジウケる」
「初々しいね。顔が真っ赤だよ」
その人物をどう捉えているかがバラされる恐ろしいゲームだということを、身に染みて体験した。
「はいはーい、答えはぁー、ラドくん、かなー?」
は?
「ぶっぶー。答えはレナでした。いやぁ残念ね」
「魔法少女設定ガン無視かよ」
「そりゃあラドだってかわいいし、惜しかったねぇ。あはは」
「メイちゃんもかわいい」
オーバーキル。死体蹴り。踏んだり蹴ったり。
不正解だったのに誰ひとり残念がっていないところに悪意を感じてしまう。
「最後はラド、やってみろよ」
嫌な流れを断ち切って気持ちを入れ替える。でも、いざ解答者になってみると緊張して漠然とした質問しか浮かんでこない。
「…………どうしよう。その人は女の子かな?」
「ん……部分的に、はい?」
「女の子だねぇ」
「女の子って言ってもいいんじゃないかな」
「女の子だよぉ」
「なに言ってんの即答しなさいよ女の子だろって!」
みんなの言葉のキレが悪い。女の子という表現は性別だけじゃなくて、大人か子供かで揺らぎが出てしまうんだ。
つまり性別は女性で大人、もしくはみんなより年上かもしれない。
「じゃ、優しい人?」
「それも部分的にはい、じゃねぇか?」
「どうだろう…………わからない……」
「はいって言っておかないと、今後のぼくの人生が……」
「優しいよぉ」
「だから優しいって即答しろってば。わからないって何よ!!」
この質問は曖昧で悪手だったかもしれない。
優しさとは甘やかすだけではなく、時に厳しく怒ったり叱る必要が生じる。それもまた優しさだと感じられるか以前の問題として、普段から近しい間柄かどうかで答えは変わってくるだろう。
つまり、Xクラスではないのか?
「うーん。その人は、頭がいい?」
「まぁ頭は、な」
「どうだろう。知識はあるよねぇ」
「知力と学力という意味なら…………そう思うけれど」
「頭いいよぉ。いろんなこと教えてくれる……って、はいで答えるんだっけ」
「レナ以外は一回殺すから。ジュディスは二回」
一歩ずつ答えに近づいている実感がある。
女の子と呼ぶには大人びていて、部分的な優しさは厳しさの裏返し。そして頭がいい。
質問のすべてにレナが首を傾げながら肯定しているのもヒントだと捉えると、みんなにとっては少し距離があり、レナには身近な存在であると推測できる。
答えは決まった。
質問はまだ残っている。先ほどの仕返しも含めて、みんながその人物をどう思っているかを聞いてみよう。
「その人は、かわいいですか」
────しーん。
「お、おう、部分的に……な」
「確かにかわいらしいね。あはは」
「これ以上死にたくないからノーコメントでお願い」
「かわいいよぉ……」
「胸か、胸のことか!?」
かわいいかを聞いているのに、部分的ってどういう意味だろう。聞いてもないのに胸という言葉が出てくるし。
確かにボクが思い浮かべる人物の胸は特徴的だ。
年上の女性に対してかわいいと表現するのは失礼に当たるということなのか。とはいえ否定すればそれはそれで問題になる。だから部分的って言ったんだ。
「最後の質問。その人の胸は大きいですか!?」
「なし」
「なし」
「なし」
「ラドくん?」
「あんたたち即答っておかしくね!?」
カイザーはお腹を抱えて笑い転げて、ミーシャはお腹を押さえてのたうち回っている。ジュディスは二回あるうちの最初の処刑を終えて健やかな眠りについた。
そもそも質問の答えが『なし』ってなんだろう。答えるまでもなし、つまり大きいということだろうか。
「答えを言うよ。クリス先生!!」
自信はあった。思い返してもボクの推理に綻びはない。しかし、どこでどう間違ったんだろう。どこでボタンを掛け違えたんだろう。
ボクを含めた男子たちは、ジュディアにしこたま怒られた。




