番外編 ~講義 CASE①カチカチ山 つづき
CASE①カチカチ山のたぬき
続きです。
私は母狸を探す為、となり町へ出発しました。
不安に押し潰される感覚が今でも蘇ります。
黒い大きい雲が内側に拡がるイメージで
分厚い雲にすべてが覆われて
臓器を縛られ、息が出来なくなるような…。
生きているのに死んでいるような恐ろしさが身体中を支配していました。
父との約束を忘れ、
母狸のことを必死で探しました。
途中、赤い目をした大きいうさぎに出会いました。
「どこに行くの?」と聞かれたので、
私は「母狸を探している」と答えました。
すると『家族に狸を見かけていないか聞いてあげるよ!』と、うさぎは親切に対応してくれました。
後をついて行くと
…
…
……。
そこには賑やかに過ごす大家族の狸がおりました。
驚愕していると
赤い目のうさぎは、フワフワした柔らかい煙に巻かれ
ていき、雲のようなフカフカの中へ消えました。
「ボンッ!!」と音がしてス〜〜ッと現れたのは、なんと狸でした。
化け狸だったのです!
「安全の為、うさぎの姿で歩くようにしているんだ
足まで速くなった気持ちになれるしね。みんな!この狸さんの母親を見てないー?」
私の母狸を見ていないか聞いてくれました。
大家族の子供狸が顔を上げて言います。
「見てないよー」
大家族の父狸も「見てないなぁ…いなくなったのかい?…大変だな。このうまい球根をやるから、持って帰って食べなさい。うちの球根は元気が出るよ!」と言いました。
私は、小さな片が集まって丸い形になった球根のような食べ物を貰いました。
鼻を近付けて、クンクンと匂いを嗅いでみると何とも言えない臭い香りがしたのです。
「この球根は、おおひるって言うのよ。ちょっと臭いけどね。火を入れてから食べると、とっても美味しいわよ〜スープにしても美味だからね」となり町の母狸は言いました。
球根…
スープ…
となり町…
まさか、嫌な予感がしたのです。
父が死んだのは、この球根のせいかも…?
勘が良い私はそう感じたのです。
証拠はありませんが…。
親切なフリをする化け狸たちに騙される私では無い!平静を装って、その場を立ち去りました。
母狸を探して、しばらく辺りを歩き回りましたが
どこにもいる気配がしないので仕方なく家へ戻ることにしたのです。
ヘトヘトになって家へ帰ると、なんと!
私の母狸がそこに座っていました!
「遅くなってごめんよ
お腹が空いただろう?」
なんてことだ!!
一体何が起こったのか!?
「母!どこに行っていたの!?」
「食べ物を探していたら、迷ってしまったんだよ。
いつも父狸に頼りきりだったろう?ココから出たことがなかったからねぇ…一人にしてごめんよター坊」
このときは本当に安心したものです。
なんだ…
よかった…
ここにいたんだ
母はここにいたんだ
母狸の帰りがあまりに遅いので、良からぬことが
起こったのだと思い込んでしまいました。
「ちょうどよく、となり町の狸が沢山死んだ噂を聞いたから!
てっきり母狸が殺ってしまったのかと勘違いしてしまったんだ」
包み隠さず、事の経緯を話すと
「え?なぜ、となり町の狸を私が殺すんだい?」
母狸は目を丸くして言いました。
「そんなわけないでしょー」
「父がとなり町に近づくなって言い残したじゃないか!だから仇をとったと思ったんだよ」
「仇?
違うよ。そんなことしないよーまったくもぅ…
ター坊は想像力豊かだね。となり町の狸は、父狸が死んだことと関係ないでしょ」
「え…そぉ?でも!
父さんが亡くなるときに、となり町には近付くなって言ってたじゃないか」
「やだねぇ…ター坊。
考えすぎだよ。
父狸はとなり町の狸とよく喧嘩していたから
きっと気まずかったんだよ。あの狸たちとは生き方が違うからね、危ないと思っただけだよ。」
「でも!」
「大丈夫だよ。
ター坊は気にしすぎだよ。
今日はキノコを見つけたから
それを食べようね」
母狸はあっけらかんとして、嘘を言っているようには見えませんでした。
少しは疑う気持ちを持たないと…母狸は優しいから…。
私は思いました。
それから、となり町の狸に貰った臭い球根を母狸に見せました。
「ねぇ、母、これ何かわかる?」
「うーん?
なんだいこれ?
うわっ!なんか臭いね!
食べないほうがいいんじゃない?」
「そうだよね!」
「どこかで見つけたの?」
「うん、でも臭いし…捨てておくよ」
「そうだね」
母狸は微笑みました。
次の日、母狸に内緒で臭い球根を持って出掛けました。
噂話をしていたうさぎを探し、この謎の球根を食べさせてやろうと思ったのです。
なぜそんなことをしたのか…今の狸には理解できません。
母の言う通り、となり町の狸たちは父の死とは関係ないのか?
あいつらが悪者かどうか、確かめたかったのかもしれません。
『となり町の狸がたくさん死んだ』と噂をしていた
うさぎはすぐに見つかりました。
臭い球根を渡すと、ニコニコ笑顔で受け取り
「わー!これは【おおひる】じゃないか!ありがとう!大好きなんだよ!」と喜んでいました。
そして、去り際に「狸もたまには良いところあるんだね」と言っていました。
次の日、そして次の日の朝も、そのうさぎは姿を見せませんでした。
あんなに元気そうだったのに。
やっぱりあの球根は毒だったんじゃ?
私はだんだん怖くなってきました。
「となり町の狸……やっぱり怪しいよ
狸(·)はやっぱり信用ならないな!!」
私はひとりで顔を歪めました。
ここに居るのは危険だと判断し、すぐに母を連れて森の奥の…更に奥にある誰も寄り付かないような洞穴に引っ越しました。
母が老衰で亡くなるまで、二人で隠れてコソコソと
穏やかに暮らしました。
一人になって、私の人生は大きく変わっていきました。
お寺へこっそり通うようになったのです。
お坊さんが子供たちに勉強を教えているのを、こっそり聴いていました。
母が亡くなり、心配することもされることも無くなったので、そんな大胆な事が出来たのだと思います。
お寺で、あの球根は毒ではない事を知りました。
お坊さんは野菜の授業で、となり町の狸がくれたのと同じ臭い球根を手に持っていました!
【おおひる】または【にんにく】と呼ぶことを子供たちに教えていて、強烈に臭いが美味しい食べ物だということ。
逆に身体に良いものだと知り、私は驚愕しました。
すると…となり町の狸たちは、良い狸ということになる。
噂好きなうさぎが、次の日から姿を見せなかったのは
にんにくを食べて口が臭かったから…!?
なんということでしょう!!
私は草むらに隠れて爆笑しました。
まったく!
良い狸たちを疑い、うさぎに毒見をさせて勝手に恐がり洞穴に引っ込んだ。
自分のことが恥ずかしくなりました。
父がとなり町の狸の球根に殺されたと思い込んで生きてきました。
にんにくで死ぬわけがない!
たぶん普通に寿命だったのか。
「まったく!!!……馬鹿な狸はどーにもならないな!!」
父狸も母狸も、おおひる(にんにく)のことを知らなかった
親狸が知っていれば、私も知っていたはずなのに。
それから私は、親狸を見下すようになってしまいました。
馬鹿な親を持った自分を憐れむようにもなりました。
無知は罪と呪い、まずはとなり町の狸のところへ戻って、化け学を学ばせて貰うことにしたのです。
私の親狸といえば、化け学を教えてくれることはありませんでした。
今思えば、本人たちが何かに化けているところを見たことがないので、習得していなかったのだろうと思います。
となり町の狸に化け方を教わり、1年ほどでマスターしました。
特に人間に化けるのは難しいけれど、お坊さんから読み書きを教えて貰いたかったので頑張りました。
親を見習わず、コソコソしすぎないように生きることにしたのです。
化ければ何でも可能なのだから!
読み書きが出来たら更に無敵です!
人間の子供に化けて、文字を習いました。
馬鹿にされたくないからです。
親のようにはなりたくない!
親狸のように、森で食べ物を探し回るのでは無く
人間が育てた食べ物を盗むようになりました。
とてもラクだったからです。
人を化かして色んなものを手に入れました。
目に見えない知識から、命を繋ぐ食べ物まで
なんでも盗みました。
私の頭はとても良くなりましたが、少しばかり残っていた愛や敬意も無くなっていったのです。
自分の思考、行動が手に負えなくなり
とても意地悪になりました。
大好きだった親狸のことまで馬鹿にするようになり、
トンデモナイ者へ変化しました。
ご存知の通り、その後…カチカチ山の狸に成り果てます。
私の人生は一度、地獄へ堕ちていったのです。
→次のページに続きます。




