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「第30話」

 原点に戻った。

 レイゲルはずっと、自分を連れて行ってほしいと願っていた。隙を見せず、しつこく問いかけてくる。それでも気にも留めず、にやにや笑っているだけだった。

 …本当に憎たらしい弟子だ。




 ***




 結論から言えば、一緒に行くことにした。

 子に勝つ親はいないとはよく言ったもので、まさにその通りだった。


 あまりにも小さい頃から見ていたせいか、余計な情がついてしまったな。

 必要ないなら捨てればいいものを。その簡単なことすらできない自分が、ただ情けなく思えるだけだった。


 全部業だ、業なんだろう。


 そもそも、初めからレイゲルを森で拾ったときから、こうなることは予想済みのようなものだった。わかっていても連れてきた。だから、いまさら驚くこともない。


「これでいいだろう」


 丸い器の中をかき混ぜていたスプーンを、軽く振って余分なものを落とした。器の中には、いくつかの薬草を組み合わせて作られた、濃い茶色のどろりとした液体が入っていた。


「レイゲル」


 視線を向けて、本を読んでいた少年を呼んだ。集中していた彼は、呼ばれた声に顔を上げた。


「こちらへ来てみよ」

「これは何ですか?」

「何ですか、それ?」


 レイゲルは本を閉じて、文句も言わずに近づいてきた。私の手にある器をちらりと見て、好奇心を覗かせた。


「染め薬だ」

「染め薬?」


 一人で行くのなら、作る必要もなかった。だが、すでに一緒に行くことに決めたのだから、レイゲルに必要な準備はしておかねばならない。目を上に向けて、少年の髪をさっと撫でた。太陽の光を浴びなくても輝く金色が眩しかった。


「このままで歩けてはいかないだろう」

「うん、確かに。目立ちますね」


 レイゲルは、まるで自分のことではないかのように振る舞った。多くの視線を集めることをわかっているくせに、大した問題だとは思っていない様子だった。


 あるいは、楽しんでいるかも。


 レイゲルがただ格好いいだけなのか。あまりにも圧倒的に整った容姿のせいで、月に一度町へ降りるたび、子どもも大人も問わず女性たちからあらゆる好意を受けていた。どうにか自分でうまく対応してはいたが、遠くから見守っていると、どうにも情けなく見えるときもあった。


「いつものようにかつらをかぶっていれば、だめですか?」


 レイゲルは町に行くとき、いつも茶色のかつらをかぶっていた。


「万一のこともあるだろう。激しく動かねばならないこともあるかもしれないのに、かつらが邪魔になれば困る」

「あ、そういえば最近、他の地域では魔物の出現が増えているって聞きました。剣を使うこともあるかもしれませんね」


 レイゲルの瞳に、期待の色が浮かぶ。訓練のために森で生息する魔物を狩ってきたせいか、外に出る魔物にも興味があるようだった。


「喜ぶことではない」

「わかっています。ただ言っただけですよ」


 レイゲルの言う通り、この町を出た他の地域では、魔物の出没が増えているらしい。その影響で帝国のあちこちで頭を悩ませているという。今回、町に降りたときに聞いた情報だが、ここにも魔物が現れるのではないかと、町人の心配も耳にした。


 その心配は全くないだが。


 この町に限って言えば、近くに住む魔物は町に足を踏み入れることはできなかった。正確には、この森の決められた区画から出られなかった。閉じ込められているとも言える。魔法によって。少しでも快適に暮らしてほしいという彼の配慮だった。


 急がなくちゃいけないな。


 町で得た魔物の情報。もう先延ばしにできないと、決意を固める決定的な理由だった。


「とにかくわかったなら、持っていって染めなさい」


 持っていけという意味で、器をレイゲルに差し出した。だが、少年はぼんやり立ったまま見ているだけで、手を伸ばそうとしなかった。


「レイゲル?」

「やってください」


 堂々と要求してくる言葉。思わず聞き間違えたかとびくりした。もう一度言わせる意味で、眉をわずかにひそめた。


「一人でもできるだろう」

「そうなんですけど、塗り残しがあるかもしれません。せっかくならきれいに染める方がいいじゃないですか?」


 レイゲルは柔らかな口調で説得した。一見もっともらしく聞こえるが、上がった口元と、ほんの少し反った目尻が気に入らなかった。


「変になっても知らない」

「大丈夫です。ぐちゃぐちゃになったって、別にいいじゃないですか。そういうのも悪くないです」


 …本気か。趣味も変わっている。私の手先の器用さを知っているくせにあえてこう言うのを見ると、相当やってほしいのだろう。


 別に難しいことでもないし。


 レイゲルに差し出していた器を、再び手に取った。


「椅子を持ってきて、座ってみろ」


 返答が、なかなか心に響いたらしい。レイゲルはにっこり笑って、テーブルのそばにあった椅子を持ってきて座った。いつも上にあった髪が下に降り、少年の輝く金髪がよりよく見えた。


「きれいにしてください」

「よくもそんなことを言えるものだな」

「はは」


 レイゲルはさっぱり笑い、正面を向いていた頭を私の方へ向けた。こんな視線まで受け止めなきゃいけないのかと思ってしまう。

 ……なぜ、そんなふうに私を見るんだ。

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