「第28話」
剣術を一生懸命振るった。
なのに、返ってくる視線はどこか不純だった。
「なんていうか……ええと、師匠、剣は持たないでください」
「これくらいなら上出来だと思ったが?」
私としてはよくやった方だ、うん。
「知らない人が見たら、酔っぱらいが暴れているって言うかもしれないほどです」
「かなり貴重な剣術を披露したのに、評価が厳しいとは思わないか?」
「ならもっと上手くやればいいじゃないですか」
「無理な要求だな」
厳しい言葉が耳にぐさぐさ刺さった。レイゲルをつまらなそうな目で見つめ、また剣を返した。
「もういい。で、君はどう思う?」
うまくもない剣術をわざわざ見せたのには、それなりの理由があった。
「望むなら教えてやる」
レイゲルは差し出した剣をじっと握った。自分なりに考えている様子だった。
「師匠、さっき見せた以外にも何か知ってることとかありますか?」
「あるにはあるが、さっきのが一番長く見てきた剣術で、他はもっと拙いんだ」
「それよりもっと拙くなることってあるんですか?」
……こいつ。布で覆われて見せない目が細くなった。一方、レイゲルは私がどう見ているかなんて気にも留めず、唇をきゅっと結び、思考を続けていた。何かが頭の中で固まったようだった。
「じゃあ、僕の家、ベニアサ家の剣術も知ってますか?」
その言葉でレイゲルの望みが分かった。せっかく習うのだから、自分の家の剣を覚えたいのは当然のことだった。その気持ちも知らぬわけではないが。
「全く知らないわけじゃないが、教えられるほどではない」
知っていても断片的だった。ばらばらのかけらを教えても、どこで使えるというのか。かえって変に身につくかもな。そうなるくらいなら、知らないほうがマシだ。
「家の剣術を習えないのは残念だが、ここにいる間、基本ばかり繰り返すわけにもいかんだろう」
この言葉がレイゲルの判断の助けになったようだった。握った剣を強く握ったり緩めたりしていた動作をやめ、顔を上げて私をまっすぐ見た瞳は澄んでいた。
「大丈夫です。あとで習えばいいですから」
「それは君の存在を示す剣術だから、後にきちんと覚えたほうがいいだろう」
「じゃあ……師匠が見せてくれた剣術ですけど、貴重だって言ってましたけど、本当に貴重なんですか?」
「貴重だ。とても古いものでもあるからな。今はずいぶん変わっているだろう」
もちろん正確にはわからなかった。その後、見たことがなかったからだ。長い年月が過ぎたのだ。一つも変わっていないわけがない。
もしレイゲルが見せたとしても、別に疑われることはないだろう。
希少で安全な剣術と言える。
「補うべき点があるということですね」
「そうかもしれない」
当時は非の打ちどころがなく、名前まで付けられていたほどだった。しかし時代が流れすぎた。時代の変化とともに多くの欠点が露呈したかもしれない。当然それに合わせて改良もされたはずだ。
「師匠は、改善される前のごく初期の剣しか知らないんですね」
「そう」
レイゲルは、私が否定しない言葉にじっと耳を傾けてから、独りごとを呟いた。
「確かに興味はあるけど……もっと研究を……」
独り言が小さすぎて全部は聞き取れなかったが、完全に聞こえなかったわけではない。
……まさか自分で改良したりはしないだろう?でも、レイゲルならできそうな気もした。
「ほかに何かありますか?」
「別に紙にでも書いて渡そうとした。二日あればできる」
一種の参考書のようなものだった。新しいものを習う時は、何か手元に資料があると少しは楽ではないか。完璧ではないが、目でざっと見たので、その後長々と文字で書いても十分理解できるはずだ。体で直接教えられないなら、説明だけでも一生懸命やろうと思った。
「ところで、どこの剣術ですか?」
「秘密だ」
「どこか変なもの拾って教えようってわけではないですよね?」
レイゲルは疑いの目で見てきた。とんでもない話だ。はっきり否定した。
「そんなことあるか。むしろ歴史の古い剣術だ」
「それは師匠が長生きだからでしょ。古い遺物みたいなものだから、歴史が浅いわけがないじゃないですか」
確かにそうだ。返された反論に、気恥ずかしさを隠すように軽く咳払いした。
「コホン。ともかく、正確に教えないのは君が知ると気になってしまうかもしれんからだ。剣を習うなら、他に目を向けてはいかんからな」
「そんなに言われたら余計に知りたくなります」
「知る必要はない。で、習ってみるのか?」
前で長々と話しても、レイゲルが習わないと言えばそこで終わりだった。
「うーん、やってみます。どうせ僕にとっていいことでしょう。面白そうだし」
面白そうだって……
一体どこが?最後の言葉が気になったが、わざわざ聞かなかった。
こうしてレイゲルにもう一つの知識を伝えるようになった。
***
二日後。
「さあ、これだ。君も分かっているだろうが、分からないことがあって聞かれてもあまり役に立たないと思え」
「大丈夫です。自分でやってみますから」
約束通り剣術について書いた紙をレイゲルに渡した。量が多くて分厚い本のようになった。
「このふにゃふにゃしているのは何ですか?」
「……見たくなければよこせ」
レイゲルはしばらく紙を眺め、ある部分を指で示した。動きを図で描いたものだった。文字だけびっしり並んでいるよりも、図があったほうが良いと思って頑張って描いたのに。評価が厳しかった。出せと合図するように手を差し出した。レイゲルは紙を胸に抱え、後ろに身を引いた。
「いいえ、ちゃんと見ます」
それから二週間が過ぎた。
「見てください。ここで腰を捻りますよね?こうすると、どんなに脚でしっかり支えていても隙ができてしまうんです」
外でレイゲルが木の枝で作った剣を持ち、実演してみせた。私が見ても自分より姿勢が整っていた。
「だからこの部分はこう動きを変えれば、ずっと綺麗になるんです」
レイゲルはいくつも指摘し、そのたびに補っていった。やがて、自分で新しい動作を作り加えるまでになっていた。そばに助言する者がいなくても、自らてきぱきと進めていた。昔あの剣術を披露していた騎士たちの姿がふと浮かんだほどに。
いやはや。
才能というものは本当に恐ろしい。
「どうです?悪くないでしょう?」
「たしかに。さすがだな」
無造作に放った言葉も嬉しいのか、レイゲルはにやりと笑った。そう、下手よりはずっといい。いい方向に考えた。
……その考えが優柔不断だったとは知らずに。




