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大海の蜃気楼 ートリアイナ王国海戦記ー  作者: 出羽育造
第1章 灼熱の世界大戦
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第29話 ネアス島攻防戦④

 ネアス島の王国軍航空団基地と飛行場を占領する任務を帯びた別動隊を指揮する、ドアマース第601中隊を率いるヴァルター・フォン・クリューゲ少佐はドアマースの出しうる最大速度(20km/h)で進んでいた。飛行場までの距離は約10km。現在の速度だと約30分を要する。このため、クリューゲは別動隊を構成する100ミリ連装魔導砲を搭載した装輪突撃戦車グルファク(最高速度70km/h)中隊及びアルビオン10機を先行させた。


 アルビオンは飛行場上空に到達すると、基地を防衛する4両の自走対空機関砲と戦闘になり3機を喪失したものの、対空車両を全て破壊し、基地守備隊と激しい戦闘になった。守備隊は装甲車両を前面に立て、携帯型対空ミサイルや12.7mm機銃で応戦してきたが、上空を高速で移動しながら撃ち込まれる40mm魔導砲の前に次々と撃破された。


 地上からの抵抗を排除したアルビオンは地上施設の破壊にかかったが、サマラス要塞上空で防空戦闘を行っていた烈風が基地からの緊急電を受けて戻って来ると、飛行場目掛けて突っ込んで来た。烈風の接近に気付くのが遅れたアルビオン2機が魔力推進機を機関砲に撃ち抜かれて炎を纏いながら地上に激突する。残ったアルビオンは退避のため、上空高く飛び上がり、烈風がそれを追って上昇する。


 クリューゲ少佐はアルビオンが敵機に追われて離脱したのを知ると、先行させたグルファク隊に敵守備隊を排除し、飛行場を制圧するように伝えた。100mm魔導砲を連射しながらグルファクが飛行場に突入する。基地守備隊が自動小銃等で反撃するが、戦車に対抗できるべくも無い。たまらず守備隊の歩兵は撤退を始める。


 突然、1両のグルファクの側面に穴が開いて炎が噴出した直後、砲塔が火柱と共に舞い上がると、力尽きた様に停止する。また、別のグルファクは車輪を爆砕されて制御を失い、轟音を立てて横転したところに二発目の砲弾が命中して魔導砲のエネルギーコンバーターを誘爆させ木っ端微塵に砕け散る。グルファク隊の指揮官は車体上部のハッチを開けて、攻撃してきた相手を見て叫んだ。


「クソッ! もうきたのか、トライデントA2!!」


 王国軍主力戦車が横列に広がって土煙を巻き上げて突っ込んでくる。強敵の出現に指揮官はグルファクを右翼展開させ、トライデントに向けて砲撃を開始するよう命じた。グルファクの短砲身連装砲から魔導光弾が発射される。走行しながらの発砲のため、ほとんどは外れて地面を抉り、土砂を巻き上げるだけだったが、何発かはトライデントの正面に命中して閃光を放った。指揮官は歓声を上げるが、直ぐに唸り声に変わる。敵戦車に直撃した魔導光弾は正面装甲を撃ち抜けず、全て表面で爆発したのだ。


「接近しろ! 奴らの装甲は厚い。近接戦闘に持ち込め、全速前進!!」


 車内に戻り、魔導通信機のレシーバーにがなった指揮官の視界が真っ赤に染まった。トライデントの105mm徹甲弾が正面装甲をぶち抜いて爆発したのだ。指揮官を始め、乗員は何が起こったのか理解する間もなく肉体を蒸発させたのだった。


 第3中隊指揮官のスレイダー中尉は、戦場となった滑走路脇の誘導路及び格納庫付近を眺めて嘆息した。敵グルファク隊は指揮官を失った後、敵わないと悟ったのか、トライデントとの直接戦闘を避け、当初目的である飛行場施設を破壊にかかった。このため、グルファクを全て撃破する間に、駐機中の飛行機や飛行場場施設にも大きな被害を出したのだった。さらに、敵歩兵は今だ相当数残っていて、空港守備隊と戦闘を継続している。スレイダーは敵歩兵掃討を行う前に集合をかけた。


「中隊集合! 損害を報告しろ」

「ジョンソンのヤツが魔導砲で履帯を切られて行動不能です。あと、マックスの戦車に敵が体当たりして横転しました」

「搭乗員は脱出できたのか? 怪我は?」

「マックスの方に怪我人が出ました。操縦手のヤン伍長が足を骨折、砲手のウォーレン一等兵が腕に裂傷を負ったとの事です。ジョンソンの方には怪我人はありません」


 2号車の車長であるグレッグ少尉が報告してきた。スレイダーは9号車の車長、ルイス・ハミルトン曹長を呼び出すと、損傷した2両の戦車を爆破処分するとともに、乗員を管制施設へ運ぶ事、9号車はそのまま管制施設の守備に当たる事を命じると、残った5両に敵兵掃討を命令した。


「飛行場に侵入した帝国兵を掃討するぞ。一人も逃すな、突撃!!」


 6両のトライデントA2はスーパーチャージャーの金属的な機械音を鳴り響かせながら、ディーゼルエンジンを全開にして飛行場に突進した。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 航空団基地占領を目途とした帝国人形機動兵器ドアマースだったが、飛行場を目前にして、MWL(magic wave locator:魔導波レーダー)に王国軍の戦車を示す光点が映った。光点は二つに分かれ、ドアマース隊と飛行場の間に割り込むような動きを見せる部隊と背後に回り込む動きを見せる部隊に分かれて接近してくる。


「この動き、我々を挟撃するつもりか」


 指揮官のクリューゲ少佐は敵機甲車両の一部隊が向かったとの報告を受けていたが、これほど早いとは想定していなかった。顔を顰めた少佐はモニターに映る敵戦車を見た。後方に回り込もうとしているのは、帝国でも知られた王国軍主力戦車トライデントA2。

 一方で、前方に割り込んで来たのは型式表に無い未知の戦車だ。王国軍の戦車は、長方形の平たい箱を二つ重ねて、長い筒を取り付けた形状をしており、車高も低くドアマースから見ると、まるで子供の玩具のようだ。車高が高い箱型の車体に、短砲身砲塔を持つ帝国装輪戦車とは全く異なる。


(敵要塞に向かったドアマースと装輪戦車部隊は、王国軍の戦車隊と装輪装甲車(105mm砲搭載)と数度に亘り交戦し、7割超もの損害を出したほか、味方の歩兵も4割以上を失ったため、一時的に撤退に追い込まれたと総司令部から情報があった。ドアマースが王国軍の戦車に敗北しただと…。そのような事、絶対にあってはならんのだ! 兵力はこちらの方が上だ。速やかに敵を排除して敵航空基地を奪取する!)


「グルファク隊は全車反転! 敵トライデントA2を攻撃せよ。ドアマースはこのまま前進。敵戦車は僅か6両だ。ひと揉みに揉み潰せ!!」


「来たぞ。シスコン1から全車。相手は帝国の誇るドアマースだ。こちらの数が少ないと侮っているに違いない。それが間違いであることを教えてやれ。砲撃開始、散開!」


 無線機雄のレシーバーを叩き付けるように置いたユウキは、外部カメラから送られる映像を見る。高さ20m近いドアマースが迫る姿はモニター越しでも圧迫感がひしひしと感じられる。


「装填は完了しています!」

「目標、前方のドアマース!」


 装填手のティアニー一等兵が120mmAPFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)装填済みであることを報告する。ペリスコープの中でみるみる膨れ上がるドアマースの姿を見据えながら、ユウキが砲手のアンダーソン伍長に命じる。アンダーソンは、光学照準器と測遠機で目標距離と方位を測定し、弾道計算機で照準補正量(仰角・偏差)を算出した後、目標に砲塔を向ける。


「距離800m!」

「停止! 撃て!!」

「てっ!」


 トリシューラが急制動を掛けて停止し、轟然と咆哮から火炎が噴き出す。ドアマースの胴体部に直撃弾命中による閃光がきらめき、機関部に火が入ったのか、爆発とともに胴体が分断されて上半身と下半身が同時に地面に倒れ、地響きを上げた。


「後進しつつ右旋回!」

「了解ッ!」


 操縦手の梶原兵曹が返答し、履帯を軋ませながら重量52トンのトリシューラを操る。突然、トリシューラを爆音と共に激しい衝撃が襲い、ユウキ達の体を振り回した。車内の機器に体をぶつけ、痛む部分をさすりながら、ユウキは乗員の皆に声を掛けた。


「大丈夫か、みんな」

「イテテ…。何だったんですか、今の」

「ドアマースの魔導衝撃砲だ。砲塔に命中したようだが、魔導砲ではトリシューラの複合装甲は抜けんさ」


 ユウキがほっとした声で答えた。その間にティアニーが砲弾を装填して尾栓を閉じている。アンダーソンは砲塔を旋回させて砲口を敵に向けた。「てっ!」の号令一下、放たれた120mm砲弾はドアマースの胸部正面装甲を貫いた。次の瞬間、破孔から真っ赤な炎が噴き出すとドアマースは動きを止め、糸が切れた操り人形のように、ゆっくりと地面に倒れこんで地響きを立てた。


 トリシューラは機動力の高さを最大限生かし、ドアマースの砲撃を躱しつつ、接近離脱を繰り返しながら砲撃を加える。120mmAPFSDS弾は魔力強化装甲をボール紙のように撃ち抜き、後方に回り込んだトライデントA2が至近から装甲の薄い背部にHEAT(成形炸薬弾)を叩き込む。


 一方、魔導衝撃砲では小癪な敵戦車の装甲を破れないと悟ったドアマースは近接戦闘用武器である、ヒートアックスを手にして戦車を叩き潰しにかかるが、速力差がありすぎて追うことが出来ない。業を煮やしたドアマースがトライデントの前に機体を投げ出した。

 目前に現れた鉄の壁にトライデントは制動をかける間もなく激突し、けたたましい大音響を轟かせてながらドアマースに食い込んで停止した。それを見た別のドアマースがヒートアックスをエンジンブロックに叩きつけた。金属が引き裂かれる音が響き、ディーゼルエンジンが真っ二つに割られて黒煙を上げる。乗員が砲塔ハッチや車体下部の脱出口から慌てて脱出して行くが、ドアマースは20mm魔導銃を連射して薙ぎ倒す。

 トライデントを踏み付け、ヒートアックスを引き抜いたドアマースだったが、連続して激しい衝撃が背後から襲い掛かり胴体を分断されて、絡み合うように停止しているトライデントとドアマースの上に落下して大地を揺るがす程の大爆発を起こして砕け散った。


 両軍主力戦闘車両同士、入り乱れての激しい戦闘は当事者達は、永遠に続く様に思われたが、実際には短時間で終了した。ネアス飛行場制圧のために出撃した36機のドアマース隊は完膚なきまでに叩きのめされ、残存僅か6機だけとなった。既に周囲を王国軍の戦車隊に囲まれており、少しでも戦うそぶりを見せたら、あの恐るべき戦車砲が火を噴いてドアマースをただの鉄屑の山に変えるだろう。


 操縦席で屈辱に震えるクリューゲ少佐のドアマースの前に1両の戦車が進み出て来た。砲塔ハッチから将校らしい青年が半身を乗り出している。その青年将校がレシーバーを手にした。


「ドアマースのパイロットに告ぐ。私は王国陸軍特別機甲旅団戦車連隊第3大隊の大隊長、伊達大尉だ。君たちは立派に軍人としての責任を果たした。これ以上戦って、無駄に命を散らすことは無い。武装を解除して降伏せよ。3分だけ待つ」


 ユウキはレシーバーを降ろしてドアマースを凝視する。戦車のエンジン音とドアマースの魔導機関音だけが周囲に響く。1分が過ぎ、2分が過ぎても返答はない。これはダメかと再びレシーバーを持ち上げた時、ドアマースから返答の声が響いて来た。


「私はヴァナヘイム帝国ネアス占領軍第501ドアマース連隊、連隊長のヴァルター・フォン・クルーゲ少佐だ。我々には降伏の二文字は無い。帝国の威信を掛け、皇帝陛下のため最後まで戦う。それが帝国軍人たるものなのだ。伊達大尉、貴殿の申し入れは大変有り難いが、拒否させていただく」


「再考の余地は無いと?」

「無い」


 クルーゲ少佐の返答に頷いたユウキは、トリシューラの車内に戻ってレシーバーに向かって命令を伝えた。


「撃て」


 ドアマースの魔導衝撃砲とトリシューラとトライデントの戦車砲が同時に火を噴いた。戦車砲弾に串刺しにされたドアマースは、力を失ったように重なり合って倒れ、激しい炎を機体の各部から噴出させると大爆発を起こしてばらばらに吹き飛んだ。一方、王国側の戦車隊も数両が魔導衝撃砲の直撃を受けたものの、正面装甲や側面部に取り付けた増着装甲が貫通を許さず、機関銃や発煙筒等の外部装備を吹き飛ばされるに留まった。


 残骸となったドアマースを捜索していた隊員から「生存者無し」の報告を受けたユウキは、全車に飛行場へ向かう旨の命令を発した。


「ドアマースの脅威は去った。我々王国戦車隊の勝利だ! 第1中隊、第2中隊は直ちに航空軍基地に向かい、第3中隊と合同して浸透した敵兵を掃討する。以上、前進!!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「凄い所に出くわしてしまったな…」

「何と言うか…帝国軍の矜持を見たって感じっすね…」

「でも、哀れだわ。かわいそう…」


 地面の窪みに身を伏せていた鮎貝大尉、グロウ少尉、高田兵曹は戦車隊とドアマースの最後の戦いを見守っていた。全てのドアマースが爆発した後、3人は窪みの壁に背を預け、帝国軍人の死に様に思いを馳せて嘆息したのだった。


「大尉、戦車隊は基地に向かうようですぜ」

「やった! 戦車に乗っけてもらえば楽に移動できるんじゃないですか!?」

「止めとこう。いきなり飛び出したら、万歳突撃してきた敵兵と間違えられて蜂の巣になりかねん。基地まであと2kmほどだ。戦車隊が去ったら歩こう」

「残念。疲れちゃって、もう足がパンパンなんだけどな…」


 心底がっかりして、痛そうに足をさするグロウに、高田がニヤニヤして言った。


「パンパンになるのは足じゃなくて、お胸だったら良かったですね、ア・ネ・ゴ♡」

「な、なんですと! 殺されたいのアンタ! 悪かったわね、貧乳で。スレンダーボディはカワイイんだからねっ!」

「あっしは巨乳女子一択なんで。巨乳こそ至高なり!」

「き…貴様…」

「………。(確かに胸の起伏が希薄ではあるな。もう少しあった方がいいと思うな。うん)」

「何か言いたそうですね、大尉」

「き、気のせいだぞ少尉。さあ、基地に向かってGOだ、GO!」

「誤魔化した! まったくもう!!」


 プンスカ怒るグロウを宥めつつ、窪みから這い出て30分ほど歩き、基地の建物がようやく見えてきたとき、3人の頭上を防空任務を終えた戦闘機が轟音を立てて、1機、また1機と帰還してきた。大きく手を振るグロウに気付いた烈風が小さく翼を振った。


「あははっ。気付いてくれた」

「もういいだろう。さあ、基地までもう少しだ。走るぞ」


 鮎貝は2人を促すと基地に向かって駆け出した。


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