第27話 ネアス島攻防戦②
サマラス要塞の数km後方、山と山に挟まれた狭く細長い平地に、帝国の上陸用舟艇を多数屠った自走多連装ロケットランチャー「ラオコーン」24両が配備されていた。ここから山越しにロケット弾を発射していたのである。2度目の発射を終えた32連装ランチャーに再装填すべく、弾薬運搬車から兵士がロケット弾を搬出して装填する作業を行っていた。作業を督促していたロケット砲部隊指揮官の無線に緊急電が入った。
「こちらサマラスレーダー管制。ロケット砲陣地及び野戦砲陣地にアルビオン接近! 機数約30!!」
「きやがったか! 再装填中止、全車退避、退避だ! 自走対空砲前進!!」
「装填作業員は裏の山に向かって走れ、森に身を隠すんだ!」
敵接近の報を受けてロケット砲陣地は一気に混乱に陥った。指揮官が拡声器の音量を最大にして退避するよう叫ぶ。装填途中のロケット弾を抱えた兵士は、ロケット弾を地面に投げ捨てる様に置き、弾薬運搬車の運転手は転がり落ちるように車体から出ると、脇目も振らずに背後の森林に向かって走り出し、ラオコーンはエンジンを全開にして移動を始めた。
しかし、要塞の防空網を突破したアルビオン十数機が稜線の向こうから姿を現し、魔導砲を撃ちんできた。たちまち数両のラオコーンが穴だらけになって擱座し、生き残った乗員が血だらけの姿で這い出してくる。残ったラオコーンから自衛用の12.7mm機関銃が発射されるが、全て厚い装甲に跳ね返される。
襲撃してきたアルビオンのうち、何機かは地上に降りて内蔵ロケット弾を発射しながら魔導砲を乱射する。ロケット弾に捉えられたラオコーンはランチャーが吹き飛ばされて炎上し、魔導砲が退避する兵士を薙ぎ払う。
それに対して、何両かのラオコーンは反転するとランチャーを水平にして122mmケット弾を発射した。獲物だと思って刈ろうとしていた敵が牙を剝いた事に驚いたアルビオンは飛翔して躱そうとしたが、至近距離で発射されたロケット弾の網に絡め取られ、多数の直撃弾を受け、爆発して砕け散った。
ロケット弾の網から逃れ、上空に飛び上がったアルビオンのパイロットは地上の自走ロケットランチャーに魔導砲の照準を合わせた。弾を撃ち尽くしたロケットランチャーはただのカモでしかない。全速で逃げようがアルビオンからは逃げられるはずがないのだ。パイロットは小さく笑みを浮かべると、操縦桿の射撃スイッチに指をかけた。そこで、何っか違和感に気付く。
「おや…?」
攻撃の手を止め、パイロットはアルビオンの頭部を振ってモニター越しに周囲を確認して唖然とした。30機はいたアルビオンが10機程度に減っている。突然、モニターに映っていた複数のアルビオンが空中分解して墜落していった。パイロットは驚愕の声を上げて地上を見た。土煙を上げて退避するロケットランチャーの間から、戦車の車体に両脇に細長い棒と、天井部に小型の箱とくるくる回るレーダーを載せた箱型の砲塔を持つ戦闘車両が向かってきた。
「あれは…。対空戦車か! くそ、こいつらにやられたのか!?」
アルビオンが対空戦車に向かって魔導砲を向けるより早く、対空戦車の機関砲が動くと同時に砲口が白煙に包まれた。パイロットはスロットルを全開にして急速上昇、左旋回による回避行動を取る。しかし、対空戦車の砲塔が素早く回転して機関砲が角度を上げた。その機敏な動きに目を見張っていると激しい衝撃が連続して襲ってきた。操縦不能になった機体が真っ逆さまに落ちて行く。墜落するコクピットの中で、パイロットは仲間の姿が消えた理由を悟った。次の瞬間、体が押し潰される衝撃を感じて意識が暗転した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
連続する爆発で巻き上がる海水と土砂が海岸で這いつくばる帝国兵の上に降り注ぎ、血と硝煙の臭いが周囲に充満する。アルビオンの強襲によりラオコーン部隊が大きな被害を受けたものの、王国側の防御砲火は衰えるどころか益々激しくなって押し寄せる帝国軍を粉砕する。
しかし、爆炎の嵐を突破した上陸用舟艇は完全武装の兵士を吐き出し、20隻の戦車揚陸艦は被弾をものともせず、海岸にビーチングすると前扉を開ける。中から140ミリ魔導砲を搭載した8輪装甲戦車スヴァジル、100ミリ連装魔導砲を搭載した装輪突撃戦車グルファクが続々と姿を現し、魔導砲を発射しながらサマラス要塞目掛けて魔導モーターを全開にして進撃を始めた。
要塞各所の機関銃陣地から発射された銃弾に撃ち抜かれた帝国兵が悲鳴を上げて斃れ、迫撃砲の着弾で吹き飛ばされた帝国兵は破片で体をズタズタにされて転がる。また、155mm榴弾砲の直撃を受けた装輪戦車が無残に叩き潰され、76mm速射砲の徹甲弾に撃ち抜かれたグルファクが砲塔を吹き飛ばして擱座する。それでも、数に勝る帝国軍の歩兵は仲間の死体を乗り越え、擱座した戦車等を遮蔽物にして、魔導銃を撃ちまくりながら吶喊してくる。
「きたぞ、全車用意はいいな。設定ラインに到達したら一斉に射撃を開始しろ」
戦車連隊長西田少佐から全車に通信が入った。第3戦車大隊長のユウキはトリシューラの砲塔ハッチを開け、上半身を出して海岸線に双眼鏡を向けた。帝国軍は戦車を前面に押し出し、じわじわと要塞前面に迫って来る。さらに、機動兵器揚陸艦が陸上型重武装人型機動兵器ドアマースの陸揚げを始める様子が確認できた。ユウキは戦車内に戻ると、無線通信機の周波数を合わせてレシーバーを手に取った。
「巨乳1聞こえるか」
「よく聞こえるぞ、シスコンブラザー1。どうした(笑)」
「帝国御自慢のドアマースが出て来たぞ。あと、約1km程で射撃ポイントだ。褐色美女の爆乳を夢想してタイミングを逃すなよ、変態王子。オーバー」
「うるせぇ! そんな事言ってると、お前の超巨乳で超美人な妹を王室特権で嫁に貰うぞシスコン野郎!ってか、こっちでも確認できた。凄い数だぞ、ぶっ飛ばし甲斐があるってもんだ」
「絶対に妹はやらん! お前にはあおいちゃんがいるだろ、女子中学生の。ロリコン王子め(笑)各車目標設定。砲弾を装填しろ」
「そうだった(笑)」
「シスコンブラザー1からロリコンマスター1、健闘を祈る!!」
「ロリコンマスター1了解。ってか、なんで勝手に大隊コード変更すんだよ!」
ユウキとエドワードのあまりに緊張感の無いやり取り、西田連隊長の怒号が飛んだ。
「お前ら、ふざけるのもいい加減にしろ! 敵は目の前なんだぞ、緊張感が無いのか、馬鹿者! 罰として今からお前らの中隊のコードは今からロリコンマスターとシスコンブラザーだ。わかったな!!」
「ま、マジか!? ヤベェ、連隊長を本気で怒らせちまった…」
「すみません、連隊長…」
このやり取りを聞いていた砲手のアンダーソン伍長はため息をつき、装填手のティアニー一等兵は素朴な疑問を口にした。
「シスコンブラザー。韻はかっこいいけど、意味がなあ…。姉ちゃんに知られたら笑われてしまうぞ…」
「(実は伍長もシスコンなのでは?)隊長の妹さんてそんなに美人なのかな」
「なんだ、知らねぇのか? 以前、写真を見せてもらったことがあるが、とんでもなく可愛くて美人だったぞ。ありゃ大隊長がシスコンになるのもわかるぜ」
「マジっすか。後で見せてもらえないかな」
「なら、1機でも多く駄犬をぶっ潰せ。そしたらご褒美で紹介してもらえるかも知れねぇぞ」
「よっしゃ!」
操縦席の梶原軍曹がニヤッと笑って一番若いティアニーに発破をかける。双眼鏡で敵情を観察していたユウキが砲塔内に滑り込んできた。
「シスコンブラザー1だ。全車聞こえるな。敵戦車の前衛部隊は要塞まで1km付近に接近している。だが、数は少ない。こいつらは要塞の対戦車砲に任せる。俺達の獲物は海岸の橋頭保に集結している本隊だ。双方の砲撃による爆煙が凄くてよく見えなかったが、ドアマースが前進を始めたようだ。砲撃準備…ん?」
ユウキは無線機のレシーバーを手に取って、大隊の全車に状況を説明していると、受信ランプが点灯した。
「西田だ。全戦車、砲撃少し待て。11師が航空攻撃をかけるそうだ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サマラス要塞前衛防御線で必死の防戦を展開している守備隊兵士達の背後から、榴弾砲の砲撃とは異なる轟音が聞こえてきた。音に気付いた守備兵の何人かが振り向くとサマラス山の稜線を掠めるように数機の双発機が現れ、あっと言う間に要塞守備隊の上空を飛び抜けた。双発機が通過した際に巻き上がった乱気流で飛ばされないよう、兵士達が塹壕の底に屈んで姿勢を低くし、ヘルメットを押さえる。
「晴嵐だ!」
「応援に来たのか!? だが…」
「あんな低空飛行じゃ、撃墜されるぞ!」
突然現れた大型攻撃機に守備兵は驚きの声を上げた。飛来した晴嵐は5機。高度100m程の低高度を山形の陣形を取って帝国軍の橋頭保目掛けて、真っすぐ突き進む。驚いたのは帝国軍側も同じであったが、橋頭保に設置された上陸部隊臨時司令部から迎撃の指示が飛び、装輪戦車の自衛兵器である13mm対空魔導銃が晴嵐目掛けて一斉に発射され、歩兵が魔導ライフルを撃ち上げる。しかし…。
「何故だ! 何故撃墜できん!?」
臨時司令部の仮設テントから飛び出した指揮官が晴嵐を見上げて叫んだ。編隊を維持して周回しながら上空を飛ぶ攻撃機を確実に魔導銃やは捉えている。しかし、魔導銃のマナエネルギーは機体に命中する直前、見えない障壁に弾かれたように青白い光を発して消失している。
「マ、マナシールドだ。あいつらマナシールドを展開してるぞ!?」
「射撃を1点に集中させろ! シールドを食い破れ!」
「だめです! 敵が速すぎます!!」
歩兵部隊の兵士の間から悲鳴にも似た声が上がり、狂騒状態になって魔導ライフルを晴嵐に向かって撃ち上げる。晴嵐は地上からの攻撃をものともせず、さらに高度を落として橋頭保の一角、歩兵部隊の集結地に接近した。攻撃機の接近に帝国兵は逃げようとしたが海岸の狭い範囲に数千人以上も密集している中では逃げることも出来ず、重い装備を背負ったまま、神に、母親に恋人に祈りながら身を伏せる。
突然、攻撃機の胴体下が白煙に覆われ、何頭もの猛牛が唸り声を上げたような音が響いた。帝国兵達が何の音かと考える間も無く、装備ごと体をズタズタに引き裂かれ、血飛沫を上げ、海岸全体を赤く染めるとともに、接岸した上陸用舟艇は兵員ごと、戦車や歩兵戦闘車も上から巨大な釘打ち機で叩かれたようにひしゃげ、エネルギー源の魔鉱石に含まれる高濃度のマナが誘爆して原型も無く砕け散った。
晴嵐の攻撃で帝国が築き上げた橋頭保は阿鼻叫喚の地獄と化した。補給のため飛行機械母艦に戻っていたフィンヴァラーが迎撃のために飛び立ったが、護衛戦闘機の疾風が突っ込んできたため、容易に晴嵐に近づけないでいる。
地上攻撃を行ったのは、特殊地上攻撃機「晴嵐改」。ネアス島駐在の第11師団が配備された晴嵐を改造した機体で、機体下部の防弾装甲の強化と、王国工業技術院が開発した航空機搭載用魔道防壁発生装置の試作品を取り寄せて搭載するとともに、武装は爆弾倉を改造して6連装20mm回転式機銃(4,800発/分)を機体下方に向けて3基2列の計6基装備したのが最大の特徴で、1分間に3万発近い20mm徹甲弾を敵に向けて発射して目標を制圧するガンシップ(局地制圧用攻撃機)である。
「大尉、ガトリングガンの残弾0、全部打ち尽くしましたぜ。下はまるで血の池地獄の様相っす!」
「よし! グロウ、全機に通信。右旋回急速上昇。戦場を離脱する!」
「了解、全機離脱を命じます(下は見ない。下は見ない。下は見ちゃダメ…)」
ガンシップ隊を指揮する鮎貝誠一大尉はラーチェル・グロウ少尉に全機帰還を命じると操縦桿を引いて上昇に転じた。地上から晴嵐改に向けて激しい対空砲火が上がって来るが、マナシールドが全て防いで被害が無い。攻撃に参加した5機は鮎貝機を先頭に一列縦隊の編隊を組んで高度を上げ、戦場を離れつつある。
「FV2機、戦闘機隊を突破! 下方より高速で接近中!!」
「下方機銃(13mm三連装回転式機銃)で迎撃しろ!」
「地上攻撃で撃ちまくって残弾ありませんっす!」
「一平のバカ!なんで自衛機銃を使っちゃうのよ!」
「対空機銃を黙らせろ、撃ちまくれって言ったの、アネゴっす」
「そうだったかしら」
「お前らなぁ…。晴嵐改は元の晴嵐より速度が遅いんだ。FVに捕まったら逃げられんぞ。全機、編隊維持解除。最大加速で何としてもFVを振り切れ!」
「何か前にもこんなことがあったような…。デジャヴ?」
グロウが何かを思い出して小首を傾げる中、鮎貝の命令を受けた各機は散開して退避行動に移る。鮎貝機は僚機の退避を援護するため最後尾に位置した。高速で接近してくるフィンヴァラーを観察していた高田一平兵曹は素っ頓狂な声を上げた。
「大尉、あいつら変ですぜ。魔導砲の射程に入っているのに撃ってきません。それに、ライフルじゃなくて、何か盾と長い槍…いや、長い柄の戦斧みたいな得物を持ってます」
「なに? 盾と戦斧だと…?」
「あっ、FV1機反転! 後方から接近する味方戦闘機に向かう!!」
盾と戦斧を持ったフィンヴァラーが背中の翼から青いマナの炎を噴射して、編隊の上に突き抜けると、反転降下しながら1機の晴嵐改に狙いを定めた。標的にされた晴嵐改は上部機銃を発射して攻撃するが、フィンヴァラーは盾で機銃弾を弾きながら接近し、機体を一回転させて反動をつけると戦斧を晴嵐改の左翼に叩きつけた。その瞬間、エンジンと翼が真っ二つに分断され、ぐらりと機体を傾け、真っ逆さまに落ちて地面に激突して爆発、炎上した。
「やだ、あんなのあり!?」
「くそッ、マナシールドに対する装備か!? 中世の騎士じゃあるまいし!」
晴嵐を撃墜したフィンヴァラーは空中静止して顔を鮎貝機に向けると、魔導機関を全開にして突撃してきた。
「来たぞ、回避運動に振り回されるなよ!」
「墜ちろ、墜ちろ、墜ちろーッ! もう、全部弾かr…キャアッ!」
グロウが上部機銃で攻撃するが、13mm機銃弾は全て盾で弾かれてしまう。接近したフィンヴァラーが主翼目掛けて戦斧を叩きつけて来たが、鮎貝は機体を強引に横転させて空振りさせ、振り回されたグロウがキャノピーに頭をぶつけて悲鳴を上げる。攻撃を外されたフィンヴァラーは姿勢を立て直すと再び鮎貝機を追って来ると、戦斧を振り回して攻撃してくる。ギリギリの攻防が続く戦いの最中、高田が普段の彼とは想像もできないような緊迫した声で叫んだ。
「大尉、ヤバいっす! 上陸したドアマースの一部が飛行場に向かってるっす!!」




