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大海の蜃気楼 ートリアイナ王国海戦記ー  作者: 出羽育造
第1章 灼熱の世界大戦
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第21話 ウォッゼ島沖海戦②

「艦長、アマテラスが目標を敵2番艦に変更しました!」

「アマテラスの被害はどうだ? 大分直撃弾を浴びたようだが…」

「見張員から報告あり。後部甲板に火災発生するも、後部第3、第4砲塔は無事。砲撃を再開したとのことです!」

「我が艦及びヘレナの砲撃、敵1番艦に直撃弾多数!」


「いいぞ。敵1番はブルドック野郎の座乗艦フェンリルだ。司令部はヤツの始末をヘレナとアリステアに任せたということだ。撃ち負けるな、連続斉射!」


  軽巡洋艦アリステアの艦長、ロバート・マッキャンベル大佐は、主砲の斉射による轟音と振動の中、艦橋でフェンリルの動きを凝視していた。艦橋直下のCICからは敵艦隊に対する攻撃情報が、見張員からは敵艦への着弾に伴う被害状況が入って来る。前甲板に装備された3連装3基の主砲から5秒おきに火焔が噴き出し、15.2センチ砲弾が敵艦目掛けて飛び出していく。


 アリステアはヘレナ級の2番艦で、基準排水量12,850トン、満載排水量18,270トン。武装は47口径15.2センチ3連装砲を5基15門を持つほか、対空兵装として8連装短SAM発射機1基、65口径10センチ単装速射砲4基、35ミリ4連装対空機関砲4基、また、副兵装として450ミリ誘導魚雷3連装発射筒を両舷に1基ずつ装備する艦隊随伴型の大型軽巡である。

 特に主砲1門当たりの発射速度は毎分12発。敵艦に対して5秒間隔で15発の15.2センチ砲を叩きつけることが可能な高性能砲である。15.2センチ砲は戦艦の40センチ砲や重巡洋艦の20.3センチ砲に比べると破壊力は劣るが、短時間で大量の砲弾を撃ち込むことができる。


 帝国が誇る魔導戦艦フェンリルの艦上に多数の爆炎が躍り、非装甲の艦上構造物を破壊するとともに激しい火災を起こさせる。先を進むヘレナの斉射と合わせ、30発の15.2センチ砲弾が時間差を置いて襲い掛かり、十数発は直撃弾となってフェンリルを痛めつけていく。


(中口径砲弾を多数浴びれば、如何に戦艦だとて相当の被害が生じるはず。撃沈できないまでも、戦闘不能に持ち込めれば…)


 マッキャンベルがそう考えて、双眼鏡をフェンリルに向けたとき、艦上に大口径魔導砲の発射光が輝いた。


「来るぞ!」


 艦橋の誰かが叫んだ。魔導カートリッジ弾の空気を斬り裂く飛翔音と15.2センチ砲の斉射音が交錯し、アリステアの周囲に魔導弾が着弾して爆発した。爆発の衝撃で海面が激しく波立ち、12,850トンの艦体を大きく動揺させる。


「くそ、アマテラスを2番艦に任せて、こっちを狙って来やがったか」


 魔導カートリッジ弾の威力は凄まじい。1発でも命中したら装甲の薄いアリステアは行動不能にさせられるだろう。爆圧で吹き上げられた海水が激しい水音を立て、滝のように降り注いで甲板上を急流のように流れて行き、兵達が流されまいと甲板の手摺りに必死にしがみ付いている。

 40秒ほどが経過したところで、再び斉射弾がアリステアの周囲に落下した。このうち1発が艦尾至近に着弾したらしく、尻を蹴とばされたように前にのめる。


「機関長、推進軸に異常はないか?」

「ありません!」

「航海長、舵に損傷はないか?」

「操舵室からは異常なしとの報告が届いてます!」


 現在のところ、敵の斉射弾は艦の周囲に落下しているだけだ。しかし、このままではいずれ命中弾を受けるだろう。その前にこちらの斉射弾を連続で浴びせ、行動不能に陥らさなければ勝機はない。


「臆するな! 中口径砲弾でも当て続ければ、戦艦と言えど、いずれ限界が来る。撃ち負けるな。砲術、連続斉射続行!!」

「砲術より艦長、連続斉射続行了解!」


 アリステアの主砲が更に吼え猛る。入れ替わるようにしてアリステアの周囲に弾着の水柱が吹き上がったと同時に、これまで経験したことのないような激しい衝撃がアリステアを揺るがした。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 帝国艦隊総旗艦、魔導戦艦フェンリルは王国戦艦アマテラスと2隻の軽巡洋艦からの砲撃で気息奄々の状態に陥っていた。アマテラスの主砲弾の直撃で3連装魔導砲5基のうち、後部4番、5番主砲と前部1番主砲が破壊され、戦闘力が40%に低下した。後部甲板に落下した砲弾は、4基ある魔導ジェネレーターの半数を爆砕し、速力が大幅に低下してしまっている。残った2基の主砲で反撃するが、こちらの魔導カートリッジ弾はアマテラスの強固な装甲を撃ち抜けず、直撃弾炸裂の爆炎を吹き飛ばして発砲してくる。

 さらに、前衛の軽巡2隻の砲撃で艦上の非装甲部が破壊されるとともに、全艦に及ぶ火災が発生し、被害を拡大させている。火災を消火しようにも数秒間隔で降り注ぐ数十発の砲弾の内、半数近くは確実にフェンリルを捉え、ダメコンチームを吹き飛ばして火災に近寄ることさえできない状態にいる。


「艦長、ダメです。敵巡洋艦の砲撃により、消火班はほぼ全滅。火災は拡大する一方です!」

「精製魔鉱石庫内温度急速上昇、爆発の危険があります!!」

「MWL(魔導波標定機)、魔導通信アンテナ破損、使用不能!」

「艦内負傷者多数、収容しきれません!!」


「動ける者を動員して消火と救助に当たれ。何としても火を消すんだ。魔鉱石庫注水!」

「艦長、アマテラスがニーズヘッグ(2番艦)に砲撃目標を変更した模様!」

「なにッ!?」


 ミュラー艦長が双眼鏡を向けると、アマテラスはニーズヘッグに向けて主砲を放っている。フェンリルとニーズヘッグの魔導弾を相当浴びているにも係わらず、戦闘力を失っていない事にも驚きだが、これであの恐るべき40センチ砲弾が飛んで来ることは無くなった。ミュラーは長官席に座るバルドーに声をかけた。


「長官、我が艦の目下の敵は、あの2隻の巡洋艦です。砲撃目標を変更します」


 バルドーの返答を待たずに砲術長を呼び出したミュラーは砲撃目標の変更を指示した。


「砲術長、敵巡洋艦を砲撃しろ。最も狙いやすい艦はどれだ」

「2番艦ですが、MWLが使用できない今、2基の主砲だけでは命中させることは困難です」

「それでもやるんだ。このままでは艦が焼き尽くされてしまう。帝国の誇るフェンリル級が巡洋艦ごときに敗北するという汚名を被ってもよいのか! 砲が1門でも残っている限り戦うんだ。光学照準で構わん。最初から斉射でいけ!!」

「艦長…。了解。目標を敵巡洋艦に変更します!」

 

 

 直後、艦橋直下に複数の15.2センチ砲弾が着弾し、一部は内部まで突入して爆発した。直撃弾の爆発によって艦橋を激しい振動が襲うと同時に爆炎が内部を明るく照らした。足を取られて転倒した者の悲鳴が上がる。慌てて首席参謀のリーツ大佐がバルドーの体を支えるが、バルドーはその手を払って仁王立ちする。その顔は火炎に赤く照らされ、地獄から現れた悪鬼のように恐ろしい表情をしている。


「トリアイナの猿共が…。絶対に許さん! ミュラー、あの小癪な巡洋艦を必ず沈めろ! 絶対に生かして返すな!!」


 バルドーの怒声に続いて生き残っている第2、第3砲塔が斉射を開始した。40センチ魔導カートリッジ弾6発が爆音を響かせて巡洋艦に向かって飛び出した。お返しとばかりにその倍する量の15.2センチ砲弾が着弾して艦上の火災を激しく揺らめかせ、飛び散った破片や外れ弾が艦の周囲に水柱を上げる。


「我が艦の砲撃、敵2番艦の右舷側に着弾。命中弾無し!」

「照準誤差修正、マイナス2度!」


 艦橋トップにある光学測距室からの照準データを元に砲撃角度を修正した第2、第3砲塔が第2斉射弾を放つ。入れ代わりに多数の敵弾が前甲板に着弾し、消火活動を行っていた兵員が爆炎に飲み込まれ、弾片に体を切り裂かれて悲鳴を上げる間もなく薙ぎ倒される。


「第2射 全弾近!」


 軽巡洋艦の手前に着弾した第2射は爆炎で姿を隠す。続けて放たれた第3射、第4射も敵艦から離れた海面に着弾する。MWLが使用できず、光学照準で行っているために撒布界が広い。15.2センチ砲弾の爆発で艦体を削られて行く中、砲術科員は弾着修正を行いながら必死に射弾を送り続ける。


(アマテラスに主砲3基を破壊されたとはいえ、軽巡洋艦ごとき、魔導戦艦の敵ではないと侮っていたが、これ程の強敵とは誰が想像しただろうか。この俺でさえ想定できなかった。中口径砲弾とはいえ、あれ程の速射性能を発揮されては反撃もままならず被害を拡大させていくだけだ。くそ、だからアマテラスはあの2隻にフェンリルを任せたのか…)


 首席参謀のリーツ大佐は艦橋の窓から火山の噴火のように主砲を発射している2隻の軽巡洋艦をギリッと歯を食いしばりながら見据えていた。フェンリルは敵2番艦を砲撃しているが有効打は中々出ず、カートリッジ弾をばら撒いているだけだ。

 甲板の火勢が一層強くなる中、第2、第3砲塔は斉射を続ける。そして、ついに敵2番艦を挟叉した。リーツは拳を握り締めて「よし!」と思わず声を出す。40秒後、第11斉射弾が大気を震わせて飛翔し、敵2番艦を囲むように落下して爆発したが、その中に直撃弾炸裂の赤い閃光が見えた。


 命中弾に艦橋内で歓声が上がった。リーツは双眼鏡で敵艦を見ると後部甲板からどす黒い煙が噴出している。この一撃で相当のダメージを受けたのか、砲撃は止み、速度は著しく低下して、よろめく様に離脱を図っているようだ。


「よし! 後1隻だ、艦長!!」

「わかっている。砲術長、目標を敵軽巡1番艦に変更!」

「了か…」


 唐突に激しい衝撃が艦橋を襲い、天井から破壊された鉄骨や配管が落下して悲鳴や怒号が響き渡った。リーツは咄嗟に長官席に駆け寄り、バルドーに覆い被さって落下物から身を守った。


「お怪我はありませんか、長官!」

「大丈夫だ、大佐。しかし、今のは…」

「敵弾が艦橋に直撃したようです。ウッ、か、艦長! ミュラー艦長!?」


 バルドーを長官席から降ろして立たせたリーツが振り返ると、ミュラーが床に倒れているのが見えた。慌てて駆け寄って抱き起すと右胸に鉄筋が突き刺さり、酷く出血していて息が荒い。


「誰か来てくれ! 艦長を医務室に!!」


 2、3人の兵が担架を取りに駆け出して行った。リーツは他の兵にミュラーを任せると大きな声で叫んだ。


「状況を確認して報告せよ! それと、副長を呼び出してくれ」

「副長は消火の指揮に向かったまま戻っていません。火災に巻き込まれて行方不明との目撃報告が上がってます」

「仕方ない。航海長、君が臨時指揮を取ってくれ。よろしいですね、長官」


 バルドーの了解を得て航海長に艦の指揮を任せたところに被害報告が上がって来た。それを聞いたリーツは絶句してしまった。敵弾は艦橋トップに着弾して砲術指揮所を破壊して、砲術長以下砲術要員を全滅させていたのだ。


「なんという事だ…。フェンリルは攻撃の手段を失ってしまった…クソッ!」


 艦橋の窓に駆け寄って前甲板を見ると第2、第3主砲が右舷を向いたまま沈黙している。リーツは敵軽巡の砲撃が止んだ事に気付いた。恐らくフェンリルが戦闘不能になったことから攻撃目標を変更したのだろうと推測した。リーツはバルドーに向かって叫んだ。


「長官、今がチャンスです。機関が動くうちに戦線を離脱しましょう!」

「離脱だと…?」

「そうです。フェンリルは戦闘不能となり、第1、第2魔導ジェネレーターも破壊されて速力も20ノットがやっとです。ミュラー艦長も負傷した今、これ以上ここに留まっていても艦隊指揮は取れません。撃沈させられる前に離脱するべきです」

「バカな! オレは逃げん! 他の健在艦に旗艦を移す。移乗用の突撃艦を呼べ!」

「無理です。突撃艦隊は敵水雷戦隊との戦闘に拘束されています」

「呼べ。これは命令だ!」

「無理だと申し上げています! 長官、ここで離脱するのは恥ではありません。トリアイナとの戦争はここで終わりではありません。生還すれば再戦の機会があります。長官、どうかご決断を!」


 顔を紅潮させ、鬼の形相をしたバルドーとリーツが睨み合う。艦橋にいた者達は言葉も発せず成り行きを見守っている。長い沈黙の後、口を開いたのはバルドーだった。


「…わかった。貴官の言う通りだ。艦隊の指揮は次席のフェルナーに任せる。リーツ大佐、直ちに戦艦ベストラに魔導通信を送れ」

「ハッ! 通信士、ベストラのフェルナー少将に艦隊指揮権を移譲するとの通信を送れ!」


 通信室に向かったリーツがフェルナー少将と話ている間、バルドーは艦の指揮を執っている航海長に指示を出した。


「航海長、面舵一杯。敵艦隊から離れる」

「了解。操舵室、面舵一杯!」

「機関室、出しうる速度を知らせ」


 機関室から第3、第4魔導ジェネレーターの出力が低下しており、16ノットが限界との報告が上げられた。バルドーは舌打ちして機関出力の回復に努めるよう命令する。フェンリルをは速度を大幅に減じながらも、大きく右に回頭して戦列から離脱を始めた。


 フェルナー少将への指揮権移譲が済んだ事をバルドーに報告するよう通信士官に指示したリーツは艦の現状を確認しようと艦橋から甲板に出た。怒号を上げて必死に消火活動を行う兵士や負傷者を運ぶ兵士が大勢行き交う中、アマテラスや軽巡洋艦の砲撃で爆砕された3連装主砲や構造物の破片等を避けながら、後部甲板最後尾まで行くとトリアイナ艦隊と激しい砲撃戦を繰り広げている帝国艦隊の姿が目に映った。どちらが優勢なのかはわからない。味方艦の周囲に水柱が林立し、直撃弾の爆炎が躍り、破壊された砲身や構造物の破片が落ちて水飛沫を上げる。


 被弾した艦は大きく傷つき、戦闘力を奪われるが、稼働可能な砲で反撃する。舷側の手すりを握り締めてリーツが味方艦の戦いを見ていると、戦艦ニーズヘッグの機関部付近に複数の直撃弾命中の閃光が輝いた。直後、大爆発を起こして船尾が吹き飛んだ。破壊された部分から大量の海水が流入したニーズヘッグは船首を海面高く上げ、海中に飲み込まれて行く。ニーズヘッグが轟沈する様子を呆然と見ていたリーツの視界に、敵軽巡洋艦が白波を立てて高速接近してくるのが入った。


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