第19話 空母艦隊の危機②
「何機上がったか判るか!?」
「10機は発艦したと思いますが…」
「周囲には何機いる?」
「お待ちください…。十数機は見えますね」
「味方機を集めろ。後方の敵艦を攻撃する」
「了解、集合信号を出します!」
空母伊吹を発艦したアステラスの操縦桿を握る攻撃隊長ジャック・ローザス少佐は後席のレーダー・爆撃員のスティーブン・マーキス少尉に指示を出した後、周囲を見回した。敵の接近前に発艦に成功した艦載機が集合信号を受けて集まってきた。ローザス機の左舷に伊吹の機体番号を付けたアステラス8機が並び、右舷に鞍馬の機体番号を付けたアステラスが9機が接近して来る。
「こちら、鞍馬攻撃隊の臨時指揮をとっている、シャロン・アシュリー中尉です。伊吹隊への同行を許可願います」
「同行を許可する。今入った情報によると、鞍馬は敵の自爆攻撃で大破、航行不能となったそうだ。アシュリー中尉、母艦の仇を取れ。鞍馬隊の活躍を期待するぞ」
「ハッ! 必ずご期待に添えて見せます!!」
ローザスは眼下に迫る敵艦隊を見た。戦艦3隻、空母2隻、巡航艦6隻、突撃艦12隻の堂々とした艦隊だ。それが複縦陣を組んで航行している。自艦隊との距離は約20km、戦艦の魔導砲の射程に入っているはずだが、人型が攻撃を続けているため、味方を巻き込まないよう、砲撃を控えているのは幸いだが、空母艦隊は人型の攻撃によって足が止まっている。帝国艦隊は十分に接近してから人型を退避させ、砲撃で止めを刺すつもりなのだろう。
「少佐、先頭の戦艦はワーグ級です」
「ほう、帝国ご自慢の高速戦艦のお出ましか。なら、こいつらは第6艦隊だ。確か旗艦がワーグ級のスコルだったはずだ。フェンリルほどじゃないがこいつも最高の獲物だぜ。マーキス、周囲に人型は見えるか?」
「いいえ、どうやら全機味方艦の攻撃に夢中になってるようです」
「よし、殺るなら今だな。アシュリー中尉、聞こえるか」
「はい、少佐」
「戦艦3隻は鞍馬隊に任す。俺たちは空母を叩く」
「…! ありがとうございます。奴らのケツ穴を思い切り蹴飛ばしてやります!!」
「思い切りやれ。伊吹隊、鞍馬隊、全機高度6千に上昇!!」
17機のアステラスは2隊に別れ、ターボプロップエンジンを全開にして上昇を始め、高度6千で水平飛行に移り、それぞれの目標に向かった。しかし、目標上空に達したところで激しい対空砲火が襲ってきた。魔導砲の爆発による衝撃波が機体を振動させる。
「少佐、対空砲です!」
「慌てるな、各機に通信。恐れずに突っ込めとな」
「了解!」
「伊吹隊全機聞こえるか。奴ら、空母に古代の女神の名をつけるそうだ。女神のアソコに俺らがキツイ一発をくれてやろうじゃないか。デニング中尉、6番から8番を指揮して手前の空母をやれ。俺は2番から4番と一緒に奥の空母をやる」
「了解、腹に抱えた自慢のイチモツをぶち込んでヒィヒィ言わせてやりますぜ!」
「おっ勃てたまま墜とされるなよ。全機突撃!」
「おうっ!!」
伊吹隊のアステラス8機は敵空母を攻撃すべく、4機ずつの斜め単横陣を組んだ。敵空母とそれを護衛する巡航艦や突撃艦が激しく対空砲を撃ちあげてくる。極至近で爆発するものもあるが、撃墜された機は無く、全機敵空母の直上に達し、投下準備が完了したとマーキスが報告してきた。ローザスは頷くと大音声で無線機のレシーバーに叫んだ。
「タペータム、投下!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「鞍馬隊、追いてきてるわね。敵は大物よ、確実に仕留めるわよ。1番から4番はスコルを叩く。テイラー少尉、あなたは9番までを率いて残りの2隻を攻撃して」
「了解! ビッグなイチモツを中尉にぶち込め無いのは残念ですが、ヴァナヘイムのクソ野郎の奥まで突き入れて、いい夢見させてやりますぜ!」
「アンタのしょぼチンなんかお断りよ。ワーグ級は速度は速いけど装甲は薄い。一発でも命中すれば昇天間違いなしよ。本郷兵曹長、目標は敵1番艦、操縦は任せるわよ」
「了解です!」
9機のアステラスは、高度6千を維持して目標に接近した。機体の周囲に対空砲の爆発光がいくつも輝き、爆風で機体を揺らすが墜とされる機体はない。
「中尉、間もなく目標上空です」
「全機爆弾倉開け。タペータム起動!」
「目標上空!」
「投下!」
爆弾倉の懸架装置から切り離された重量950kg、作薬量375kgの徹甲爆弾タペータムSAは落下と同時に弾頭を下に向け、装備されたテレビカメラで映した映像を送ってきた。アシュリーは映像から目標艦の命中位置にシンボルマークを合わせた。爆弾投下に気づいた敵艦は回避運動を始めたようだが、タペータムからは逃げられない。後続するアステラスもタペータムを投下したようだ。アシュリーは無線通信機のレシーバーを手にした。
「全機、対空砲の射程外に離脱。離脱後はマルティア基地に向かえ。これは司令部からの命令よ。燃料はギリギリ持つはず。各機の無事を祈る」
レシーバーを置いたアシュリーは機内通話で操縦席の本郷に命令した。
「本郷、私達はこのまま敵情偵察を行う」
「了解。一旦上昇して対空砲の射程外に逃れてから敵艦隊の最後尾に回り込みます。しかし、敵艦隊を追尾するとマルティアまでの燃料が足りなくなりますが」
「その時は健在な空母かネアス基地に向かう。あっ、1番艦に全弾命中!2番艦、3番艦にも2発ずつ命中したわ。後続の空母2隻も大火災を起こしてる。ザマミロ、バーカ!」
本郷は上昇して対空砲の射程外に逃げるため、操縦桿を手前に引いてエンジンスロットルを全開にした。対空魔導弾の爆発による衝撃波が直接機体に襲い掛かる。機内通話機からアシュリーの弾んだ声が聞こえて来るが本郷には答える余裕がない。もし対空砲が命中すれば木っ端微塵に砕け散ってしまう。
高度7千まで上昇したところで敵の猛射が散発的になり、やがて止まった。本郷は水平飛行に移して海面を見ると、数条の立ち昇る黒煙を認めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第6艦隊旗艦スコルの艦橋で、司令官ヘルマン・フックス中将は呆然と乗艦が大破炎上する様子を眺めていた。直ぐ側では艦長のエーリヒ・サーグラス大佐が総員退艦を大声で命じている。
(何故だ…。我々は勝っていたはずだ。それなのに何故、戦艦も飛行機械母艦も燃えている? 飛行機械隊で敵艦隊への奇襲には成功した。後は我が戦艦部隊の魔導砲で沈めるだけだった。それなのに…)
トリアイナの飛行機械が投下した爆弾は回避運動を取ったスコルを獲物を狙う猛獣のように追尾して命中した。爆弾は前部主砲塔の厚い天蓋を貫いて艦底まで到達して爆発し、魔導砲のエネルギー弾を誘爆させて砲塔を吹き飛ばすとともに、艦底部に回復不能の損傷を与えた。また、後部機関部に命中した爆弾は魔導エネルギー変換炉を破壊した。爆発エネルギーは上甲板から舷側まで破壊し、舷側の亀裂部から大量の海水が艦内に轟々と音を立てて流入し始めた。
「司令官、スコルはもう間もなく沈みます。急ぎ退艦願います。巡航艦ゲイランゲルに移乗してください」
サーグラス艦長が退艦するよう声を掛けるが、フックスは首を振った。
「私はいい。勝利を前にして皇帝から授かった艦隊を失ったのは私の失態だ。この責任は取らんばならん。艦長こそ早く退艦したまえ」
「司令、我が方は戦艦、飛行機械母艦こそ失いましたが巡航艦隊、突撃戦隊は健在です。それに、アルビオン隊は敵空母を2隻撃沈し、2隻を大中破させて航空隊を壊滅させました。我々は勝利したのです。さあ、早く退艦を!」
「果たしてこれは勝利と言えるものなのだろうか。航空隊を失ったのは我々も同じだ。母艦を沈められた今、フィンヴァラーもアルビオンも帰る場所を失ったのだからな…」
既に艦橋にはフックスとサーグラスの2人だけとなった。これ以上の説得は無理と判断したサーグラスはサッと敬礼すると艦橋を出て行った。
艦橋の窓からは横転沈没する戦艦フェニヤと爆沈する戦艦メニヤが見える。艦の奥底からは何かが破壊されたような、不気味な音と振動が伝わってきて、徐々に傾斜が大きくなり、艦橋にも海水が入ってきた。フックスは羅針台につかまりながら、懐から煙草を取り出すと、20歳の時に軍に入ったお祝いとして祖父から送られたお気に入りのライターで火を着け、紫煙を肺いっぱい吸い込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第6艦隊第601巡航艦隊に所属する巡航艦エルムトに移乗したサーグラス大佐は舷側から沈みゆくスコルに敬礼を送っていた。艦隊は溺者救助を行う突撃艦3隻を残して単縦陣を組むと速力を上げてトリアイナの空母艦隊目指して航行を始めた。艦隊司令のヘルムート少将は、残った艦隊で任務を果たすつもりなのだろう。しかし、自分には何もできることはない。サーグラスは嘆息して先頭を進む旗艦ゲイランゲルを見た。突然、何の前触れもなくゲイランゲルの左舷に火焔と共に高々と水柱が吹き上がり、傾斜して行き足がとまった。さらに2本目の水柱が上がる。
「魚雷だ!」
「潜水艦だ、トリアイナの潜水艦がいるぞ!!」
誰かが大声で叫んだ。ゲイランゲルに後続する巡航艦にも魚雷命中の水柱が上がり、エルムトは回避運動のため左舷に急速転舵したが、左舷後部、第3砲塔がある付近から突き上げるような衝撃が襲い掛かり、サーグラスを始め甲板上にいた者は全員よろめき、投げ出されて転倒して悲鳴が上がった。さらに艦橋直下に2本目の魚体が命中して激しい衝撃に続いて水柱が上った。サーグラスは全身に海水を浴びながら舷側の手摺につかまって魚雷の命中箇所を見ると、艦腹が数メートルにわたって裂け、そこから轟々と海水が流入している。急激に傾きを増す艦の手摺にしがみ付きながらサーグラスは行動不能に陥った巡航艦を見て呟いた。
「この命中率…。トリアイナの誘導魚雷か。くそ、潜水艦の存在を失念するとは…」
今度は艦の後方から爆発音が連続して聞こえてきた。振り向くと複数の突撃艦に水柱が吹きあがっている。次の瞬間、海水の流入に耐えきれなくなったエルムトは轟音を立てて横転した。その衝撃でサーグラスは海中に投げ出され、発生した渦によって海中深くに飲み込まれてしまった。意識が途切れる瞬間、脳裏に浮かんだのはスコルと共に沈んだフックス司令の顔だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「巡航艦3、突撃艦5に魚雷命中。誘導魚雷12本発射して命中率7割弱か、射程一杯で発射したにしてはまあまあだな。残りの艦は、我が方の空母艦隊への攻撃を諦めて撤退を始めたようだ」
潜望鏡を下ろしながら、カーランツ級潜水艦スティングレーの艦長、ロバート・マッキャンベル少佐は操縦室の全員に話しかけた。聞いていた乗組員は腕を振り上げて歓声を上げた。
スティングレーは本国の潜水艦隊司令部からネアス島周辺の哨戒を命じられ、島の北西海域を哨戒していたところ、偶然帝国第6艦隊の航走音をキャッチして追ってきたのであった。通常なら速度の遅い潜水艦は水上艦に追い付くことは出来ないが、味方空母を攻撃するため、人型を発艦させた後、艦隊速度を落としたため、何とか魚雷の最大射程に捉える事ができたのだった。
「魚雷はまだ1斉射分残っているな。よし、引き続き哨戒行動に移る。潜航、深度200。方位178度、面舵一杯」
「了解、深度200。バラストタンク注水」
「潜舵下げ、面舵」
スティングレーは、再び獲物を求めて静かに潜航を始め、深海に消えて行った。
空母艦隊を率いる角田少将は高城艦長らとCDCから艦橋に上がり、自艦隊の惨状に嘆息した。敵航空隊及び艦隊の姿は消えたが、フィンヴァラーとアルビオンの攻撃によって空母鞍馬とペガサス、パトロクロスは海面下に消え、飛騨は飛行甲板を破壊され火災を起こしているほか、艦橋を爆砕されて艦長以下艦の主要乗組員全員が戦死したため、機関長が艦の指揮を取っている状態だ。穂高と伊吹は機関は無事だが飛行甲板を損傷した上、魔力切れとなったフィンヴァラーやアルビオンが強行着艦したために酷い有様となっている。
なお、発艦した疾風やアステラスは一部はマルティア基地またはネアス島の飛行場に向かったものの、燃料切れの機体は着水して搭乗員は駆逐艦に拾い上げられている。
「司令、溺者救助及び飛騨の退艦作業はあと1時間程で終わる見込みです。また、本艦及び伊吹に着艦した人型の搭乗員は全て捕虜として収容しております」
「そうか、第5艦隊司令部は何と言って来た?」
「は…。空母戦隊は救助作業を終了後、飛騨を海没処分してマルティア基地に帰投せよとの事です」
作戦参謀のハワード・タイラー中佐の報告に角田は頷き、艦橋の窓から遠く水平線に目を向けた。
(間もなく戦艦同士の艦隊戦が始まる…。我が航空隊が敵戦力を漸減できていれば…。俺の判断ミスだ。長官、申し訳ありません。どうか御武運を…)




