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大海の蜃気楼 ートリアイナ王国海戦記ー  作者: 出羽育造
第1章 灼熱の世界大戦
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第18話 空母艦隊の危機①

 空母穂高の2km後方に位置する伊吹の甲板上では甲板作業員が必死で艦上攻撃機アステラスの発艦作業を行っていた。


「ベイツ、発艦はどのくらい進んだ!」

「残りあと14機です!」


 伊吹飛行長のスコット・アルトマン中佐が艦橋下部のデッキから甲板で発艦作業を監督していたアンドリュー・ベイツ大尉に声をかけた。伊吹はバルドー艦隊攻撃のため、飛行甲板にタペータムSA(重量950kg)を搭載したアステラス36機を上げて、今まさに発艦しようとしていたところに襲撃を受けたのであった。


 艦隊後方上空では直掩戦闘機と穂高及び鞍馬から発艦できた戦闘機が奮戦しているが、敵の数が多く、突破を許してしまっている。そして、敵の一部が艦隊後方に位置する軽空母ペガサスとパトロクロスに迫り、同艦と護衛の重巡アスカ、ラングレーから対空誘導弾と対空砲が発射された音が伊吹にまで聞こえてきた。もう発艦退避は間に合わない。アルトマンは艦内電話で艦長の山野三郎大佐を呼び出した。


「艦長、飛行甲板に残った機体の発艦は間に合いません。艦内収容も時間がかかって無理です。海中投棄の許可をお願いします!」

「司令官からの通達もあった。海中投棄を許可する」


 アルトマンは電話を叩きつけるように置くと、高声令達器の音量を最大にして叫び、ベイツ少佐は甲板作業員に激を飛ばす。


「艦載機発艦中止、繰り返す。艦載機は発艦中止だ! パイロットは機体から降りて艦内に退避しろ! 甲板作業員はタペータムごとアステラスを海中投棄せよ。急げ、敵はもうすぐ来るぞ!!」

「野郎ども、ここが踏ん張りどころだ! 機体を艦尾から1機ずつ落としていくんだ。間違っても腹の子供を落としたり、飛行甲板に引っ掛けたりすんじゃねえぞ。かかれ!」


 搭乗員はアステラスのエンジンを止め、コクピットから飛び降りて艦内に通じる扉目掛けて走り出した。甲板作業員は周囲の安全を確保しつつ、最後尾の機体に取り付き、飛行甲板の端に押し出して海中に投棄すると、すぐさま次の機体にとりかかる。そして、3機目となった時、艦橋後部に設置されていた対空誘導弾のキャニスターが回転し、誘導弾が白煙を噴いて次々に飛び出し、両舷に設置されている10センチ連装高角砲が2秒ごとに火焔を吐き出し、35mm高射機関砲が迫る敵目がけて射撃を始めた。


「くそ、もう少しってところで…」

「諦めるな! 死にたくなけりゃ1機でも多く海に落とせ!!

「兵曹長、敵が!?」


 飛行甲板で作業をする兵たちの視線の先に、大口径魔導砲を抱えた人型重武装飛行機械アルビオンの姿があった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「敵戦闘機は少数だ。そいつらはFVフィンヴァラーに任せて突っ切れ! 目標は敵飛行機械母艦のみ。敵を飛び立だせるな! 甲板上の飛行機械を破壊すれば母艦も吹っ飛ぶ! 敵の対空砲火を恐れるな。恐れるのは己の怯懦のみ!!」

「了解!」


 ヴァナヘイム帝国第6艦隊の3隻の飛行機械母艦から飛び立った120機の攻撃隊を指揮する編隊長は目の前に姿を現した特大の獲物を前にして全機に向かって檄を飛ばした。


(これは千載一遇のチャンスだ。何としても忌々しいトリアイナの飛行機械母艦を叩く!)


 向かってきた敵の直掩戦闘機(18機)をフィンヴァラーの編隊が迎え撃ち、アルビオンの編隊は敵母艦目掛けて突き進む。


「目標を指示する。最後尾の小型母艦は第4中隊、後衛10時の位置にある大型母艦は第2、第3中隊、2時の位置にある大型空母は第1中隊だ! 全機突撃!!」


 飛行甲板には発艦できていない飛行機械が残っている。あの中に魔導砲を打ち込めばそれで終りだ。編隊長は勝利を確信してほくそ笑んだ。

 しかし、敵も黙ってはいなかった。敵艦からロケットが発射され、白煙を引いてアルビオン編隊に向かって飛んできた。


 発射されたのは個艦防空用短SAM(艦対空ミサイル)シーファイア。王国防衛技術局が開発した最新の防空兵器で、全長4m、直径35cm、射程15km、目標に対して発射されたレーダー波の反射波を利用して追尾誘導を行うセミアクティブレーダーホーミングミサイルである。


 狙われたアルビオン中隊は一斉に散開したが、音速を超えるシーファイアからは逃げ切ることが出来ず、次々に直撃を受けて撃墜されていった。


「クソッ、何だコイツはッ!?」


 思わぬ反撃に驚いた編隊長だったが、自機に迫るミサイルに気付くと、操縦桿とフットペダルを激しく操作して機体を強引に横転させてギリギリのところで躱し、旋回して向かってくるミサイルに魔導砲を連射した。魔導弾の雨を掻い潜ってミサイルが迫る。機体に命中する寸前、魔導弾が弾頭を吹き飛ばして爆発させた。安堵の息を吐いてモニターを見ると中隊各機が遮二無二敵空母目掛けて突っ込んで行く様子が映っていた。


 あともう少しで魔導砲の射程に入るというとき、空母の舷側等に装備されている高角砲や機関砲が火を噴いた。特に高角砲は魔法でも使っているのかと思うくらい命中率が高く、1機、また1機と機体を爆砕され、高角砲の射角を躱して突入を図ろうとしたアルビオンには35mm機関砲弾が雨のように浴びせられて、機体の各部を撃ち抜かれ、海面に叩きつけられる。

 激しい対空砲火に接近を阻まれるアルビオン中隊だったが、編隊長はあることに気が付いた。


(むっ!? 舷側より下は砲火が届いてない。接近するならあそこしかない!)


 編隊長は一気に機体を海面すれすれまで下降させ、魔導エンジンを全開にして敵空母目掛けて飛んだ。接近に気づいた35mm対空砲が向けられるが、弾は全て機体の上を飛び去って遠く海面を掃射しただけだった。全速で航行する敵空母の航跡波の波飛沫を浴びながら飛行を続け、ついに敵空母まで100mの距離に迫った。


「よし、ここだ!」


 操縦桿をめいっぱい手前に引き、肩部のスラスターから海面向かってマナを噴射させて強引に機体を立て直して上昇した。舷側の対空砲を魔導砲で薙ぎ払って敵空母の飛行甲板より高い位置で空中静止すると、魔導砲とともに肩部及び脚部に装備された魔導噴進弾のカバーを開いた。モニターには飛行機械の周りで驚愕の表情でアルビオンを見上げている兵達が映っている。編隊長はニヤリと笑みを浮かべ、発射レバーに手をかけた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「味方機は見えるか!?」

「いいえ、ですが鞍馬から発艦したアステラス数機が後方に向かっています」

「仕方ない、鞍馬隊に合流するぞ」


 伊吹から飛び上がった最後の艦上攻撃機であるアステラス14号機の機長相沢悠馬准尉は、後部座席のマリア・アーカム兵曹にそう告げてスロットルレバーを開き、エンジン出力を上げると操縦桿を左に倒した。旋回中に母艦である伊吹が視界に入ったが、残りの機体の発艦を諦めたのか、アステラスを海中投棄するため、甲板作業員が機体に取り付いているのが見えた。


 周囲では空母を攻撃せんとするフィンヴァラーやアルビオンと、それを阻止せんとする烈風が激しい空中戦を展開し、烈風の攻撃を突破したアルビオンに向かって味方艦の対空機関砲が火を噴き、眼前に無数の青白い曳光弾が突き上がって来る。急いで離脱しないと味方の対空砲に撃ち落とされる危険がある。


「不味いな。味方艦の対空砲火が激しすぎる。上昇するのは危険だ」

「右舷の駆逐艦の間を抜けてはどうでしょうか。そこなら味方の対空砲に撃ち落とされる心配は無いように見えます」


 確かに駆逐艦は空母への援護射撃を行っており、艦の間を低空で抜けるのが安全そうだ。相沢は機体を緩降下させながら右に舵を切った。その時、マリアが甲高い声で叫んだ。


「右上方敵機!!」

「なにッ!?」


 相沢が振り向くとフィンヴァラーが高速で突っ込みながら魔導ライフル砲を撃ってきた。避ける間もなく魔導光弾が撃ち込まれ、激しい衝撃と共に血飛沫がコクピット内に散った。短い悲鳴を上げ、真っ赤に染まる視界で自分の体を見る。


(くそ…、頭は掠っただけだが、腹をぶち抜かれちまった…。致命傷だな、こりゃ)


「マリア…、マリア、無事…か?」

「はあ…はあ…げほっ。ぶ、無事じゃ…ない…。はは、お腹が血だらけ…です…」

「そうか、オレもだ」


 フィンヴァラーの放った魔導光弾はアステラスのエンジンからコクピットを薙ぎ払い、エンジンに火を噴かせた上、乗員に致命傷を負わせたのだ。フィンヴァラーは止めを刺すべく魔導ライフル砲を構えたが、味方機の危機に気づいた駆逐艦からの12.7cm砲弾と35mm機関砲弾が命中して爆散した。


「敵機…爆発…。げほっ…」

「…了解、頑張れ」


(ちくようめ、目が霞みやがる…。だが、このままじゃ死なねぇぞ)


 相沢は不安定ながらも飛行を続けるアステラスの操縦桿を引くとエンジンから煙と炎を激しく噴き出しながらも上昇を始めた。破壊され、血で塗られた風防の限られた視界から下を見ると、母艦伊吹の左舷に砲火を向けようとしているアルビオンがいる。相沢は血だらけの顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべると、操縦桿を押し下げ、スロットルを開いてアステラスを加速させた。


「マリア、オレ達はもう助からん…げほっ。だが、ただでは死なん…。この機体を敵にぶつける。わりぃな、道連れにしちまうが…。マリア、マリ…ア?」


 後席からは何の返事もない。相沢は口から血を吐きながら一瞬だけ瞑目した。


「先に逝っちまったか…。だが、絶対に無駄死にはさせねぇぞ! 死ね、ヴァナヘイムのクソ野郎ども! うぉおおおおおおっ!!」


 相沢は最後の力を振り絞って操縦桿を握り締め、炎の塊となったアステラスをアルビオンに向けて突進させた。風圧でコクピットの下から猛烈な炎が噴き上がり相沢の体を焼き尽くす。しかし、操縦桿を握る手だけは相沢の魂が宿ったように最後まで離れなかった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 空母伊吹に接近を果たしたアルビオン隊の編隊長は勝ち誇った顔で魔導砲及び魔導噴進弾の発射レバーを握った。飛行甲板上の飛行機械に命中すれば、連鎖爆発を引き起こして火達磨になるだろう。


「終りだ、トリアイナの猿ども!!」

「編隊長、上方敵機!」

「なにッ!?」


 突然割り込んできた部下の通信に上部映像モニターを見ると、炎に包まれた飛行機械が目前に迫っているではないか。魔導砲の発射を止め、回避しようと操縦桿を引いて魔導エンジンの出力を最大にしたが、機体が加速する前に炎の塊が突っ込んできた。


「うわぁああああーーッ!!」


 編隊長は大きく目を見開いて絶叫する。アステラスはアルビオンに正面から激突し、コクピットを押し潰しながら砕け散った。同時に搭載してきたタペータムとアルビオンの高純度精製魔鉱石のマナエネルギーも衝撃で大爆発を起こして木っ端微塵に吹き飛んだ。


 この様子を呆然と見ていた伊吹の甲板作業員たちだったが、間近で起こった爆発の熱風と衝撃波が後部飛行甲板を襲い投棄予定のアステラス共々作業員を吹き飛ばした。甲板上に残っていたアステラスは10機ほどだったが爆風で全ての機体が海まで吹き飛ばされ、甲板作業員のうち運の良い者は飛行甲板下の張り出しデッキに落ちたが、ほとんどの者は爆風で致命傷を負い、海面上に叩き落とされてアステラスと一緒に沈んでいった。


 艦橋下のデッキで海中投棄の指揮を執っていたアルトマン中佐は爆風で艦橋の壁に叩きつけられ、一瞬気を失っていたが、目を覚ました後、痛む体を引きずりながらデッキの手摺に寄りかかって体を起こすと後部飛行甲板の惨状に驚いて言葉を失った。我に返ったアルトマンは艦橋への出入口を開け、中にある艦内電話を手にした。


「後部飛行甲板に火災発生! 負傷者多数! ダメージコントロールチーム及び救護チームは後部飛行甲板へ!!」


 ダメコンチームに連絡した後、CDCへの接続ボタンを押した。


「か…艦長。艦の至近に出現したアルビオンに味方機が突入して爆発しました! 後部飛行甲板に残っていたアステラスと作業員数十名が爆風で海面に吹き飛ばされ、負傷者も多数出ています。また、アルビオンのマナ鉱石が激しく燃えながら落下して火災を起こしてます!!」


 その時、伊吹の後方及び左舷から激しい爆発音が聞こえた。アルトマンはわななく声で音の正体について報告する。


「パトロクロス大傾斜。沈みます! ペガサス及びラングレー大火災。行き足止まりました。また、鞍馬の前部甲板にアルビオンが突入して爆発しました!!」


 報告を終えたアルトマンは艦内電話機を叩きつけるようにフックに掛けると、デッキに出て周囲を見回した。伊吹の後部飛行甲板ではダメコンチームが消火活動を行い、消火の終わった場所から応急復旧の作業が進められている。


 しかし、艦隊の守護神であった軽空母パトロクロスは飛行甲板を傾斜させて沈みかかっており、ペガサスと護衛のラングレーはアルビオンの猛攻を受けて全艦に及ぶ火災を起こしている。さらに、それまで被弾しなかった鞍馬の前部飛行甲板に被弾したアルビオンが突入して爆発。艦の前部を吹き飛ばされて行き足が止まってしまった。


 上空では発艦に成功した烈風とフィンヴァラーが激しい空戦を行い、対空砲火を突破したアルビオンが空母目掛けて魔導砲を放つ。艦隊の後方からは帝国艦隊も近づいて来る。角田少将の率いる空母艦隊は絶体絶命の危機に陥ったのであった。


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